よるのこうえん、よのこうえん(与野公園だけに)

 集合時間まで必死で少年を探したけれど、結局私達二人は少年の影も形も見つけられなかった。

「見つかんなかったです。店長どうでした?」

 集合場所の公園の入口には、聡真さん以外が集まっている。

「僕はだめだった……大原さんはどうでしたか?」

「私もです。この歳になると夜目よめは利かないし、ゆっくりとしか動けないしで、どうにももどかしいですねえ。――ただ、若い駿馬しゅんめの彼は、そうでもないようで」

 大原さんの口調はゆったりとしていて、まるで昔話でも語るかのようだ。と同時に、向こうからバタバタと慌ただしく足音が近付いてくる。

「――ません――! すみません! 本当に申し訳ないです! ――逃げられちゃいました!」

 全速力で走って来た聡真さんは、膝に手をついて大きく息をしている。

 焦りと疲れで要領を得ない話をする聡真さんを、店長がなだめる。

「先生、落ち着いてください。あの少年を見つけたんですか?」

「ええ……つい、五分ほど前、弁天べんてんいけの橋のとこに、それらしい少年を……。与野国際の生徒かと聞くと、そうだと返事があったので……自分は与野国際の高校で数学教師をしていると言いました……」

 なるほど、それで逃げられたわけだ。

 一人で夜遅くに公園にいるところに『自分は教師だ』なんて人が来たら、怒られると思うに決まってる。逃げられるのなんて、火を見るよりも明らかだ。

 私が言うより先に妹尾さんが毒づいた。

「そんなこと言ったら逃げるに決まってんじゃんポンコツ教師!」

「自分が悪いことをしている自覚があればこそ、教師を前にしたら逃げるのがむしろ自然ですね」

 大原さんが追い打ちをかける。

 聡真さんは言い返すこともなく、叱られた子供みたいにしゅんとしている。

「まあまあ、子どもにこえけしたのが成人男性と見るなり通報される世の中です。名乗るしかないですから。仕方ないですよ、先生」

 与野公園に教師が出没する可能性があるとわかれば、明日以降、少年はもうここには来ないかもしれない。この公園内を探すだけでも骨が折れたのに、別の場所も含めて探すとなるとかなり大変だ。

 とはいえ、今回は確かに店長の言う通りかも。

 世知辛せちがらい世の中だ。

「それもそうですなあ。まあ、老人には良い運動になりましたよ」

 大原さんがマイペースに「私はこれで」と会釈したのを合図に、その場はおひらきとなった。

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