スーパーヴィチナートは配送料無料キャンペーンを行っておりm

 こどもの日。三連休の最後の日。

 でも世間のサラリーマンたちは、明日仕事をすれば、また土日の休みにありつける。

 いつもは窮屈きゅうくつなスーツにメタボなお腹を押し込んでいるおじさんたちの表情には、どこか余裕が感じられ、見ている私も穏やかな気持ちになれる。


 フロアを見渡すと、こどもの日なだけあって子連れファミリーが多い。

 どの家庭も、今日だけ特別ねと言わんばかりに、おやつをたっぷり買い物かごに詰めている。

 マサキ少年にとっても、今日は一年に一回のこどもの日。彼は一体どこで何を食べているのだろう。

 妹尾さんいわく、野菜より肉を食べるべきらしい。体をつくるタンパク質が大事なんだって。たしかに家庭科で習ったかも。

 今度マサキ少年がレジに来たら、肉を食えと言おう。

 

 私のレジに並んだ、一人の小柄な女性。

 彼女の買い物かごの中身もまた、いかにも食べざかりの子どもが家にいるって感じだ。

 買いめ派なのか、二つの買い物かごの中には、冷凍食品や缶詰が目立つ。

 その他には、マシュマロ、バナナ、プリン、カップ焼きそばに、辛口のカレーヌードル、と。ん? このラインナップ。

「駐車券はお持ちでしょうか?」

 ヴィチナートの駐車場は、平日は無料だけど土日祝は三十分につき百円で、お会計時に駐車券を提示すれば二時間まで無料になる。この量のお買い物だし、車で来ているだろうと思ったけれども、答えは「いいえ」だった。

「この量を、お一人で歩いて持って帰られるのですか?」

 やってしまった。ついつい気になって、またいらぬことを聞いてしまった。

「いえ、息子が手伝ってくれるので」

 聞き取れるギリギリの声量。

 ひとまず、怒られずに答えてもらえた。後々のちのちクレームとかにならなければ良いのだけど……って、あれ? 息子、だって? やっぱりまさか、もしかして。

「なら良かったです。……あ、ヴィチナートのネットスーパーもあるので、是非ご活用ください。今ならアプリ会員登録で三千円以上のお買い物一回分の配送料が無料になるキャンペーンをしてます。チラシ入れておきますね」

 ほとんどまくしたてるような言い方になってしまった。女性もぽかんとしてしまっている。

 私は冷静をよそおって、もう一押しした。

「ネットスーパー、便利なので是非使ってください。お子様に今日は何が食べたいかとかお話しながら、ゆっくりお買い物をしていただけると思うんです」

「ありがとうございます。ネットスーパーなんてやってるんですね。知らなかった」

 はい。なので是非、少年と一緒にお買い物してください。あと多分、辛口はまだ彼には早いですよ。

 心のなかで付け足す。

 女性はわずかに頭を動かすだけの会釈をして、レジ台を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る