ロングネイルでデコピン
与野公園。奥には
とはいえ、つい最近まで小学生だった子が一人でいるべき時間ではない。
集まるともなく集まったメンバーは、午前中に話していた聡真さんとスプーンおじさん、それと店長。
そして、昨日と同じくジャージ姿の妹尾さんが、少し離れたところで小石を蹴っている。
「みなさん、お忙しいところありがとうございます。私はヴィチナートの店長の
エプロンを外しただけの、白いブラウスに黒いスラックス姿の店長がぺこりと頭を下げる。
「私は五十嵐と申します。彼の通う学校の教師をしています。こちらこそ、うちの生徒のために皆様ありがとうございます」
続いて頭を下げる五十嵐さん。スプーンおじさんは穏やかな笑顔を浮かべて「
「では店長さんは竹田さんと一緒に、私は大原さんと一緒にこの公園を探しましょう。三十分後に一度、ここに集まるということで」
聡真さんはハキハキとした口調で取り仕切る。さすが学校の先生だ。かつて感じた無口さや無愛想さは、見る影もない。
「私は一人でも大丈夫ですよ。先生も、
スプーンおじさん、もとい大原さんがそう言うので、私も「一人で行きます」と断る。妹尾さんがこちらをチラチラと見ている。
「ありがとうございます。では、また三十分後」
聡真さんの言葉を皮切りに、私達はみな少年捜索を始めた。
「竹田さん、本当に一人で大丈夫?」
店長が、心配そうに私を覗き込む。
「大丈夫ですよ。私はあの子と行動します。スプーンおじさんも言ってたじゃないですか。単騎の方が攻撃力高いって」
なぜか睨んでくる妹尾さんを指して答える。
「やめなさい、また変なあだ名をつけて……。
妹尾さんのことは「お友達と一緒なら安心だ」と納得していた。どうやら一年前バイトを飛んだ女の子と同一人物とは気づいていないらしい。
「あのおじいさん、お金持ちなの? ホント人は見かけによらないね」
妹尾さんの声を聞いた店長は「どこかで聞いたことある声」と首を傾げる。
「気のせいですよ店長。さあ行こう! せ……せいこちゃん!」
私達は、聡真さんと大原さんが向かったのとは違う方向を目指して歩き始めた。もちろん、店長からも距離を取って。
せいこちゃん、じゃなくて妹尾さんが何か言いたそうにしている。
「妹尾さんがここで少年を見たって話をしたら、少年が通う学校で先生をしてる五十嵐さん、店長、それになんの関係もないおじいさん――大原さんまで集まってくれたんだよ。妹尾さんも、少年を心配して探しに来てくれたんだよね? ありがとうね」
「別に、今日も走りに来ただけだし、探すのなんてついでだし。……それより、気を遣ってくれたよね、バイト飛んだ私が、気まずくならないように……」
「そりゃ多少はね。店長、妹尾さんからエプロン返されたとき、めちゃくちゃ
妹尾さんはバツの悪そうな顔で「ごめんなさい」と言って
「良いじゃん、今度から同じことしなければ。それに、妹尾さんがヴィチナートに来なくなっちゃったら私がやだ。レジって慣れると思ってるより暇なんだよ。そんなことよりほら、早く少年探すよ」
「あ……ありがと……。――あのマセガキ、見つけたらデコピンしてやる」
今に見てろよ、少年。長くて尖った妹尾さんの爪でデコピンされたら絶対に痛いんだから。
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