夏休み明け

 世間はゴールデンウィーク。今日は日曜日と祝日に挟まれた、平日の月曜日。

 普段は仕事終わりに来るようなお客さんたちが、ある人は連休真只中ただなかほうけた顔をして、またある人は今日一日やり切って明日はまた休みだという晴れやかな表情を浮かべている。

 年中無休のヴィチナートは店舗もネットスーパーも一層忙しく、店長はアワアワ言いながら仕事をしている。

 夜の十時、みんな早めに買い物を済ませてしまったのか、少し静かな店内。ジャージ姿の妹尾さんがポニーテールを揺らして、ペットボトルの水をレジ台に置いた。

 ほお紅潮こうちょうしている。ランニング帰りらしい。ストイックなところ、尊敬するなあ。

「さっきあのマセガキと与野よの公園こうえんで会ったよ」

 私がいらっしゃいませと声を掛ける前に妹尾さんは言った。急いで走って来てくれたのか、肩で息をしている。

「こんな時間にですか?」

「うん。九時半くらいまでいた」

「いた、ってことはもう帰ったんですか?」

「帰りなって言ったら帰ってった」

「ありがとうございます。心配してくれてたんですね」

「べ、別に? そういうんじゃないし」

 ツンデレだ。そう呟くと、妹尾さんにゴミを見るような視線を投げられた。

 シフト上がりに店長に伝えようと思ったけれど、珍しくもう帰ってしまったようだった。

 残念に思う反面、ちょっとほっとする。店長に会いたくないからとかじゃなくて。

 今はゴールデンウィークなんだし、家でゆっくりしたり、家族で遊びに行ったりしてほしい。

 そうして、少年と同い年だという中学一年生の娘さんと一緒に過ごしてあげてほしい。

 子どもには、そういう楽しい思い出が絶対に必要だと思うから。

 考えながら、独り公園にたたずむ少年を想像して、私は胸が痛くなった。

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