第3話 解答と回答。
「何故そう思ったのかと聞いてもいいかい?」
俺がそう感じた理由が全く分からないらしいリルアは少し俯きながらも俺にそう問いかけてきた。
確かに普通の奴ならあまり気にしないことでも気にしてしまう俺だからこそ分かったことだ。
「何故って言われてもな。確かに君の剣技は達人級だ。しかし、どんな達人も剣を持っていなければ無意味だろう?」
「何が言いたいんだい?探偵さん?」
少し遠回しな言い方をしてみた俺にリルアはそう問いかけた。
剣を持っていなければどんな剣技も武器になり得ない。
そして思い返してみれば彼女が最初に現場に向かった時、確かに剣を席に置いてきていた。
しかし、俺が襲われたときには剣を持って現場に現れた。
「犯人が誰か分かっていない奴が剣を取りに席に戻る理由もないだろう。」
少し納得のいったような顔でリルアは俺を見つめている。
「まさか街中の酒場で襲われる訳もないからな、普通は。恐らく君は途中でアーランが犯人だと勘づいて、彼の性格上戦闘は避けられないと踏んだ。違うか?」
全くもって異世界に来てからの探偵業?が染み付いていると言える。
何せ、そんなどうでもいいことばかり記憶してしまうのだから。
「そうだね…。うん、その通りだよ。その点では君より注意力が高いと言えるかな?」
悔しいがその通りだ。
そして恐らくリルアは直感で犯人を言い当てた。いや、この場合は感じ当てたことになるのかもしれないが。
そして、その直感は死線を何度も潜り抜けているからこそ実現する達人のそれだ。
「では、こちらからも質問だよ探偵さん。私は君の能力が「過去」または「記憶」にまつわる物だと予想している。読心能力というのも考えたが、それなら購入の仔細などは読み取れないだろうからね。いくら日常の中でずっと探偵で居たとしても知り得ない情報が多すぎるよ。」
俺の常套句を一蹴すると同時にここまで能力に迫ってくるとは。
その、「揚げ足とってやったり」という顔さえ出なければ尚良しなんだがね。
そして、リルアは話を続ける。
「君の異能は物や人に手をかざすことで成立する。しかし、君は能力を使う前から犯人に気づいていたね?後学のためにその理由を知っておきたいのだけれど。」
俺はどうやらまだ彼女を過小評価していたらしい。
彼女の観察眼は評価を改めるべきだな。
「ふふっ…やっと少し驚いた顔をしたね。なぜ気がついたか、理由を知りたいかい?」
「あぁ。こちらも後学のために聞いておこう。」
「君の立ち位置さ。サンドラやコルトに背を向けることがあっても、アーランにだけは明らかに背を向けなかった。もしやと思って聞いてみた甲斐があったよ。」
「なるほどな。」
カマをかけるとは全くもって抜け目ない女だ。
俺だって別に意識していた訳ではないが、人間誰しも敵意を持つ人間には背を向けたくない。
本能的な行動から見抜かれたということか。
さすがにあれだけの剣技を可能にする武人の観察眼と言った所だ。
うん。これからは気をつけよう。
「さぁ。こちらは教えることは教えたよ。次は探偵さんが犯人を特定できた理由を教えてはくれないか?」
「簡単だよ。ポイントは1番最初の叫び声さ。」
「叫び声…?」
「サンドラの悲鳴から始まり、コルトはジルクが倒れたと叫んだ。なのにアーランは…」
リルアはその瞬間、何かに気づいたのかハッとしたような顔をした。
「私が聞いた声は「ジルク…死ぬな」と言っていた気がする…」
「まぁそういう事だ。酒場で倒れるって言ったら普通は酒の飲みすぎを考えるだろ?それなのに「死ぬな」は大仰すぎだ。まるで死ぬことが分かっていたかのようだ…ってな」
俺は淡々と推理の説明を続けた。
大きな声と言うには声量は足りない。
それにも関わらず俺の推理は夜の街に木霊していた。
「サンドラは恋人が急に倒れれば悲鳴くらいあげるし、コルトだって友人が倒れたら心配はするだろうから説明はつくさ。まぁ、日常生活の中でも探偵で居なければならないというのは、あながち間違いでは無いだろ?」
揚げ足を取りかえされたのが悔しいのかリルアは一瞬ムッとしたが、次の瞬間には何故か晴れ晴れとした顔で笑った。
「いやぁ。流石は探偵さんだ!君の能力もとても素晴らしいが探偵である理由はそれだけでは無いらしいね。」
買い被りすぎだ。俺は自分の能力について知り尽くしている訳では無い。
実の所、この気づきだって能力の一部分である可能性も捨てきれない。
「そんなに褒めても何も出ないぞ?それにこんなの大したことはない。」
「君は謙虚なんだね。でも行き過ぎた謙虚は時に誰かを傷つけるんだよ。」
リルアはどこか暗い顔をして、遠くを見つめるようにそう言った。
俺はそんな気がした。
「さてと、早速依頼の件をお願いしようかな。」
「あ、あぁ。色々と遠回りになってしまったが君の記憶を探るところから始めたいと思う。安心してくれ。物の記憶は制限なく見れるが人の場合はその人が見せたい記憶が1番前に来るんだ。だから君は1年くらい前を思い浮かべようとするだけでいい。」
何事も無かったように話を続けるリルアに少し戸惑いつつも、俺は自分の役目を真っ当することにした。
過去を見ることのできる俺にとって記憶喪失は非常に相性がいい。
しかも報酬も期待できる、と俺は考えていた。
それが甘い考えだとも気付くことなく…。
「と言われてもやっぱり少し恥ずかしいかな。でも自分の過去を知るためさ。なりふりなんて構ってはいられないよ。」
そう言ってリルアが目をつぶったと同時に、俺は記憶を読もうと手をかざした。
――能力は無事に発動した。
しかし…眼前に広がった光景は普段見える過去の映像ではなく、俺が転移した時にくぐった、あの異世界への門だった。
異世界にて、探偵は1人過去に生きる。 すち太郎 @Xy121965biter
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