第3話




「なに?弟が一人で町に出かけたのか?」

「はい」


 緑色の三つ編みの執事に告げられた報告に、兄は居ても立っても居られずに執務室兼自室から飛び出した。


(そろそろ一人で町に出ても差し支えない年齢だと。確かにあと一年もしたら弟も十五歳。私たちの仲間入りをするわけだが。だからと言って、まだ十四歳………いや、もう十四歳、か)


 走馬灯のように全身を駆け巡ったのは、弟との大切で甘やかな記憶。


(もう、十四歳、か)


 最初の勢いはどこへ行ったのか。

 走る速度を徐々に落とした兄は、一度立ち止ま。ろうとしたが、やはり止めて、速く速く、初速よりも速く駆け出した。

 距離を置かれようが、弟への想いに陰りが生まれようか。

 距離を置かれているから、己も距離を置こうと考えるのか。

 否。


(見守るだけだ。見守るだけ。例えば、弟にどのような困難や危険が立ちはだかろうと、も!見守るだけだ!)


 強い決意の下、兄は走った。

 走って走って走った。

 最愛の弟の元へと。











(2023.7.31)



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