第三話 お侍さん、現地人に遭遇する(3)
◆ ◆ ◆
集落を
名も知らぬ相手ではあるが、せめて安らかに眠ってくれと眼を
「ふぅ……」
疲れを吐き出すように大きく息をして、土
「そろそろ日が暮れるな」
遺体を運ぶのに時間を取られてしまったため、いつの間にやら日は傾き、夜の
黒須はキョロキョロと周囲を見渡すと、神社にあれば
するすると慣れた様子で木に登り、幹を背にして太く安定した枝を
◆ ◆ ◆
チュンチュンと、やけに
「…………………………」
他人の力で起こされた寝起き特有の
昨夜は結局夜襲もなく、静かなものだった。よく眠れたとは言い難いが、森の中でこれだけ休めれば御の字だ。固まった筋肉を
昨日の戦闘でかすり傷一つ負っていないのは分かっているが、
周囲も随分と明るくなったので、黒須は集落にある住処を調べて
まずは硬貨のような物が詰まった皮袋。ジャラジャラと多くの
武家に連なる者の多くが〝
次に、小さな鉄板に
もとより家紋には他人から見れば意味の分からない物も多く、花押にいたっては初見で読み解くのはまず不可能だ。黒須も
いずれにせよ、もしかするとこれが彼らの身元に
黒須は串焼きを食べ終えると遺品を打ち飼いにしまい込み、大男から奪った剣を腰に差して次に進む方向を思案した。
「さて、どうするか」
この集落には馬がいなかった。となれば、少なくともここから歩いて行ける範囲に、奴らの狩場となる街道か人里があるはずだ。
地面に残された足跡を調べ、最も人の出入りが多くあった方向へと足を進めることにした。
「────オオォ──ォオオッ!!」
「────野郎!」
「────! こんな場所に──じゃと!?」
「────うな! 撤退──────げるぞ!」
森の中をのんびり当てずっぽうに歩いていると、遠くから人の争うような物音が聞こえてきた。距離があるので判然としないが、どうやらまともな言葉を話しているようだ。黒須はようやく普通の人間に逢えるかもしれないと期待に胸を膨らませ、気配を消しつつ足を急がせた。
「くそっ、皮が厚すぎて矢が刺さらねえ!」
「マウリは
「お前さんの魔術だけが頼みの綱じゃ! 任せたぞ!」
「は、はいっ! 了解です!」
「何だ、あれは」
黒須の視線は集団が立ち向かっている相手に
「ルォオオォォォォオオッッ!!」
巨人……?
食い入るように観戦していると、仲間に指示を出していた剣士の男が殴り飛ばされた。左の前腕に
────意識はあるらしいが、あれはもう駄目だな。
残りは女に童子、老人だけだ。黒須は思わず前のめりになり、不覚にも物音を立ててしまった。
弓を持った童子がこちらに気付く。
「おい! そこのアンタ、冒険者か!?」
「…………冒険者が何かは知らんが、俺は通りすがりの武者修行だ」
「じゃあ戦えるんだな!? 頼む、手を貸してくれ!」
…………どうしたものだろうか。
本音を言えば是非とも戦いたい。なんなら代わってくれと頼みたいほどだ。しかし、武士として他人の勝負に割って入るような
いや、待て。あの巨人が想像通りの物怪で、童子たちが襲われているというのであれば────
「一つ訊く。そいつは一体何だ?」
「
〝化け物〟、〝化け物〟と言ったか。そうか、やはり物怪か。
「
「すまん、助かる!」
黒須は大盾を持った老人と入れ替わり、正面から巨人に向かい合う。
近くで見ると文字通り、見上げるほどの大きさだ。これまでに立ち合ってきた武芸者を思い返しても、
────
ついつい緩みそうになる口元を我慢しながら、愛刀ではなく、集落で手に入れた剣を腰から引き抜く。生まれて初めての妖怪退治、更には久々の強者の風格を持つ相手とあって血が
相手を
巨人は丸太を振り回しているだけで武術という点では見るべきところはないが、この
まずは力を試してみようと、相手が丸太を
「な……っ! おい、
弓士の
今はただ、少しでも永くこの興奮を味わっていたい。
次の瞬間────岩が砕けるような
「ははは、見事だ! こんな剛力は初めてだ!!」
受けた両腕が
身体中の毛穴から血が噴き出すのではないかと思うほどの高揚を覚え、思わず笑みが
「巨人の一撃を受け止めただと……!?」
拾い物の剣がくの字に曲がってしまったため、巨人の顔面に向けて投げつける。
「────ッッ!! グゥォオォオオッ……!」
やはりこっちを使って正解だった。先ほどの攻撃を受ければ、十年連れ添った愛刀とて
…………では、次に耐久力だな。
物陰から観戦していた時、奴の地肌が
俺の刀にも耐え切るか?
巨人は丸太を取り落として膝をつき、剣をぶつけられた顔を両手で覆って
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