第48話

 尊敬する先輩と俺を繋げてくれた混沌王。

 俺に居場所をくれたカードゲーム。

 裏切られても、心を折られても。

 それでも俺は混沌王をやめようとは思わなかった。

 俺はずっと、この遊びと共に成長をするのだと、そう思ったから俺は……!


「俺はこの戦いに勝利するんだぜ!! 俺は手札から龍の巫女タマリを登場させ、デッキから属性:ドラゴンのカードを一枚手札に加えるぜ!」


 先輩の手から取り返し、再び俺の元に戻った切り札! 例えデッキを変えようとも切り札は、思い出は絶対に手放さない!


「持ってくるのは俺の相棒『覇龍神王ジャッジメントディザスター』! 俺はタマリを使用済みゾーンに送り、ジャッジメントディザスターを特殊演出するぜ!」


 一体の黒い龍が咆哮を上げてステージゾーンに現れる。ジャンルカードやシチュエーションカードの設定によってデフォルメ制服姿になってるけど、目の前のドラゴンは紛れもなく俺の相棒なんだぜ!


 :相棒を辱めるようになったか

 :おいおい変わっちまったなぁ!

 :でもそれがジャッジ君だぜ!

 :今のお前は別ベクトルでイキイキしてるぞ!


「凄いぜ……! たくさんの味方がいるから、属性の数がとんでもないことになっているんだぜ……!!」


 ロボット、不良、闇落ち、ゾンビ、社会人、萌え、パイロット、ツンデレ、ヤンデレ、学生、殺し屋、先生、格闘家、芸術家……いっぱい! 属性過多で俺のジャッジメントディザスターが破裂しないんだぜ!?


 :AIの判断で一部反映されなくなってるぞ

 :カオスなだけの属性過多は解釈違いなAIちゃん

 :よし、調和が取れてる姿になってるな!

 :だけど総長のカードで全ての味方の属性:不良キャラはカードの設定を受け付けなくなっているのでは……?

 :あれはその時に出ていたキャラ全てに適用されるのであって、そのカード使用後に登場させたキャラは適用外になるぞ


「良かったぜ……」


 そうホッとしている時、次に行動し始めたのがこの二人。


「次はアタシたちの番! 行くよアルちゃん!」

「えぇ、よろしくってよ!」


 共に歩んだ仲間たちは一人、また一人と消えていく苦しみ。自分だけが取り残されていく焦燥感。そんなアン先輩だけど、妹であるパイア先輩の誘いで、仲間と共に歩める遊びを見つけた。


「ガマゴン!」

「畏まりました、お嬢様」

「パイア!」

「行くンゴ!!」


 アルビトロだってそうだぜ。

 総長時代ではライバル同士だった二人は、お互いを内心憎からず思っていたのに些細なきっかけですれ違ってしまっていた。


 そんな二人を再び繋げたのが、混沌王!


「私はお嬢様にクロスしている特攻女帝カードとジャッジメントディザスターを対象にシチュエーションカード『受け継がれし帝冠』をシーン展開!」

「私は姉御にクロスしている姫騎士総長カードとジャッジメントディザスターを対象にシチュエーションカード『引き継がれし特服』をシーン展開するンゴ!」


 アン先輩とアルビトロがクロスしている装備がパージされ、対象なったジャッジメントディザスターの体に装着されていく!


「ふむ、それは流石に厄介だな」

『ッ!?』


 アーマーが揃えばその力は絶大。それを把握していた総帥が妨害しようと手札から何かしらのカードを使おうとする。


 :ならそれを妨害してやるぜ!

 :すまんこっち手札ゼロだから頼んだ!

 :貴重な残った妨害カードだけど関係ねぇ!

 :だけどまたとんでも現象が出たら?

 :あっ

 :ひょっとして無理?

 :やばいぞこれ!


 コメントの反応からして、総帥のカードを無効にしようともなんらかの要因で不発に終わるか無駄になるかの二択になるという。でもこのままじゃ俺のジャッジメントディザスターの強化が……!?


「私は手札から……なんだこの音は――ッ!?」


 その瞬間。


「な、なんだ……? 私の手が、動かない?」

「え……」


 :なんだ?

 :動きを止めたぞ?

 :手どころか、体全体が止まってる?


「これは……まさか麻痺のデバフか?」

「麻痺? ……あっ!」


 :あ

 :まさか

 :そういうこと!?


「なんだエーシス!? 何か心当たりがあるんだぜ!?」

「……ははっ、どーりで姿が見えない筈だよ! 大丈夫ジャッジ君! このまま進めていって!」


 エーシスが問題ないと言ってくれる。

 釈然としなかったけど少し考えたら理解できた。俺たちの中で一番強く、恐ろしいデュエリストが見当たらない理由。そして何かをしようとした総帥を完璧に妨害して見せた嫌がらせを得意とする敏腕プレイヤー。


「まさか……いるんだぜ!?」


 本当ならこんなにも心強い味方はいない。あの人が見守ってくれているから、俺たちは安心できる!


「流石だぜ!!」


 それと同時に総帥が一定時間操作を行わなかったことで様子見判定となったのか、俺のジャッジメントディザスターの装着が完了する!


「これぞ『姫騎士女帝龍ジャッジメントディザスター』だぜ!」


 :とんでもねぇマニアック龍でおどれぇた!

 :ジャッジ君興奮してんなwww

 :デフォルメ状態が不幸中の幸いで草


《わっちゃあのターンデス!》


 心強いと言えばマナナンの存在もそうだぜ。

 ゲームのNPCだというのに、マナナンは俺たちの中で一番安定した、王道の強いデュエリスト。どんな相手でも変わらずに、冷静に対処して見せるマナナンの姿に俺は尊敬を抱いているんだぜ!


