第五話 お侍さん、冒険者の話に驚く(2)
◆ ◆ ◆
久方ぶりの難敵に舞い上がり、思わず助けてしまったが……森で
「立てるか?」
「今はちょっと無理そうだけど、少し休めばなんとか……。それより助かったよ。君は命の恩人だ」
「………………。いや、構わん。こちらとしても面白い相手と戦えて満足だ」
……
まず最初に頭に浮かんだのは〝異国の
……数百年前のように、また戦でも仕掛けるつもりか?
黒須は不審感を悟られぬよう、
フランツは
バルトは大鎧に
パメラは
マウリは弓を持った小さな童子。まだ幼く、恐らくは
しかし……。ようやくまともな人間に出逢えたかと思えば、よりによって異人とは。
黒須は己の天運のなさを内心で呪い、いつでも刀を抜けるよう柄に手をかけたまま異邦人との会話に意識を戻した。
彼らの口から飛び出したのは、信じ難い話の数々だった。ここは魔の森と呼ばれる大森林の中であり、ファラス王国なる国の最西端に位置していること。先ほどの巨人は魔物と呼ばれる存在であり、獣と違って人を恐れず、人に
まさに
世間知らずの武士を
「…………………………」
教わった内容をじっくりと
当然、海を渡った覚えなどない。しかし、彼らの語る内容はあまりにも自分の常識とかけ離れている。離れすぎている。突飛な考えだと自分でも思うが、すぐそこを見れば実際に化け物としか言いようのない巨人の遺体が転がっているのだ。あんな
いや、しかし、まさか……
…………………………
………………
……ッ!
ぐるぐると思考の海に沈んでいたが、ふと、己が無様にも
────よし、考えるのはやめだ。
何度か強く
決意を新たに町への道案内を頼むと、フランツはあっさりと
町へ向かう道すがら、黒須は冒険者たちの観察を続けていた。ここまでの会話で彼らはとても友好的だと感じていたが、完全に信用するつもりはない。今までも数え切れないほど不意討ち、騙し討ちを受けてきた。油断した瞬間を狙っていることも十分に考えられる。
とはいえ、体格の良いフランツ以外はとても戦うことを生業とする武人には見えない。特に、マウリはどう見てもまだ十をいくつか超えたくらいだ。そんな
とりあえず、警戒すべきはフランツだな…………
巨人との戦闘である程度実力は見えていたが、黒須には異人と戦った経験がないのだ。
異国の冒険者、どんな
「これから向かう町はどんな所だ?」
少し試してやろうと考え、声を掛けつつフランツの左隣へ並んでみる。
「辺境都市アンギラって街だよ。魔の森が近くて、領内に
──────無反応。武芸者なら本能的に警戒してしまう位置に踏み込んだのだが。
刀の届く間合いで左側に立たれると、相手の腰にある刀が死角になる。つまり、不意を突かれて居合の抜き打ちを食らう恐れのある危険な位置だ。実際にその気があれば、今、この瞬間にもフランツの首を落とすことができる。
〝
武士同士であれば、並んで歩く時に相手の右側には絶対に立たない。そもそも、間合いに入ること自体が無作法とされているのだ。今のように無遠慮に踏み込めば、その瞬間に敵意ありと
ちらりとフランツに視線を戻すと、返事をしなかったことを疑問に思ったのか、困ったような顔で口をパクパクと開けたり閉じたりしている。
…………この様子では、前者だろうな。
その後もわざと
いくら命を救われたといえ、帯刀した相手に対して無防備が過ぎる…………
冒険者とは魔物との戦いが日常だと言っていたが、これでよくここまで生きていられたものだ。
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