あつまれ!与野公園

 少年の目撃談を妹尾さんから聞いた翌日。私は朝からのシフトに合わせて出勤した。店長は昼からの勤務らしく、まだ事務所にいない。

 早く店長に伝えなくちゃ、なんとかしてあげなくちゃ。そうやきもきしていたところ、レジに救いの神が来た。

 少年が通う学校で数学教師をしている、聡真さんだ。

『あの』

 聡真さんと私の声が重なる。気まずい。どうぞ、どうぞと譲り合い、結果、聡真さんから話してもらった。

「あのカップ麺の子は、まだ来ますか? 学校でも探してみたり、それとなく一年生担当の先生に聞いたりもしているんですが、彼にたどりつくことができなくて」

「彼なら毎日来ますよ。――あの、私も彼のことでお話があって。昨日、彼を与野公園で見かけたという人がいたんです。夜の九時半頃まで一人でいたみたいで。声をかけて帰らせてくれたみたいなんですけど」

 私は息を切らして報告してくれた妹尾さんの顔を思い浮かべた。

 ああ言えばこう言う小賢こざかしい少年に、何と声をかけて帰らせてくれたのだろう。その苦労は推して知るべし。

「夜の九時半ですか。このご時世、何があるかわかりませんから、そんな時間に一人で外にいるのは心配ですね」

 そう言いながら聡真さんがお買い物金額の千七百二十八円を支払おうとスマホを取り出したとき。

「その少年は今日も同じ場所に出没する可能性が高いですな」

 聡真さんの後ろにいつの間にか並んでいたスプーンおじさんが、ずいと顔を突き出し、口を挟んだ。

「こちらの方は……?」

 突然の見知らぬおじいさんの登場に、聡真さんは目を丸くする。

「なに、名乗るほどの者ではありません。くだんの少年は見たところ、いつも話しかけてくれる竹田さんに随分懐いているようで。よほど普段寂しい思いをしているのでしょうね。自分と接してくれる人を求めているようです。――これはあくまでも私の予想なのですが、声をかけてくれた方を目当てに、今日もまた、公園に姿を現す可能性が高いかと」

 スプーンおじさんの、まるでテレビに出てくる霊能力者みたいな不思議な話し方に、聡真さんと私は二人して聞き入ってしまった。

『九時半に、与野公園……』

 二人して呟く声が重なる。スプーンおじさんは無言で頷いている。

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