脱税!パパ活女!

 竹田さんには丸ごと全部は教えたくない。教えてあげない。


[客、マジキモい。何で金払わないと相手してもらえないのにワンチャン付き合えると思ってんの?]

[パパ活とか言って売春してる女にはキモデブジジイがお似合い]

 ハゲじゃなくてもデブじゃなくてもついでにイケメンだったとしても、キモい男はすべからくキモいんですけど。なんか勘違いしてない?

[おぢと行くバカ高え寿司屋よりも一人で行くスシロー]

[高級なお店入ったときに隣が明らかにパパ活って感じだとすごい萎える]

 まぁ、それはゴメン。私だってできることなら安い店でご飯済ませて、その分手当多くもらいたいんだけどね。

[四時間半クソおもんない話聞いてあげて手当一万ってなめてんの?]

[脱税パパ活女、人生なめてんの?]

 はい。なめてます。それが何か?


 春子さんは、そんな人生なめてる私を叱ってくれた。

 顔の見えないツイッター上で、まるで学校の先生か親みたいに。誹謗ひぼう中傷ちゅうしょうではなく、真っ直ぐの言葉で叱った。


[既婚子持ちのおぢが大人あり希望。聞くと娘と私の年齢ほとんど変わん。ゲロ。キモすぎ]

 大人ありとは、大人の関係、つまり援助交際希望ということ。そのとき私は、奥さんも子どももいるガールズバーの常連客に、援助交際を迫られていた。体の関係だけは絶対に断るようにしていたけども。

[私は数年前から旦那に不倫されています。先方があなたみたいにお金目当てなのか、はたまた旦那に本気なのかは知りません。今のこの状況は私にも原因がありますし、いまさら旦那の人生に口出しするようなことはしません。(かと言って、裏切られて悲しくないわけではないのですけどね)]

 またまともでくだらない大人に絡まれたと思った。

 すると間もなく、リプライは二つ目に続いた。

[もしも私に、旦那と真正面からぶつかる覚悟があったら、出る所に出て慰謝料をいただいていたことでしょう。でももしあなたがその相手だったら。あなたのような、才能ある、未来ある人がその相手だったら。私の手元に入る数百万のために、あなたのような人の未来を傷付けたくありません]

 まだ続く長文に、[被害者気取りのサレ妻ウザ]とか、[売女ばいたが理解できる文字数オーバーしてる]とか外野のリプライがつきはじめた。

[どうかあなたにはご自分を大事にしてほしいんです。人生を前借まえがりするような生き方ではなくて、前を向いて今を生きてほしいんです。あなたのえがく美しい花を見たい人はたくさんいる。少なくとも私は見たいのです。あなたが才能を活かせるようになることと、あなたの幸せを願っています]

 ――驚いた。知らない人にこんなに言われると思わなかった。その長文には何も返せなかった。返せなかったけど、その言葉のひとつひとつは不思議と私の心に沈み込んで残った。


 勉強や運動ができなければいけない。何のためにあるのかわからないルールを、守ったり小さく破ったりしながら、クラスの目立つメンバーにいないといけない。そうでなければ、いんキャと呼ばれて勝手にその他大勢みたいに扱われる。

 クラスのヒエラルキーの上も下も、尖ったところも真ん中も全部気持ち悪くて、私はとにかくクラスの空気になった。

 同級生も先生も親も、勉強も運動も人並み以下の、学校外でちまちま非行に走る厄介な私のことは、みんなそこにあるけど見えないみたいに扱った。

 いじめやどくおやというものではない。ただクラスが一緒、家が一緒なだけの他人たち。


 ピールオフタイプのベースに描いた、その日限りの練習ネイルをたまに写真に撮ってツイッターに載せると、ランコさんはとんでもなく褒めちぎった。

 かと思えば私のただれた生活を叱ってきて、とにかく私の世界にズカズカと入ってきた。

 お節介、余計なお世話、ありがた迷惑。

 最初はそう思っていたのが、次第に余計でも迷惑でもなくなっていった。

 気にかけてくれる人がいるのが嬉しかった。


 ランコさんと竹田さんはちょっと似ている。

……なんて、竹田さんには教えてあげない。

(教えたら絶対、調子に乗るし)

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