冒険者登録(2)

 私たちが掲示板のところへ行くと、こちらに気づいたようで二人はペコリと頭を下げた。

「ケントさん、ココアさん! 〈癒し手〉のシャロンさんを紹介させてください」

「え、〈癒し手〉が見つかったんですか!? 俺たちだとレベルが低すぎるから、無理だろうってあきらめてたんですけど……」

「わあ、よかったぁ」

 嬉しそうに笑う二人を見て、私もほおが緩む。

「〈癒し手〉のシャロンです。レベルが低くて初めのうちはあんまり役に立てないけど、それでもよければ」

「もちろん! 俺はケント。よろしくな、シャロン!」

「私たちもレベルが低いですから……。ココアです、よろしくお願いします!」

 すぐに二人から快諾の返事がきたので、私も改めて「よろしく」と挨拶を返す。よかった、無事にパーティを組むことができた。


 元気いっぱいな〈剣士〉のケントは、ツーブロックにした短髪の男の子だ。

 革の胸当てをつけていて、装備は最低限のものをそろえているというのが見てわかる。腰に差した剣は、初心者用の〈鉄のソード〉だろう。これは初期装備の剣で、正直、攻撃力はあまり高くないけれど、駆け出し冒険者にはお値段も手頃で扱いやすいものだと思う。


 大人しそうな〈魔法使い〉のココアは、低い位置で髪を二つに結んだ女の子だ。

 オフホワイトのローブに、短い初心者用の杖を手にしている。かぶっている大きな〈マジックハット〉は魔法の威力を3%上げてくれる効果がついているので、初心者のころは重宝する装備だ。

 私が仲間になると聞いて、嬉しそうにしてくれているのが可愛い。私には兄しかいないけれど、妹がいたらこんな感じだったかもしれない。


 話を聞くと、もうこのまま二人で依頼を受けて出かけようかと悩んでいたのだという。〈癒し手〉がいなくとも、回復アイテムを使えばを治せるからだ。

 もちろんそれでも問題はないけれど、〈癒し手〉がいるとをつけることができるので、やっぱり心強いのだ。は味方にかけられる支援スキルで、体力や攻撃力を一定時間上げることができる。

 私はまだレベル1なので〈ヒール〉すら使えないけれど、早い段階で取得する予定だ。

「それじゃあ、パーティ登録をして依頼を受けてみましょうか」

「ああ!」

「はいっ!」

 ということで、私は再びプリムさんに声をかける。ギルドでパーティ登録をすると、経験値がパーティ内に平均されて分配されるのだ。ちなみにレベル制限があり、各パーティメンバーのレベル差が+-15以内でないと仕組みを使うことはできない。

「はい、登録ですね!」

 プリムさんは頷いて、すぐにパーティ登録をしてくれた。これで依頼を受けて狩りへ行くことができる。


 お互いに準備を整え、三〇分後に冒険者ギルドに集合して依頼へ行くことになった。とはいっても、私は〈エレンツィ神聖国〉に来るまでの道中で回復アイテムを購入したので、改めて用意するものはない。

 なので、依頼掲示板を見ることにした。

 ──おいしい依頼はないかな?

 実家から持ち出したお金はあるけれど、永遠にもつわけではない。なるべく節約をしているが、いい装備や消耗品のアイテムを買っていたらすぐ底をつきそうだ。

「ゲームでもあったクエストが多いなぁ」

 ギルドが発行している討伐依頼のほかに、護衛、薬草などの採取や、はては買い物や牧場の手伝いなど……ゲーム時代にも常設されていたクエストがあった。危険がなくすぐ収入になるけれど、報酬はあまりよくない。初心者のお金稼ぎ用クエストと言われていた。

「あ、シナリオクエストもあるんだ……」

 ゲームにはいくつかのシナリオがあって、クエストを通してこの世界のことを知ることができる。

 たとえば、私の出身国の〈ファーブルム王国〉と〈エレンツィ神聖国〉の二国に関連する戦争系のシナリオ『崩れた夢』があった。プレイヤーは第三者として参加していたので、どちらの味方でもなかったけれど……まあ、気持ちのいいシナリオではなかった。

 端から順番に見ていき、最後の依頼で私は視線を止めた。

「なんだろう、この高額クエスト。依頼内容は、〈嘆きの宝玉〉の納品?」

 ……はて?

