第2話




(ああ、またか)


 兄は庭に佇んでいる弟を見つけて、ひそやかに嘆息した。


 常に降り続ける多様な雪に触れて髪の色が銀に変わった人間は選ばれた人間。

 などという事実を帯びてはいるものの、仰々しさが目立つ言い伝えのせいなのか。

 以前は屈託なく接して来た弟が近寄らなくなってしまった。

 誰に吹き込まれたわけでもなく。

 弟は自ら距離を置いている。


(この銀髪がいけないのか?)


 兄は頬にかかっていた長い銀髪に触れては、つつと撫でた。

 艶があり撫で甲斐のある、素晴らしい銀髪だった。


 選ばれた人間であることは否定しないので、成人の仲間入りをする十五歳の誕生日という相応しい日に触れた雪で銀髪に変わるのは至極当然だったのだが、まさか弟に距離を置かれるとは誰が予想できただろうか。

 否、できようはずがなかった。

 あんなにも。

 あんなにも、兄は選ばれた人間だぞと常日頃から言っていたのだ。

 銀色に変わる前からずっと。

 そうだ。

 その頃は兄さま、兄さまと、愛らしい声で、愛らしい顔で、愛らしい動きで、いつもいつも傍に居てくれたというのに。


 なにゆえ。

 銀髪に変わった途端に、離れるのか。

 選ばれた人間なのだ。

 銀髪に変わることは容易に予想できたはずなのに。

 なにゆえ。


(弟よ)


 なにゆえ。


 切なさで瞳を潤わせたのち、兄は銀色の長髪を扇状になびかせては、弟に背を向けて歩き出したのであった。











(2023.7.31)



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