第47話
◇SIDE ジャッジ
レイドデュエルを始めた瞬間、俺の画面には見知らぬ五人のプレイヤーの画面が表示される。もしかしてこれが今、俺と一緒に戦ってくれるデュエリストたちの画面なんだぜ?
:おっジャッジ君来た!
:心強い仲間が来たぞ!
:ある程度分かったことを教えるぞ
「頼むぜ!」
:今見ている五つの画面は恐らく、AIによって選出された現状で一番強い盤面を作っている上位五名の画面だ
「上位五名の画面……」
:一応他の画面も見れるには見れるが、数が多すぎて把握が難しい
:名前を検索すると一応絞り込めるが、そんな余裕もないしな
:だからこの上位五人の画面がレイドデュエルにおける中心戦力だ
「……つまり、俺たちはその中心戦力をサポートする必要があるんだぜ?」
:その通り!
:この中心戦力を俺らでサポートするのが作戦だ
:画面は個別だがカードの対象先は全体に及ぶから、それでサポートをするんだ
「なるほどだぜ」
:選べる対象が多くともAIが最適な対象先を選んでくれるから基本的にAIに任せるんだ
:アシストAIが俺たちの意思に反する選択はしないから安心しろ
「……大体分かったぜ!」
「ならばカードをドローしろ。途中参加のデュエリストにはその権利がある」
確かに盤面を見ればもう既に相手はカードを展開しているから、そのための救済処置だろう。
「俺のターン、ドロー!」
カードを手札に加えながら盤面を見るぜ。
「ステージゾーンにはキャラクターカード『救道の英雄メサイア・ロード』。そしてシチュエーションゾーンにはシチュエーションカード『救道の道標』がセットされているんだぜ……」
パッと見て、突破しやすそうな盤面。
それでも上位五名が未だに突破できていないんだぜ。恐らくその二枚のカードに何かしらのカラクリがあるはずだぜ。
そう考えていたらコメントから解説コメントが流れてくるぜ。
:あの二枚のカードの性能は単純だ
:あのキャラカードはこちらが相手を対象としたカードの設定を開示する度にデッキからシチュエーションカードをシーン展開させる設定を持ってる
「デッキからシーン展開だぜ!?」
:ふざけんなって話だろ?
:分かる……
:そして後ろのシチュエーションカードは総帥の場に出ているキャラ一体に設定による無効、破壊に耐性を持たせるカードなんだ
「インチキ設定も大概にするんだぜ!」
「ははは、いい反応をするじゃないか」
駄目だ、このおっさんに何を言っても涼しそうな反応しか返ってこないぜ!
「でも分かったことはただ一つ。先ず最初に対処すべきは後ろのシチュエーションカード! 俺は手札からジャンルカード『萌え燃えきゅん・ワールド』を展開!」
「……ほう! 全てのキャラに属性:萌えを付与するカードだと? ははは、私のメサイア・ロードがデフォルメキャラになってしまったぞ、はははは!」
ボロボロの放浪騎士がデフォルメ状態になっても総帥はまだまだ余裕があるんだぜ。ならその余裕を突き崩すぜ!
「続けて俺はシチュエーションカード『七色の学園制服』と『次元を越えた授業』の二枚をシーン展開するぜ!」
:盤面って互いに影響し合うから絵面がやばいことに
:俺のキャラが制服姿に!
:あの、俺のゾンビキャラに制服を着せても悲惨なことにしかならないんですが
:↑お前んところの教室、窓割れてね?
:ちな設定でグラフィックの反映を受けるかどうか決められるぞ。そこら辺AIがプレイヤーの思考を読んで勝手に設定してくれる仕様だ
:オンにしたらカオス過ぎて吐きそうになったからオフにして正解だな
:俺、カオスが好きだからオンになってたわ
「どれも対象を取らない設定だぜ!」
「授業参観は初めてだから新鮮な気分だ。ふむ、今更ながらに子供たちの行事に参加してこなかったことが悔やまれる」
「……っ、だったら今すぐにでも家族サービスでもするんだぜ!」
「全てが終わったらそれでもいいな」
俺の親とは別タイプの嫌な親だぜ……!
