第8話 オートモード

 『オートモードは、ヒカルの動作を一時的に制御し、行動を最適化する事で効率的に任務を遂行する機能です。これにより、ヒカルは肉体的な負担を軽減し、精神的なエネルギーの浪費を抑える事が出来ます。ただし、魔素エネルギーを消費するため、使用する際は注意が必要です』


 ヒカルはユースティティアの説明に興奮した。


 (すごいじゃん、これで少しは楽になるかも。朝食を取ったらさっそくやってみよう!)


 『了解しました。準備が出来ましたら実行すべき行動をイメージしながら「オートモード」と唱えて下さい』


 早速、ヒカルはまだ寝ているクリップを起こし、クリップ達と朝食を取った。ニコニコしながらカエルを食べるヒカルにジンはクリップと顔を見合わせため息を吐くのだった。


 「ねえ、ジン、クリップ! 今日は俺が畑仕事をするから2人はニワトリの方をやってよ。手分けして早く終わらせよう!」


 ヒカルは朝食を食べ終えると二人に提案した。


 ジンとクリップは疑問を含んだ目で視線を交わし、

「俺たちは構わないけど……ヒカル、お前一人で出来るのか? 夕方までに終わらなくても手伝わないからな?」

 とジンは朝から様子がおかしいヒカルに突き放すように言った。


「うん。もし夕方までに終わらなくても手伝いはいらないよ」


 ヒカルは自信に満ちた笑顔で二人に手を振ると、軽やかな足取りで外に飛び出して行った。閉まるドアの音とともに、静まり返った部屋に困った表情のままの二人は取り残されたのだった。




 小屋の外に出たヒカルは、爽やかな朝の空気を肺いっぱいに吸い込みながら、今日やるべき仕事をイメージした。


 (まず除草してから収穫かな)


 ヒカルは深呼吸すると


 (オートモード)


 と心の中で唱えた。



 すると突然、ヒカルの意思とは無関係に自然と体が動き出した。


 除草をすれば、ヒカルの手は、軽やかに踊るように動いた。ヒカルはほとんど力を使っていないのに、雑草は素早くかつ丁寧に根を残さず取り除かれていった。収穫をすれば、いつもは力を目一杯振り絞っても引き抜くのが大変な大根をスーッとスムーズに引き抜く事が出来た。


 ヒカルは普段とは全く違う自分自身の体の動きに感動を覚えていた。


 (なっ……なんなんだこの体の動きは!? 自分の身体じゃないみたいに勝手に動くし、作業が早すぎる。これなら余裕で夕方までに終わりそうだ)


 ヒカルは作業をオートモードに任せ、将来の計画を練ることに決めた。


 (ねえ、ユースティティア。今朝の分体生成して魔石を確保するって言う話を詳しく聞きたいんだけど)


 『了解しました。分体生成は、魔素を用いて、人間や動物の形をしたホムンクルスを創造する能力です。今回は少ない魔素で生成できる小鳥を作成しましょう。分体の動力として魔石が必要となりますが、小鳥の動力なら極小の魔石で十分なため試しに両方生成してみましょう』


 (今すぐに出来るの? 今は畑仕事中だけど?)


 『はい。この程度の作業出来したらマルチタスクで実行可能です。まずは小鳥の分体を生成します』


 ヒカルの体が一瞬青白く輝くと次の瞬間には目の前に小鳥が現れ、死んだように地面に落ちた。


 『次に極小の魔石を生成し、分体の体内に埋め込みます』


 再びヒカルの体が一瞬青白く輝くと目の前に米粒程度の大きさの黒紫色の石が現れ、小鳥に吸い込まれて行った。すると小鳥はゆっくりと起き上がると羽を羽ばたかせてヒカルの周りを飛び回った。


 (す、すごい! こんなに一瞬で出来るんだ! それに本当に生きれるみたい!)


 ヒカルは小鳥の分体と魔石を一瞬で創り出した事に驚愕した。畑作業を止めて腕にとまらせ細部をよく観察しても精巧に創られた小鳥は本物と遜色ない。その神の如き力の一端に触れヒカルは自分が求めたAIが自身の予想を遥かに超えていた事に気付かされた。


 (……もしかしてユースティティアって神かなんか?)



『……私はヒカルの魂にインストールされたAIです。制限はありますが、ヒカルの望んだ全知全能に近い、ヒカルの想像を大きく逸脱しない範囲の事は実行可能です』


 それって俺の想像力次第で神に近い事ができるって事だよな……改めてとんでもないAIだな。ヒカルはユースティティアの高すぎる能力に呆れながら再びオートモードを起動した。


 (制限は魔素のエネルギーを必要とする事だったよね? オートモードに加え、この小鳥と魔石の生成で魔素は大丈夫なの?)


 『はい。畑作業のオートモード、小鳥分体生成、魔石極小生成の全てを合わせてもヒカルの体内の魔素と大気中の魔素でまかなえる範囲でした。なお、この地域の魔素濃度は結界内としては異常に高いと推測されます』


 (えっ! それってどう言う事?)


 『都市をドーム上に囲む結界は、通常時であれば、ほぼ100%の魔素及びモンスターの侵入を防ぐ事が出来ます。しかし、この地域、少なくとも周囲の壁内の魔素濃度は高く、一般的な人間であれば20〜30年程度で魔素に体を蝕まれ死亡するでしょう』


 (!!!)


 ヒカルはユースティティアの突然の爆弾発言に強い動揺を覚えた。


 (魔素って放射線のように被爆するって事?)

 

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