寒いね!でも二人でいると温かい!

 お正月は終わったけれど、街は新年の賑わいを失わない。

 一月十七日、しくも春子さんの二回目の月命日が個展の開催日だった。

 二日酔いで寒空さむぞらした自転車を走らせる気力を失っていた私は大宮まで二駅電車に乗り、会場のギャラリーへ向かった。

 東口を出て、ギャラリーの位置を改めてスマホで確認していると、よく知った意外な人に声をかけられた。

「竹田さんじゃん、奇遇きぐう

 顔をあげると、ラフな三つ編みにベレー帽を被った女の子が、丸眼鏡の奥で目を見開いている。

「うお、妹尾せのおさん」

「おっすー」


 妹尾さんは薄ピンク色をしたコーデュロイのトートバッグからA4用紙を取り出した。

「私も行くの。ランコさんの個展」

「ランコ……?」

 私の手元に突き出されたA4用紙は紙のサイズこそ違えど、私の持っているフライヤーと同じものだった。

「ああ、本名は春子さんだっけ」

「どういうこと?」

 妹尾さんは、事態が飲み込みきれない私に、春子さんが『ランコ』という名前でツイッターをやっていたことと、ツイッター経由で二人が知り合ったことを説明してくれた。

「竹田さんは何で? 絵とか興味なさそー」

 ストレートな物言いに一瞬ウッとなりながら、高校生の時に美術の授業を一年だけ担当してもらっていたことを説明する。すると今度はうらめしそうな顔でにらまれた。

「ランコさんとリア友みたいなもんじゃん。しかも授業まで受けてたなんて。羨ましすぎ」

「妹尾さん、春子さんと話したことないの?」

「リアルで? ないよ」

「春子さんは妹尾さんと話したがってたよ」

「何で竹田さんにわかんの」

 トートバッグに夏野菜を乱雑に入れて妹尾さんを追いかけた春子さんの話をすると、「呼びかけて止めてよ」と怒られた。理不尽だ。

「――ランコさん、そっか。一度でいいから会ってお話してみたかったな」


 駅からギャラリーまで、二人で並んで歩く。

「ランコさん、ネイルの写真によくコメントつけてくれてたんだよね。あの人なんでもお見通しでさ、こだわった部分とかすぐわかってくれんの。嬉しかった。たかがネイルの写真にどんだけ感想くれるの? ってくらい、文字数えぐかった」

 歩いて五分も経たないうちに目的地のギャラリーが見えてくる。

「将来の夢、見つけたって言ったじゃん」

 あと数メートルのところで、妹尾さんは足を止めた。唇を一瞬強く引き結んで、それからまた開く。

「私、ネイルサロン開きたいの。そのためにさ、四月から、美容の専門学校通うんだよね」

 妹尾さんの買い物かごの中におつとめ品の野菜が入っていたのは、なるほど学費のための節約か。時間を作りたいっていうのも合点がてんがいく。

「ランコさん、私がネイリストになったら、初めてのお客さんになりたいって言ってくれてたの」

 妹尾さんはまた歩き出して、ギャラリーへと吸い込まれていく。

「夢、絶対叶えてね」

 妹尾さんは、「当たり前でしょ」とフンと鼻を鳴らした。

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