やさぐれ!バイト飛び女!
昼の仕事しようと思って適当に家から近いスーパーのバイトに応募してみた。一日だけ働いた。
あんなこと続けるの無理。絶対に無理。
時給千円でランダムに頭のおかしい客に怒鳴られるんなら、時給二千円で大体みんなヤバいってわかってるガールズバーで働くほうがマシじゃん。
『大学に行って絵の勉強がしたいけど、実家にお金がないからお金を貯めるためにたくさんバイトを掛け持ちしてる』なんて言えば、客からお小遣いがもらえたりする。もちろん、
人間関係はだるすぎる。金にならないんなら極力人付き合いはしたくない。
特にあのスーパーにいた女の店員みたいなタイプは、無駄に明るくて親切が押し付けがましくて嫌い。声がデカくてうるさい。それにやたらなれなれしい。
できることなら関わり合いになりたくない。まあ多分これから先関わることなんてないけど。
今日は、ガルバの客で不動産会社の役員だかなんだかをやってるって男に、クツとかカバンとかを買ってもらった。「好きなもの買ってあげる」って言われたから。
買い物のあとはみんな大体、食事に誘い、飲みに誘い、ホテルに誘ってくる。
食事や飲みは、もらえるお小遣いが増えそうなら付き合ってあげてもいい。
でも絶対に絶対にホテルになんかは行かない。それだけは、いくら金を積まれてもありえない。
この五十過ぎくらいの男『ひでくん』とは、三ヶ月くらい前からお店以外で不定期に会ってる。
自慢話が多いし、ラインすぐ返事しないと
けどその分、褒めたり甘えたりして自尊心を満たしてあげるとわかりやすく機嫌が良くなる。
つまり、相当ちょろい。
金を稼ぐのも男の扱いも、ちょろいのは今のうちだけだっていうのはわかってる。
わかってるっていうか、歳を取って可愛くなくなったら何をしたら良いんだろう、何ができるんだろうっていう不安がいつもある。
だから今のうちにできるだけ稼いで、クソみたいな未来に備えておくしかない。
根本的な、
ホントのところは別に夢とか希望なんてないし、しわくちゃになって苦しみながら死ぬくらいなら、若いうちにさっさと死にたい。
とはいえ痛いのとか苦しいのとかは嫌だし、金さえあればどうにかなるかなって思うけど、いくらあれば良いのかわかんないから割と病む。だからますます普通の昼の仕事なんかで、安く自分の時間と心を切り売りなんてしてらんない。
同じだるいことするんなら金が良い方がマシに決まってる。
今日は『ひでくん』にクツとカバンと服二着、買ってもらった。
何でも買ってあげると申し出があったにしろ、あまり一度にお金をたくさん使わせたりがっつきすぎると、『金目当て?』なんて最初からわかりきったはずのバカみたいなことを聞かれるから、あくまでも向こうの『買ってあげる』の言葉を引き出せたときにだけ買ってもらう。
「ひでくん、今日もたくさん買ってくれてありがとう」
「これくらいなんてことないよ。それより、りお。今月から予備校に通いはじめるんだろ? これ、足しにしなよ」
笑っているわけではないのに、目尻にはたくさん
あの皺を広げたら、もう少しは見れる顔になるのだろうか。
「えっ、そんな、悪いよ」
わざわざ手を取って握らせてくるのが気持ち悪い。
封筒の中は、分厚さ的に多分三十万円くらい。
キスのひとつでもしてあげたら、もらえる額は増える? なんてふと頭をよぎるけど、いや、無理。絶対無理。手を
封筒を握らせる手が、まだ私の手から離れていかない。
嫌だけど我慢、さすがに今は我慢。
「今日のネイルは合格。
ベビーピンクのポリッシュを塗っただけの寂しい指が、
「どこか飲みに行こうか」
叫び声を上げたくなりながら私は、奥歯を食いしばって笑顔を振り絞った。
「りお、焼き鳥食べたい。あのね、食べログで美味しそうなとこ見つけたの。でも、私一人とか、お店の女の子たちとは行けそうなカンジじゃなくて、行くなら絶対ひでくんとじゃないとって思ったの」
ブックマークしておいた食べログのページを開くために、『ひでくん』に握られた手をさり気なく引き抜いて、スマホをバッグから取り出す。
「ええ、そんな
自分は汚いおじさんなのに、少しごちゃついたくらいのお店に汚いと言い切れてしまうのは図々しさなのか、そもそも客観的に自分のことが見れていないのか。
「ここがいいの!」
雰囲気の良いお店なんか、絶対に行ってやらない。
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