「さぁこれで初回のシーン展開時と毎ターンの開始時に授業の課題が全ての生徒に課せられるぜ!」
「なるほど、課題を達成できなければ相手のステージゾーンに行くと。しかも対象を取らないためにメサイア・ロードの設定も開示できない、か」
:いや待てよ、その設定って俺らにも影響出るじゃん!
:下手すると俺らのキャラが総帥の場に!?
:どうしよう、算数苦手なんだが
:せめて数学で苦手であれよwww
:人の心が分からないワイ、道徳で詰む
:↑おはサイコパス
「だ、そうだが? どうする少年」
「確かにこのままでは全校生徒に対する無差別テロだぜ。そう、これがこのままだったらの話なんだぜ!」
「ふむ……? いや、これは――」
何かに気付いた総帥。
だけどもう遅いぜ!
『どおおおおりゃあああああ!!!!』
総帥の左右に白と黒の流星が迫る!
「――!」
ズズゥンと総帥がいる場所から衝撃が広がる。そしてようやく見えた白と黒の輪郭に視聴者たちは驚愕した。
「ハッ、妨害ありと宣言したのはマズかったなぁ!」
「ようやく準備が終わりましてよ!」
:あの人たちは!?
:きゃあああああお姉様ああああ!!
:まさかの東西タッグ……!?
「アン先輩!」
「アタシたちに気付いてくれてありがとよジャッジ!」
そう、俺は視聴者から名前検索の説明を受けた時に他の仲間たちを検索した。そうしたら上位五名とは別でひっそりと展開しているアン先輩の画面を見つけたんだぜ。そんなアン先輩らしくない展開に俺はアン先輩は何かを考えていると思ったんだぜ。
「このレイドデュエルがこれまで追加されたルールの仕様を汲んでいることはアルちゃんとの検証で確認済み!」
「サバイバル・デュエルの仕様も汲んだのなら、カードの力を得て物理的にパワーアップすることができると把握しましてよ!」
:そうか、だから今の二人の姿は!
:姫騎士総長と特攻女帝の装備!
:二人はプ〇キュア!
:↑やめんかwwww
とにかくこれで不意打ち成功――え?
「――中々に良いモノを持っている」
『なっ!?』
衝撃による煙が晴れた先に現れたのは、両側から繰り出した二人の拳と蹴りをそれぞれ一枚のカードで受け止めていた総帥の姿だった。
「アタシの拳と……」
「私の蹴りが……!?」
:そうはならんやろ
:なっとるやろがい!
:マジでどうなってんだよ!?
「君たちが弱いわけではない――」
先輩たちの攻撃を受け止めていたカードが光る。そして気が付けば、先輩たちの体は勢いよく弾かれていった。
『ぐぅっ!?』
「アン先輩!?」
弾かれて吹き飛ばされた二人を見ながら、総帥はそれぞれの手に持った一枚のカードを手札に収める。そして総帥は微笑むようにアン先輩たちに言い放つ。
「――ただ、私のカードが強かっただけだ」
:それは……
:物理的な意味で……www?
:笑っとる場合かーっ!
:呆れてんだよこっちは!
「姉御ンゴ!」
「お嬢様!」
二人が落下している最中にパイア先輩と四天王ガマゴンがそれぞれ空を飛ぶバイクに乗りながら二人を回収したぜ。
「くっ、すまないねパイア……!」
「感謝いたしますわ……」
「やっぱりそう簡単にはいかないンゴねぇ」
「お嬢様、プランBでございます」
やっぱりあの攻撃で終わるみんなじゃないぜ。物理的な妨害が駄目ならやっぱりデュエルで決着を付けるしかないんだぜ!
