第三話 お侍さん、現地人に遭遇する(2)
「どんな味がするのやら」
黒須の手には枝に突き刺された大蛇の肉。あれを神の使いなどとは
下らないことを考えながら
ほどよく焼けたところで、火から離して匂いを嗅いでみる。特に刺激臭はなく、どちらかと言えば香ばしい良い香り。
物は試しにと、少し焦げた端の方をちまりと
む、これは──────
「
蒸した白身魚に似た歯切れのいい食感、
無我夢中で食べ進め、
「……………………」
まだまだたくさん残っているし……もう一切れ焼こうか。いや、駄目だ。時を空けて後から効いてくるような毒なら、こんな訳の分からん森で卒倒する羽目になりかねん。
口に残る肉の味に心を引かれつつ、
休憩してからしばらく、集落を見つけるまでにさほど時間は掛からなかった。
ガサガサと背の高い草むらを
黒須がそう思ったのは、その集落がこれまでに見たどこよりも貧しい寒村だったからだ。まともな建物は一つとして見当たらず、木の枝と獣の皮を雑に組み合わせ、その上から枯葉を
集落の中をまばらに行き交う人々は先に逢った者たちとよく似て……と言うより、見分けがつかないほどにそっくりだが、やはり皆一様にして着物すら着ておらず、どこをどう切り取っても清潔とは言い難い格好だ。しかし逆に考えると、これだけ姿が似ているのであれば、この集落が彼らの出身地であることに間違いはないとも言えるはず。
「────よし、と。また怯えられても
黒須は集落から少し離れた場所に鹿の死骸や荷物を置くと、父が持たせてくれた大切な愛刀も隠すことにした。浪人の身の上で
集落の周りはぐるりと木の柵で囲まれているため、正々堂々入ろうにも入り口が分からない。少し考えた結果、柵の外から大声で呼び掛けてみることにした。
「頼もう! 俺は通りすがりの旅の者だ! この集落の
武士にとって身分を隠すことは恥とも言える。この場合は仕方がないのかもしれないが、
そう思って集落からの反応を待っていると、
…………おい、今回は丸腰だぞ。
土饅頭からわらわらと
一際大きな
奴がここの
というかこいつら、そもそも俺の言っていることが理解できていないのではないか?
山奥の村では文字が読めない者など珍しくもないが、言葉を話せない者たちの集落など聞いたこともない。いかに山の民といえど、これだけの人数がいて一人も話が通じないとは思ってもみなかった。しかし、せっかく見つけた人里だ。どうにか穏便に話し合い、せめて最寄りの町までの道くらいは聞き出したい。
「この中に俺の言葉が分かる者はいないのか! 俺はお前たちの仲間について大事なことを──」
説得しようと再度大声を出した矢先、黒須は集落の中央に〝ある物〟を見つけて閉口する。
それは、一言で表現するなら
すでに白骨化して
一瞬だけ、この村独自の
やけに好戦的だと思ったが…………なるほど、ここは
黒須は一人心中で納得し、素早く腕を振った。
「ギィッ、アァァァアアア────ッッ!!」
ビュッ! という風切り音の後に、大きな悲鳴が森に響き渡る。
声の元を辿ってみれば、先頭を走っていた大男の左眼から
「
怒りに歪んだ顔で宣告する黒須の声は殺意に満ちており、腹の奥からは
領地を束ねる武家の者にとって、湧き出る野盗は
「アァァアッッ────ギッ!」
黒須は両手で顔面を覆って
初めて見る
「グギャッ!?」
ちょうどよく眼の前で固まっていた者で試し斬りを試みると、肩口から侵入した
「
初めて使う武器に少しばかり高揚しつつ、向かってくる相手を
最初に出逢った者たちもそうだったが、この集落の連中は〝敵を取り囲んで叩く〟という当たり前の戦法すら知らないのか、ただ
しかし、長を
十人も
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