悪逆女帝の高校デビュー

津慈

プロローグ

 失敗は成功の母なんて言葉があるけど、取り返しのつかない失敗の前にはそんな言葉なんて気休めにもならなかった。現実はスマホゲームみたい何十回爆死したら星5キャラが確定されることも無いし、そもそも持って生まれたスペックで排出率も均等じゃない。結局、私が何が言いたいのかといえば高校受験前に40度の高熱と右目ものもらいと重度の深爪を同時に患った私の人生は15歳にしてサービスが終了したということだ。本当にありがとうございました。[完]


「未世! 今日、入学式でしょ!! ブツブツ言ってないで早く起きなさい!!」

「……」

「はあ……もうしょうがないでしょ。別に入った高校で人生が決まったりしないわよ。ほら、切り替えて支度しなさい!」

「……あの黒峰でもそう言える?」

「そ、それは……きっと頑張ればどうにでもなるわ!ド、ドンマイ!!」

「ドンマイって……もうどうにもならない前提じゃん」


 くるまっていた布団の中から珍しく言い淀む母の顔を覗くと初めて笑顔を覚えたアンドロイドみたいな無機質な愛想笑いを浮かべていた。

 というのも私が高熱でボヤける左目と落ち着かない指先で辛うじて1割埋めた答案用紙は唯一滑り止めで受けていた黒峰高校に引っかかった。いや、引っかかってしまった。


『……そうですね。未成年の犯罪増加は教育、家庭環境の問題が大きいと思いますね。最近SNSで問題になっている高校生による飲酒、喫煙、暴行行為の投稿も所謂その~適切じゃないかもですが地元で有名な不良高校が起点となっていますからね。ここは今一度国を上げてしっかりとした情操教育を……』


 リビングから聞こえてくる朝のニュースの音声が私に更なる追い打ちをかける。


「ニュースのやつ、黒峰高校のことだよね。教室でシャンパンタワーしてる炎上動画。」

「……頑張れ!」

「無理だよ。学校行ったら私死んじゃうかも。転校したい。」

「言っとくけどうちにそんなお金ないわよ。とにかく頑張れ!住めば都ってやつよ!ひたすら頑張れ!」

「もう私に頑張れ以外の選択肢ないの!?」



 ―――母からの圧力によって半ば無理やりに黒峰高校入学式へとやってきた私は校内に入って1秒で後悔していた。カラコンとか金髪とかピアスとか、誰も制服を着てないとか、校内でバイクに乗ってるとかそんな事はこの際どうでもいい。いや、どうでもよくはないけど……。


「なあ、制服着てるこいつ誰??」

「知らね。つかなんでコイツここに座ってんのwww」

「……すぅー」


 母にこの惨状を説明してもう学校には行かないと宣言する事を決めた私はとにかく入学式だけは何事もなく無事にすまそうとひっそりと指定された1番後ろ席に座った。しかし何故か周りワラワラとヤンキーが溜まり始め気がつけば完全包囲されていた。私もすぐ帰れば良かったのにヤンキー達に至近距離で睨まれて思考が停止してしまった。思い返せば何故か引き返したら殺される気がしてがむしゃらに突っ込んだのが全ての敗因。そこそこコミュ障が入っている私には声を掛けて席を譲るという打開策が出来なかったのも状況をより悪くしていた。


「なあ、そこの席譲ってくんね?」

「……え、すぅー」

「は? 何こいつシカトしてんの?」

「……ぅ、すぅー」

「おい、女だからって何もされないとか思ってんの? あ?!」

「……あ、ぅ、ひゅ」


 正直、そこら辺からの記憶が無い。何を隠そう生まれて初めて男性に至近距離で怒鳴られて私の精神は完全に崩壊していた。尚且つ病み上がりだった事も災いして私は小さな呼吸音と共にヤンキーに見守られながらひっそりと気絶してしまった。


 後日聞けば白目を向いてピクリとも動かなくなった私に歴戦のヤンキー達もビビり散らかして先生達が数人がかりで保健室まで運んでくれたらしい。


 さて、ここまで聞いて私が今現在まで約2ヶ月間不登校な事に文句がある奴はいるだろうか?いねぇよな? 母も私のあまりの惨状に考えを改めたのか何も言わなくなった。

 とはいえ元々のコミュ障にあのヤンキーのせいで軽い男性恐怖症まで併発したとはいえこのままではいけないとも思う。独学で勉強はしているがここ数ヶ月は完全に引きこもりだ。そして時間が過ぎれば過ぎるほどニートまっしぐらな人生が目に見えている。何より誰かの助けを待っている私の受け身な考えがいけない。勿論わかっているけど、でも……。

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