 聞いたことのあるアイテム名ではあるけれど、自分で使ったことがないのでいまいち思い出せない。というか、ゲームでは用途不明のアイテムだったはずだ。

 依頼が気になったので、プリムさんのところへ行って聞いてみることにした。


「ああ、その依頼ですか? かなり前からあるんですけど、誰もそのアイテムを知らなくてずっと未達成なんですよ」

「年季が入っていそうな依頼書だと思ってたら、本当に長期間このままだったんですね」

 私が苦笑すると、プリムさんが「そうなんですよ~」と項垂うなだれた。ギルドとしては早く達成してほしいみたいだ。

「報酬も三〇〇万リズと高額なので、最初のうちはみんな調べたりダンジョンに行ったりしていたんですけど……なかなか成果が得られず……あきらめてしまったんです」

「どこで手に入るのかわからないと、どうしようもないですからね」

「はい……。内容は納品なので、もし見つけたら依頼を受けていただくのがいいと思います」

 討伐などは依頼を先に受けないといけないけれど、期限のない納品依頼ならアイテムを手に入れてからの方が楽だろう。私は「そのときは声をかけますね」と頷いた。


 プリムさんと話が終わったら、ちょうどケントとココアが戻ってきた。どうやら回復アイテムを買ってきたようだ。

「お待たせ、シャロン」

「準備万端です!」

 二人とも今から冒険に出るのが楽しみなようで、目をキラキラさせている。かくいう私も、初めての狩りでワクワクドキドキしているのだ。

 今回受ける依頼は、初心者にピッタリな〈薬草〉採取と〈ウルフ〉討伐の二つだ。〈プルル〉より経験値がおいしいけれど、いかんせん私一人で倒すには相手がちょっと強い。なので、二人と一緒に狩りに行けるのは助かる。

 プリムさんに依頼の手続きをしてもらい、私たちは〈冒険者ギルド〉を後にした。


    ◇◇◇


 街から歩いて三〇分ほどで目的地の〈シュリアの森〉というフィールドに到着した。〈聖都ツィレ〉の斜め下──南東に位置している場所だ。

 森は太陽の光が入り込み、薄暗さなどが感じられないれいな場所だった。草花も多く、ぱっと見ただけで薬草を確認することもできる。低レベル者がレベル上げをするのにうってつけだろう。

 ここもやっぱりゲームのときとは違い、実物で見ると圧倒される。都会っ子だった私は、普通の森であるここですらも神秘的だと思ってしまうくらいだ。

「す~は~~」

 私が大きく深呼吸をしていると、ケントが「緊張してるのか?」と笑った。

「いや、この美しい場所に来て嬉しい気持ちを落ち着かせようと思って」

「お、おお……?」

 正直に答えると、ケントが目をしばたたかせた。なんと返事をすればいいかわからずに、困っているような表情だ。「どういうことだ?」と私に聞いてきた。

「……あまり家から出ることがなかったから、景色を見たりするのが好きなの。だからいろいろなところに行けるように、レベル上げも頑張るつもり!」

「ああ、そういうことか! 俺も俺も! いろんなところに行ってみたい!」

「本当!? 気が合うね~!」

 やはりこの世界の景色を堪能したいという気持ちは、現地で生きる人も同じみたいだ。わかるわかると頷いていたら、ココアが苦笑してる。

「森の入り口でしゃべってないで、早く入ろうよ」

「それもそうだな! んじゃ、さっき話した通り俺が前を歩くから、シャロン、ココアの順でついてきてくれ」

「「了解!」」

 進む前にきちんと隊列の確認を行っておく。作戦とは呼べない簡単なものだけれど、私たちはレベルも低いのでこれくらいでちょうどいい。変に連携を意識するより、く動けると思う。


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