第4話 特典

 アストライアが鮮やかに微笑みながら手を広げた。

 「さあ、どんな異世界転生特典が欲しい?」

 

 「一つだけだけど選びなさい! 転生し直すとかは無しよ。でもそれ以外なら、大体の事は検討してあげるわ!」

 


「私のおすすめは、この聖剣よ!」

 彼女が示す剣は、異なる次元の空間からひっぱり出されたかのように突如現れた。

 

 「エンシェントドラゴンの鱗さえ簡単に切り裂くほどの切れ味と、不壊の属性によってその鋭さを永遠に保つわ。さらに、持ち主の潜在能力を引き出し、ステータスを最大限に引き上げる特性を持つわ!ただし――」


 彼女の目が光一を見つめる。

 「その力の行使には持ち主の体力をもむさぼるわ! だから、奴隷として生まれついたひ弱なヒカルが聖剣を振ったら、その一振りで消耗して死ぬことになるわ。それもただ死ぬだけじゃなく、その魂までもが砕け散るわね!」

 

「…………」


 女神ジョークだろうか、光一の口元は引き攣っていた。


 聖剣は論外としても急に転生特典を選んで良いと言われても正直困る。

 

「…………ちょっと良く考えさせて下さい」


 アストライアにそう告げると、光一はゆっくり座り込むと頬杖をつき、深く考え込んだ。


 奴隷から解放されないのは辛いが、特典をもらえると言うのは、正直かなり嬉しい。異世界転生らしくなって来た。ここは慎重に考えないと。

 まずは今の状況を受け入れることから始める必要がある。俺は奴隷として異世界に転生したのだ。物理的な強さ、賢さ、富、運など、異世界で成功するために必要な要素が多くある。しかし、ヒカルはただの奴隷。しかもまだ7歳だ。そして、身の回りには何もない。

 

 アストライアはじっと光一を見守っていた。彼女の瞳には光一を評価するような冷静さと、期待に満ちた煌きが混ざっていた。


 光一はあることに気が付いた。自分には、この異世界に知識が圧倒的に欠けている。異世界の文化、言語、宗教、魔法、モンスター、政治、歴史など、知らないことが多すぎる。そして、自分が何かを成し遂げるためには、自分一人の力では不十分であるということに気付いた。


 「サポートが必要だ...」

 光一はつぶやいた。その声は小さく、しかし確かな意志が込められていた。


 「サポート?」

 その意外な言葉にアストライアが驚きを隠せない表情で繰り返した。その瞳は、光一の言葉が予想外だったことを物語っていた。


 光一は一息ついてから自分の考えを言い始めた。

 「はい。奴隷でも親がいればこの異世界について多少なりとも知識を得る事が出来ます。でも俺には親はいません。ジンとクリップも小屋周辺のこと以外は知らなそうですし、あのゴツい男も何も教えてくれないでしょう。すると俺はこの異世界について何も知らずに生きて行かなければなりません」


「ふーん。意外と現実的なのね。もっと浮かれても良いと思うけど」

 とアストライアは揶揄うように言ったが、その目は光一の言葉に興味を持っていた。

 

 

「これでも中身は35歳ですから。それと、サポートと言っても完璧なサポートが必要です」


 彼は立ち上がり

「俺がこの異世界で生き延びるためには高度な知識や戦略、そして賢明な助言が必要です」

 と言った。


「それなら、一体何が必要なのかしら?」

アストライアの瞳は一層キラキラと輝き、彼女の興味がそそられた様子が伺えた。

 

「AIです。それもただのAIではありません。あらゆる異世界の歴史上、最高峰のAIが欲しい。それは全知全能とまで称される究極のAIでなければなりません。俺にこの世界の言語を教え、戦闘でサポートし、知識を提供し、戦略を立て、必要な情報を収集してくれるものです」

 光一は自分の思いを強く抱えながらアストライアに要望した。


 アストライアは驚いた顔をしていたが、考えた素ぶりを一瞬見せた後、やがてニッコリと笑い、

「……それは面白い選択ね。私もその可能性をちょっと考えただけでワクワクするわ! でも……ごめんなさい」

 と言った。


「その願望は叶えられないわ」

アストライアの答えに、光一の顔から表情が消えた。自分の高望みが現実を叩きつけられた瞬間だった。


 

「全知全能のAI。それは神にも等しい力を有しているわ。いいえ。神以上と言っても差し支えないでしょう。神と言っても全知全能とは限らないのだから……そんなAIを個人に預けるのは女神として許可できないわ」


 確かにそうだ。全知全能とは全てを知り、全ての能力があると言うこと。出来ないことは何も無いと言うこと。アストライアは特典として何でも選んで良いとは言わなかった。

 つまりそれは神にも出来ないことがあると言うことだ。それは出来るけど制約により出来ないも含まれる。力を行使できなければ全知全能とは言い切れない。


 「通常なら……ね!」



「えっ?」

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