第5話 AI


 「もしかしてAIをくれるんですか!?」

 光一の目が輝き、声は興奮に満ちていた。


 アストライアは自信に満ちた笑顔を浮かべ、手を腰に当てて胸を張って話し始めた。


 「ええ。いくつか制限をさせて貰うけど、私達女神が提供できる転生特典としては破格のモノを用意するわ! 特典をアップグレードするって約束しちゃったからね! 私は約束を守る女神よ! 言っておくけど、こんな事出来る女神はそう多く無いのよ!」


 凄いでしょ、と、どこか得意気だ。


 「そうね……AIの制限に関してだけど、力を行使するには相応の対価を支払わなければいけない設定にするわ! 具体的には魔素エネルギーを対価にするわ。その辺の詳しい話は後でAIに直接聞きなさい!」


 「この設定を入れれば良い感じにリミッターになってくれて光一が暮らすことになる異世界に存在するエネルギー以上の力は行使出来なくなるはずよ。もし無理に使おうとすれば光一の魂は確実に消滅するし、下手したら異世界も崩壊が始まるでしょうね!」


 アストライアの言葉には強い警戒感が込められていた。


 「魂が消滅……異世界も崩壊……は、はい、分かりました。肝に銘じます」

 光一の顔は引き攣り、声は震えていた。


 「うん。素直で良いわね!」


 アストライアは少しほっとした表情で光一を見つめた。



 「でもAIをあげるのにちょっと時間がかかるかも知れないわ! 許可を取ってこなくちゃいけないし、ちょっとした準備もあるの!」


 アストライアの声は、前の厳格さから一変して、もう一度明るく楽しげになった。



 「私はそろそろ行くけど、他に何か聞いておきたい事はある? 少しなら話を聞くわ」


 アストライアは立ち上がり、光一にゆったりと向き直った。



 「一つ聞いておきたい事があります」

 光一は一瞬だけ躊躇ったが、結局は固く決意した顔でアストライアに向き直った。


 「何かしら?」

  アストライアは興味津々とした目で光一を見つめた。


「ヒカルの体で話していると少し幼い言葉遣いや思考になる事があるんです」

 光一は首を傾げ、不思議そうな表情を浮かべていた。


 

 「なんだ、そんな事? それは、死んだヒカルの魂の残滓が光一の魂に混じった影響ね」


 「……どう言う事ですか?」


 「ヒカルが死んだ時に魂は体を離れているけど、肉体には多少魂の残滓が残ってしまうものなのよ。それが影響してるのね。だけど、それは大きな問題にはならないから、あまり気にしない方がいいわ。言葉使いが子供に戻っちゃうとかそんなことくらいでしょ? 言語とか無意識で使えるヒカルの知識は受け継げるからメリットの方が大きいと思うわよ」

 

 

「あっ! それより、大事な事を言い忘れていたわ! 私がこの異世界に転生者を呼んだ理由!」


 アストライアがまた光一に顔を近づけて聞いてきた。

 

「ねえ、聞きたい?」


アストライアの圧倒的なオーラに圧倒され、光一は息を飲みながら再び顔をそらした。


「え、ええ、それはもちろん」

と、光一は弱々しく応えた。

 

「俺以外にも転生者が居るんですよね?」


「居ないわ!」

 

 アストライアは即答した。


「えっ!? 俺以外には居ないんですか? 俺が最初でこれから何人か来るとか?」


 光一が驚き、質問すると

 「今後も無し。この異世界に光一以外を転生させる事は無いわ! 元々はその計画もあったのだけどね。気が変わったの」

 とアストライアは応えた。


「じゃあ、俺が転生する世界はこの異世界じゃなくても良かったと言う事じゃないですか?」


 この異世界に転生した特別な意味はないと言う事では無いかと光一が聞くと、

「それも違うわ! この異世界に転生させる必要があったのよ!」

 と、アストライアは応えた。


 それじゃあとアストライアの謎かけに光一が考え込んでいると


「ふふ……残念!時間切れよ!」「じゃ私はもう行くわ!」「AIは後で光一の魂にインストールさせるから楽しみに待ってなさい!」

 

 と、アストライアは立て続けに言い残すと、次の瞬間にはその場からパッと姿を消してしまった。嵐の後の静けさの様な無音の世界がそこには広がっていた。その神々しい雰囲気とは裏腹に女神の言葉や態度は終始軽く、悪びた様子が一切感じられなかった。彼女はまるでこの事態が楽しい遊びの一部であるかのように振る舞っていた。実際に光一が異世界に転生する事になったのは遊びの一環なのだろう。



 光一はそんな事を思いながらその場にぽかんと立ち尽くし、何が起こったのか完全には理解できないまま、夢の中の広大な草原が徐々に霞んでいくのを感じた。そして、光一は夢から覚めることになる……



「ユースティティア……それがAIの名前よ……覚えておきなさい! それじゃ、またね……」

 

「あなたは……間違えないでね……」


 意識が覚醒する間際、アストライアがそんな事を言った気がした。

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