第5話
(いやいやいや)
兄は華麗に頭を振って、悪魔の囁きを吹き飛ばした。
(見守ると言ったら、見守るんだ。私。私の弟だぞ)
兄は戻しかけた本を再度持ち直し、読む姿勢を取りながら弟の様子を窺った。
(ん。あれは店主か。なかなかどうして上品そうな老齢男性だ。うむ。信用できそうだな。弟に所望の品を尋ねているのか。弟は具体的な要望はあるのだろうか。具体的にないのならば、やはりすべてのお洒落眼鏡を、いや、お洒落眼鏡とは限らないが。とにかく。必要な眼鏡はすべて買い上げればいいのではないだろうか。もし金が足りずとも、家名を告げてあとで届けさせると言えばいいしな。うむ。ん?弟が店主に言っているな。なになに)
縁が銀色の眼鏡がほしい。
(2023.8.6)
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