似たもの親子

「いらっしゃいませ」

「あの、竹田さん、お久しぶりです」

 夜九時、やや客足きゃくあし落ち着いたレジに来たのは、肌を少し黒く焼いた聡真さんだった。

「どうも、お久しぶりです」

 聡真さんがレジに来るのは、少年大捜索以来二度目。

 一度目は、大捜索の翌週。少年を学校で見かけたことを教えてくれた。

 それからしばらく顔を見ない間に、やれ文化祭だの部活動の顧問だのと忙しくしていたらしい。

「彼、元気そうですよ。この前、お昼の時間に彼の教室を覗いたんです。僕は高校の担当で、中学生を見ることはないので、僕が顧問をしているテニス部の部員に用事を作って」

 私は、聡真さんがグラウンドで女子生徒からキャーキャー言われる姿を想像した。めちゃくちゃ……

「モテそうですね」

 うっかり口をついて出てしまった。

 聡真さんは眉間にシワを寄せながら目を見開き、変な顔をして困惑している。

「ええ……? まさか……」

 おでこがしわしわだ。

 前言ぜんげん撤回てっかい。これはモテないな。

 やっぱり聡真さんはやっぱり当初のイメージ通りなのかもしれない。

「それでですね、あの子のお弁当見たんですけど、可愛くキャラ弁になってました」

「キャラ弁?」

「はい。多分キャラ弁……。水色で、耳がないウナギイヌみたいな、あ、ウナギイヌってわかんないかな、世代的に」

「それって、これです?」

 私は他のお客さんの目に気をつけながら、スマホケースのハンギョドンを聡真さんに見せた。

 少年のお母さんもハンギョドンが好きなのかな。もしかしてあのニヒルな少年がハンギョドンファンだったり……今度、聞いてみよう。

 次はいつ私のレジに並ぶか、わからないけれど。

「これ、これです! このキャラクターは流行ってるのかな……? ――僕も昔、母が一度だけ気合を入れてキャラ弁を作ってくれたのを思い出しました」

 春子さんの作るキャラ弁。なんだか少し、いや、かなり大作たいさくになりそうだ。

「どんなのだったんですか?」

「僕の似顔絵で。キャラ弁なんてまだまだ流行ってない時代だったし、それはそれはクラスのみんなから注目されましたよ」

 芸術家の作るキャラ弁だけあって、テーマ選びもかなりパンチが効いている。

「それは、いろんな意味で……」

「食べづらかったです」

 聡真さんの顔は苦笑を浮かべているけれど、口調は明るい。

「あ、あまり長居してしまうとお仕事の邪魔ですよね。失礼しました。あと、彼のこと、本当にありがとうございました」

「いえいえ。こちらこそ、彼が元気そうだと知れて良かったです。ありがとうございます」

 では。と会釈して、聡真さんはサラダチキンとオレンジジュースを手に帰っていった。

 無口で無愛想な先生なのだろうけれど、笑った顔は、やっぱり優しい春子さんにそっくりだ。

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