麻雀仲間

 タイムカードを切って事務所の扉に手をかけると同時に、外からドアを引かれた。

「おや、竹田さんじゃないですか」

 扉を開けたのは、スプーンおじさんこと大原さん。

「大原さん、こんなところでどうされたんですか?」

 大原さんはヴィチナートの運営会社の大株主らしいから、事務所にも出入りするのだろうか。

 私はその意外な来客につられて、帰ろうとしていたのに事務所の中に戻って休憩用の椅子に腰掛けた。

「いやあ、竹田さんのボスとは麻雀まーじゃん仲間なかまでね。少しお邪魔してたんですよ」

「ボス……?」

 ちらりと横目よこめで見る店長は、私が出勤してきたときと同じ姿勢でパソコンと向き合っている。

 察した店長が「社長のことですよ」と教えてくれた。

 大原さんは「丁度竹田さんにも話があってね」とシワにもれた目を細めている。

「君を占い師にスカウトしたいのだよ」

 何を言ってるのかよくわからなくて店長に助けを求める視線を送るけど無反応。先程と変わらずパソコンとにらめっこしている。

「どうかな? ならないかい。売れっ子占い師に」

「なりませんけど……」

 もう一度店長を見ると、次はこちらに視線を向けていた。

「茂さん、だから言ったじゃないですか。――そんなことより竹田さん、話があるって。社長直々に」

 大原さんを下の名前で呼ぶ店長の口調がしたしげで、二人の間に長い付き合いがあることが伺える。

 大原さんは「竹田さんなら売れっ子間違いなしなんだけどなあ」とぼやいていた。

――って……「社長直々に……?」

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