第二話 お侍さん、変化に気が付く
「……なんとも、面妖な森だな」
道なき道を進みながら、黒須は少し違和感を覚え始めていた。幼少の頃から野山を駆け回り、旅に出てからも嫌になるほど森を歩いてきたが…………この場所には、知らないものが多すぎる。
眼がチカチカしそうな
いつの間に迷い込んだのかは分からんが、知らぬうちに国境を越えたか?
音もなく飛びかかってくる
「──────ッ!?」
一瞬、枯れ枝が折れて落ちてきたのかと思ったが、よく見ればそれは巨大な
「「…………………………」」
互いの視線が絡み合い、凍ったように時が止まる。反射的に右手が刀の
「……
蛇は知恵や福徳を
相手からの反応を無言のままじっと待っていると、大蛇はゆっくりと
「何だ、ただの蛇か」
神聖な
黒須は少々落胆しながら素早く逆手で脇差しを抜くと、
「……………………?」
頭部を失った蛇は恨みがましくグネグネとのたうち回っていたが、そんなことには気も留めずに自身の右手を凝視する。
────何だ? 今、思いのほか速く剣を振れたような…………
先ほどの
意識に反して身体が動いたと言うべきだろうか。長年剣を振ってきたが、こんな感覚は初めてだ。
…………気のせいか?
黒須は首を
せっせと肉を回収して顔に
「…………
そう、とある町で最強を名乗っていた流派に挑んだ際、斬り飛ばされたはずの右耳。それがすっかり元通りになっていた。ぐにぐにと触ってみても痛みはなく、まるで欠損していたこと自体が夢であったかのような自然さだ。そして改めて意識してみれば、どことなく、身体のあちこちに違和感があるような気がする。
これは一度、しっかり
武士たる者、常日頃から己の体調を完璧に把握しておく必要がある。斬り合いの最中に不調に気が付いたとしても、敵は手加減などしてはくれない。むしろ、相手の弱点を積極的に攻めるのが武芸者として正しい姿。不利な状態で戦いに臨む方が悪く、
足早に休める場所を探し、ちょうどいい小川を見つけたので少し休憩することにした。すぐ手の届く位置に刀を置きつつ、背負っていた
「…………これは、喜ぶべきなのだろうか」
案の定、変化があったのは右耳だけではなかった。
幼少の頃に長兄との手合わせでへし折られてから醜く曲がっていた指の骨、
「…………………………」
青竹で自作した不格好な
……
峠道を歩いていると美しい
……それとも、知らぬ間に死んで
……まさか、気付かぬうちに不意討ちを受けたか?
否、
「…………いや、時間の無駄だな」
黒須は一言
気を取り直し、次に持ち物を確認することにした。この森が
元は濃紺だった着物・
全て丁寧に吟味したが、持ち物に変化はなさそうだ。身体の件があったので、使い古した
森を
「〝不足を常とすれば不足無し〟か」
父の教訓を思い出す。『常日頃から厳しい環境に身を置いておけば、いざ修羅場に放り込まれても平然とできるものよ!』と、よく通る
〝
やはり、いつだって父上は正しい。
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