第四話 冒険者さん、お侍に助けられる(2)
足跡を
「………………?」
突き出された指の先へ視線を向ける。が、木々が邪魔でよく見えない。焦点を合わせるようにパチパチと
そんな、まさか…………。アレはもっと奥深くにいる魔物のはずだ。
悪夢の
「ヒッ────」
パメラが
「くそっ! パメラ、てめぇ馬鹿野郎!」
「ご、ごめんなさいっ!!」
「馬鹿な……! こんな場所に
「チッ! どうするフランツ!?」
フランツは胸に湧き上がる動揺を強く拳を握り締めることで抑え、どう動くべきか、頭を高速で回転させる。
巨人は強敵だ。
瞬時にそう結論付けたものの、災難にも巨人との距離は二十メートルもなく、相手はすでに臨戦態勢に入ってしまっている。全力で逃走したとしても逃げ切れないのは目に見えていた。
「マウリは
指示の声に反応してマウリの矢が放たれるが、巨人はそれを意に介すこともなく、体格に見合わない速度で猛然と突っ込んでくる。
「──────ッ! マウリ、足を狙え!」
大声で叫びながらすれ違うように突進を避け、片手剣で
「ちくしょう、なんて硬さだ……!」
手応えのなさに悪態を
「バルト、下がってパメラを守れ! 俺が攻撃を引き付ける! マウリは矢を撃ち続けろ!」
効果がないと知りつつも、巨人の体に剣を
なんとか直撃を避け、歯を食いしばって
「しまっ────!! がはっ……!」
後頭部と背中を強打し、肺から空気が押し出される。
「あぁっ! フランツが!!」
「パメラ! 集中を乱すな!」
こみ上げる
まずい、このままじゃ前衛が持たない…………!!
────動けッ! 動けよッ!!
言うことを聞かない自らの足をバシバシと殴りつけ、どうにか立ち上がろうと必死に
……クソッ、ここまでか。せめて俺を
「おい! そこのアンタ、冒険者か!?」
フランツは絶望感に押し潰されて顔を伏せていたが、不意に聞こえた大声に目線を上げる。
マウリの視線の先を追うと、いつからそこにいたのか、茂みの奥に奇妙な男が立っていた。
「…………冒険者が何かは知らんが、俺は通りすがりの武者修行だ」
この辺りでは見掛けない顔立ちだ。漆黒の衣に身を包み、剣は三本も
珍しい黒髪を頭の後ろで結い上げており、これまた珍しい黒目は巨人をじっと見据えているが、なぜかその瞳には好奇の色が宿っているように見えた。二十代に差し掛かったくらいだろうか、随分と若そうだが、巨人を前にして全く
数度の問答のあと、男は巨人の前に躍り出た。どうやら助力してくれるらしい。
ありがたい……!
前衛さえ耐えられればまだ希望はある。パメラの魔術が決まれば絶対に巨人は
これも
馬鹿な。一体なにを────
「な……っ! おい、
マウリが大声で呼び掛けるが、男はその場から動こうとしない。あろうことか、剣を頭上に持ち上げて防御の姿勢を取っている。
なんだよ、素人だったのか!? 頼む、どうか避けてくれ!
そんな懸命の祈りも
ああ……死んでしまった…………
再度絶望したのも
「ははは、見事だ! こんな剛力は初めてだ!!」
巨人の一撃を受けて……笑っている? まさか、わざと攻撃を受けたとでも言うのか?
イカれてる──────
常軌を逸した行動にフランツが戦慄していると、男は持っていた剣を相手に投げつけ、腰に差していた細い剣の
ダメだ! そんな
次の瞬間、おかしなことが起きた。男が疾風のような速度で駆け抜けたと思ったら、突然、巨人がピタリと動きを止めたのだ。
「「「はぁ!?」」」
脇腹は大きく斬り裂かれ、どう見ても背骨まで断ち斬られている。致命傷だ。
訳が、分からない。なんだ、今のは……? 風の魔術? いや、身体強化の奇跡を使ったのか?
傷跡を見るにあの細剣で仕留めたのだろうが、剣を抜く動作さえ目で追えなかった。
巨人が崩れ落ちる重い音が辺りに響く。
フランツは目の前で起きたことを理解しようと必死だった。仲間たちも皆、完全に固まってしまっている。この男、一体何者なんだ────────
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