「ジャッジ! アタシたちはアンタのサポートに回るよ!」
「分かったぜ!」
:【サラミ風ブレンド】上位五名の内一人だがこっちはもう万策が尽きている。俺もジャッジ君のサポートに回ろう
:【マルコム】ワイも異議なしや
:【ヴェリシャス・ジャン・フッディー】任せたぞ、ジャッジ君
:おおおおおおお!
:みんなからサポートが!
:ん? 今ヴェーやんいなかった?
:ジャン流の? いやまっさかー
「アタシはシチュエーションカード『
「属性:不良だと? だが君たちのキャラは――」
「実は既に私の方でジャンルカード『ヤンキー・キングダム』を展開していたンゴ! これによって全ての味方キャラに属性:不良が付与されているンゴ!」
:オラの学生ゾンビが不良になってしまっただ!
:なに? 超サ〇ヤ人にでもなったの?
:草
「不良が授業をボイコットするのは日常茶飯事!」
「これで課題は貴方のキャラだけに適用されますわ」
「さぁオープンだぜ!」
救道の英雄メサイア・ロード。
……算数。
『次の問題を五秒で答えなさい』
『――829735×961527=?』
:勝ったなガハハ
:風呂食ってくる
:どうだ、答えられないだろう!
計算機は論外だけど、せめてペンや紙でもあればワンチャンがあったかもしれないんだぜ! まぁそれでも五秒の制限時間があるからどの道――。
「――797812605345、だ」
『……え?』
:え
:は
:へ
『課題の達成を確認しました』
淡々と知らせるアナウンスだけど、まだ理解できていない。なんで、そんな、まだ三秒も経っていないのに。
「うむ、久しぶりの算数に緊張してしまったがちゃんと答えられて良かった」
「嘘ですわ……!?」
「お嬢様、お待ちください! 先ほどの問題はジャッジ様とレフェ様のデュエルで出された算数の問題と同一の問題です! あの方がジャッジ様の配信を見て予め計算していたのならば……!」
:でもわざわざ覚えるか?
:同一問題出てくるのにどれだけの確率だと……
:でもありえない話じゃ……
そんなガマゴンの言葉は、総帥が直々に否定する。
「私の行いは無法ではあるが無粋ではないぞ」
「その証拠は……!」
「なら今すぐ君が新しく問題を出せばいい。よほど破綻したものでなければ、私は誠意を込めて答えよう」
どのような疑いを掛けられても、総帥はただただ冷静に答える。まるで自分の行いに間違いはないのだと言うように。
「無粋なことほど退屈なものはない。そしてそれは――」
テレビで見たあの社長の顔が脳裏に過る。
「――娯楽ではないからな」
これがあの社長に脳を焼かれた人の姿……!? その姿に誰もが総帥の放つ圧力に身が竦みそうになる。これがデュエリストたちを束ねた組織の頂点……!
「っ、でも!」
それでも俺は屈しない。
何故なら、そう――!!
「おっさんたちが目指す社会は俺にとっちゃあ娯楽じゃないんだぜ!! 娯楽じゃないなら俺はおっさんたちを止めて見せる!」
そんな俺の言葉におっさんはフッ、と口を緩めると優し気な表情で俺を見た。
「ならば私に勝て、少年」
「……言われなくても!」
手はまだある。
一緒に戦ってくれるみんなもいる。
そして。
「良い勇気だよジャッジ君!」
「お待たせしましたわ!」
《わっちゃあたちも参戦するデス》
「ニャニャニャニャーッ!?」
『え!?』
突如として現れた空を滑空しているキャンピングカーに度肝を抜かれる俺たち。だけどすぐに分かった。あれは、あの車は――!!
「私たちも参戦だよー!!」
リン。
マナナン。
クロ。
そしてエーシス。
「行くぜ、みんな!!」
『オーッ!!』
デュエルはまだまだここからだぜ!!
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