冒険者登録(1)

 転職後、逃げるように〈フローディア大聖堂〉を後にした私は〈冒険者ギルド〉を目指した。場所は〈フローディア大聖堂〉から東へ行き、中央広場を通りすぎて少し進んだ先だ。街の外へ出るだけなら東門が近いだろう。

 中央広場にも〈転移ゲート〉があるので、ついでに登録をしておく。これでツィレのゲート二つともに登録が完了した。

「あ、ギルド発見!」

 ギルドは剣とつえと盾が描かれた大きな看板が入り口の上に設置してあり、何人もの冒険者が出入りしているので活気があることが遠目でもすぐにわかった。私もここで冒険者登録をして、本格的に活動を開始するのだ。


 〈冒険者ギルド〉は、この世界のほとんどの主要都市に支部がある中立機関だ。

 主なメイン業務は冒険者へ依頼を発注すること。その依頼元は個人から国まで広く扱っており、モンスター討伐や薬草採取、ほかの街などへ行く際の護衛などがある。冒険者の管理も行っているので、その戦力は一国家にも匹敵するとかしないとか。

 ゲーム時代も様々なクエストの発注を受けていたので、プレイヤーもみのある場所だ。


 私は重厚で大きな木の扉を開いてギルドの中に入った。

「おおぉ……」

 ざわざわした騒音に近いようなにぎやかな声が聞こえてきて、まさにこれ~! と、私のテンションが上がっていく。ゲーム時代もプレイヤーが大勢いてこんな感じだった。

 ギルドの建物は三階まである。一階は冒険者登録や依頼、素材の買い取りなど、日々の業務が行われている。二階は簡単な資料室と打ち合わせスペースが用意されている。三階はギルドマスターの部屋や応接室などがある。

「受付は、っと」

 奥に五つの受付があった。何人か待っているが、そんなに混んではいないようだ。

 受付によって業務内容が分かれているわけではないので、私は順番がくるのをのんびり待つことにしたのだが……ふいに冒険者たちの話し声が聞こえてきた。

「おい、聞いたか? 今、大聖堂で奇跡が起きたらしいぞ」

「なんだそれ?」

「女神フローディアの像が輝いたんだって」

「はあぁ? そんなわけあるかよ。お前、だまされたんじゃねーのか?」

 ……ひえっ!

 あまり本気にはしていないようだけれど、もうこんなところまでうわさがきていることに驚いた。思いのほか、情報の伝達が早そうだ。

 ……どうか私だとばれませんように。

 祈ったからか、ちょうど受付が空いたので会話をしていた冒険者の方は見ないようにそそくさと受付カウンターへ向かった。


 木製のカウンターの上にはインクつぼと羽根ペンが置かれており、受付の中には壁に造りつけの植物模様が彫られた書棚と引き出しがあった。業務に必要な資料や、冒険者に支払う報酬などがしまわれているのだろう。奥に続く扉もある。

 ……こういう建物って、見ているだけでも楽しいね。

「すみません、冒険者登録をしたいんですが……」

 ワクワクしながら声をかけると、受付の女性はにこりと微笑ほほえんで後ろの書棚から登録用紙を取り出して対応してくれた。

「はい! 初めての方ですね。受付のプリムと申します」

「シャロンです。よろしくお願いします」


 受付嬢のプリムさんは、エルフ族の女の子だった。

 おっとりした蜂蜜色の瞳は優しい雰囲気で、セミロングの黄緑色の髪を内巻きにしている。年は私より少し上に見えるので、二〇歳手前だろうか。

 制服は白のブラウスの上に黒を基調とした厚手のものが重ねられている。装飾品などは好きにアレンジをしているようで、個性が出ていて可愛かわいらしい。プリムさんはチェーンのついたブローチを胸元につけている。


「シャロンさんですね、よろしくお願いします。まずは適性を調べますので、〈星の記憶〉に手をかざしてください。これから読み取れるのは、職業ジョブ、レベルの二つです」

「わかりました」

 プリムさんが取り出した〈星の記憶〉は、羅針盤に似たアイテムだ。

 ゲームではメジャーなアイテムの一つで、対象の『レベル』『職業ジョブ』の二つを知ることができる。ただしレベルが50以下という条件があるため、それ以上の人物には使うことができない。

 私が手をかざすと、〈星の記憶〉の二本の針が動き出した。レベルは1、職業ジョブは〈いやし手〉を指している。

「レベル1の〈癒し手〉ですね。では、問題なければこのまま登録しちゃいますね」

「お願いします」

 プリムさんが登録のために一度席を外した。私は待つ間に契約書を確認する。

 とはいっても、そこまで大それたものではない。ようは、危険な仕事なので死んでも〈冒険者ギルド〉は責任を持ちませんよ、というのが遠回しに書いてあるのだ。

 冒険者のランクは上からS・A・B・C・D・E・Fランク。

 私はFランクから始まり、Sランクを目指していく。ランクを上げると行けるダンジョンなどが増えるため、レベル上げの効率が上がるしいいアイテムを手に入れやすくなる。

 しばらくして、プリムさんが戻ってきた。

「無事に登録できました。これがシャロンさんの〈冒険者カード〉です。今日から冒険者として、よろしくお願いします」

「はい。よろしくお願いします」

 プリムさんから受け取った〈冒険者カード〉は、プロフィールカードのようなものだ。名前やレベル、職業ジョブ、それからクエスト情報などを表示させられる。あ、身分証としても使えるね。

 よし、これで〈癒し手〉として冒険することができる。

 どんな依頼を受けようか胸躍らせていると、プリムさんから「もしよければなんですが……」と声をかけられた。

「実は、〈癒し手〉を探している駆け出しのパーティがいるんですよ」

「おぉっ!」

 レベル1だけどお誘いをいただいてしまった。

 まだスキルを一つも覚えていなくて役立たずだけれど、数レベル上げるのはあっという間なのでそんなに問題はないはずだ。私は「ぜひ」とうなずいた。

 本当は一人で〈鉄の鈍器メイス〉を振り回してレベル上げをしようと思っていたけれど、誰かとわいわい冒険できるのは楽しいしうれしい。

「本当ですか? よかったです。あそこにいる二人組のパーティなんですよ」

 プリムさんが示す方を見ると、依頼掲示板の前に二人の子供がいた。年のころは十代半ばくらいで、私より年下に見える。職業ジョブは男の子が〈剣士〉で女の子が〈魔法使い〉だろう。


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