《手札からシチュエーションカード『超鋼鉄大戦、始動!』をシーン展開するデス。対象は属性:ロボットの味方キャラクター一体……つまりジャッジメントディザスターデス!》


 :次はマナナンか!

 :いっけぇー! マナちゃん!

 :きゃああああマナ様ああああ!


《わっちゃあはデッキから属性:ロボットのキャラクターカード以外を引けるまで最大で五枚ドローするデス!》


 一枚目、鋼鉄のファーザーロボ。

 二枚目、鋼鉄の破壊神デストロ。

 三枚目、鋼鉄犬ファイ。

 四枚目、鋼鉄の殲滅龍ドラーディ。


《そして最後のドローデス! わっちゃあが引いたのは――》


 ――鋼鉄の守護神ガーディン。


《追加条件達成によりわっちゃあは新しい設定を開示するデス! ドローしたカードが全て属性:ロボットのキャラクターカードなら、わっちゃあはドローした全てのカードをステージゾーンに特殊演出させることができるデス!》


 :普通なら事故ったレベルwww

 :流石の引きや!

 :やっぱマナナン先生は最高やな!


《そして『超鋼鉄大戦、始動!』の本来の設定デス! このターン、わっちゃあは攻撃できない代わりに指定した対象の攻撃力を、このカードの設定でドローしたキャラの攻撃力を合計して上昇させるデス!》


 ジャッジメントディザスターが突如として現れたロボット軍団によって更なるパワーアップをする!


「これでジャッジメントディザスターの攻撃力は120まで上がったぜ!!」


 :うおおおおおおおお!!!

 :とんでもねぇ上がり幅だ!

 :もうメサイア・ロードワンパンした上で総帥を消し炭にできるレベルや!


「さぁ最後は私の番だよー!!」


 最後はエーシスが名乗りを上げるぜ!


「対象になることで設定が開示されるなら、まさに私の独壇場! 私のファッショナブルバーンデッキなら対象関係なしにメンタルを減らすことができるよ!」


 エーシスの言う通り、現状メサイア・ロードのデッキからカードをシーン展開させる設定は脅威的だ。


 なのでエーシスが取るべき行動は当然――!!


「私はジャンルカード『ファッショナブルステージ』を展開! これによって場のファッショナブル・ルーキーと名の付くキャラの攻撃力が変動した時、貴方にそれ相応のバーンダメージを与えるよ!」


 :だけどこの場にルーキーは……

 :いいやまだだ!

 :妹ちゃんのターンはまだ終わってねぇ!


「私の手にはシチュエーションカード『奇跡のファッショナブル・エントリー』がある……これはファッショナブルステージが存在している場合に使用することができるカードで、自分の場に存在するキャラクター一体を対象に今の攻撃力をそのまま相手のメンタルにダメージを与えるカード!」


 ――エーシス。


 混沌王を始めたての初心者だったエーシスが今や俺たち公式デュエリストと並び立ち、頂点プレイヤーと呼ばれたデュエル仙人とそして結社の総帥を相手に戦えるほど成長したデュエリスト。


「だからみんな!!」


 デュエル仙人という強敵を相手にしても諦めず、そして自分を信じ続けてきたエーシスの姿に、俺は勇気というものを教わったんだぜ。


「ジャッジ君のジャッジメントディザスターを対象に――」


 エーシスたちがいなかったら、俺たちはここまで来れなかったと思うんだぜ。




「――目一杯、バフかけてえええええ!!」




 :おおおおおおおお!!

 :おっしゃやるぞー!!

 :俺はジャッジメントディザスターを対象にシチュエーションカードをシーン展開!

 :俺はキャラの設定を開示するぞ!

 :もってけドロボー!

 :オラの元気もってけー!

 :パワーをメテオに!

 :いいですとも!

 :なんの5メガネ!

 :ちくわ大明神

 :これが絆の力じゃい!

 :廃課金パワーを見せてやるよ!

 :成り金覇龍ちゃん!? 推せる!

 :覇龍! 覇龍! 覇龍!

 :覇龍! 覇龍! 覇龍!

 :託したぜ、俺たちの力!

 :クソデカファッションショーの始まりだ!




 今残っている全てのデュエリストたちから様々な攻撃力上げのカードを使われ、ジャッジメントディザスターの力が増していく!


「これで攻撃力はに!」

「私も助力しますわ」

「リンちゃん!」

「リン!」

「例え全ての元凶がお父様でも、元々のきっかけは私! ならば私が助けなくてはいつ助けるのですわ!」


 リンが手札から一枚のカードを掲げる!


「私はシチュエーションカード『火事場の馬鹿力』をシーン展開! 対象はジャッジメントディザスター……その攻撃力を倍にしますわ!!」


 これで……!?


「攻撃力、2000……ッ!」


 総帥までもが目を見開くほどの強化だぜ!


「ありがとう、みんな!! それじゃあ私はジャッジメントディザスターを対象にシチュエーションカード『奇跡のファッショナブル・エントリー』をシーン展開! 攻撃力2000の圧倒的な魅力に、圧倒されちゃって!!」


 ――勝ち確採点、スタート!!


『完璧で究極の存在! 500点!』

『神降臨とはこの事! 500点!』

『なれたんだね、究極の力を持つ者に。 500点!』

『全てがクレイジーだ。 500点!』


 これで合計――。


『――2000のメンタルダメージ!!』


 メサイア・ロードも設定適用外。

 これなら倒せる!




「メンタル――」

『――ブレイクウウウウッッ!!!』




 これで終わりだぜ!!




「良い光景だ――」


 それでも。


「感動的だな」


 総帥の笑みは崩れない。




「――だが無意味だ」

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