第三話 お侍さん、現地人に遭遇する(1)
「グギャッ! グギャギャッ!」
この森に迷い込んで初めて人と
黒須は
森に暮らす貧民────〝山の民〟という
これまでに一度も遭遇したことはないが、連中は農耕せず、定住せず、山地を
黒須も雨の降る山中で飢えた時、火打袋が
「もし、そこの者ら。食事中にすまない。少し道を尋ねたいのだが」
「「「「「グギャッ!?」」」」」
鹿肉に夢中だったのか、男たちは声を掛けられて初めてこちらの存在に気が付いたようだった。驚いたように顔を見合わせ、なにやら随分と戸惑った様子だ。
…………
どうしたものかと頭を悩ませていると、五人は立ち上がり、駆け足でこちらへ向かってきた。
その手には武器のつもりか、木製の
「待たれよ、俺は怪しい者ではない。武者修行の途中でな、薄汚い
怯えられぬよう精一杯穏やかに語り掛けたつもりだったが、ついに連中は棍棒を振り上げ襲い掛かってきた。その動きには連携も何もあったものではなく、こちらに殺到するあまり、互いに体をぶつけ合っているような有様だ。
「グギャッ!!」
力任せに振り回すだけの棒振りに
相手方の背格好も相まって、きっと
「よさんか。俺は金目の物など何も持っていないぞ」
黒須は努めて冷静に
こちらの言葉を理解しているのかどうかは分からないが、聞く耳を持っていないのは確かだ。
「やめよと言うに」
「ブギャッ!」
口で言って分からないのであればと、一番近くにいた者を軽く蹴り倒してみる。
「グギャ!? グギャギャ────ッ!!」
仲間をやられて逆上したのか、さらに攻撃が激しくなってしまった。
飢えた狂犬のような眼付きで口角泡を飛ばし、ぎゃあぎゃあと耳障りな気炎を吐いている。
このまま
「貴様ら、いい加減にせよ。この二本差しが見えんのか。俺もそこまで気が長い方ではないのだ。これ以上続けるつもりであれば、斬るぞ」
低い声を出して脅してみたが、連中の行動に変化は見られない。
一体何がそんなに
五人がかりで取り囲んでいて
こちらの警告に耳を貸さない以上──────これはもう、致し方あるまい。
黒須は頭を切り替えると、抜刀と同時に先頭にいた男の首を
宙へ舞った頭部が地面に落下するよりも速く、返す刀で隣にいた者を
「「「ギャッッ!?」」」
突然の反撃に腰を抜かしたのか、
やむを得なかったとはいえ、五人も斬ってしまった。こういった閉鎖された場所に住む村人は取り分け仲間意識が強く、それでなくとも相手は山の民というよく分からない者たちだ。このまま何事もなく立ち去って、勘違いで周辺の住民に報復でもされてしまうと後味が悪い。斬り殺した当事者である以上、厄介事になるのは眼に見えているが、せめて事情を説明して遺体の場所を伝えてやるくらいの配慮はした方が無難だろう。
黒須はそう決意すると、腹を裂かれた鹿の死骸に歩み寄る。
きっと彼らの村にとって、これは久々に得た貴重な食料に違いない。遺体は数が多くて運べないが、村に着いたら人手を借りて迎えにきてやろう。
身体を揺すって鹿がずり落ちないかを確認してから立ち上がると、臓物が抜かれているためか、見た目ほどには重くなかった。この程度なら動くに支障はなさそうだ。
「さてと、村はどっちだ?」
黒須は
早速不自然に折られた枝を発見し、その方向へと足を向けた。
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