第46話

 配信を通じて秘密結社カオスティック・ギルティアの総帥にして覇者『ああああ』に対する大規模デュエルが始まる。

 ランクマッチ、フリーマッチなどの数々のマッチングにイベントマッチが解放され、その中から総帥に挑めるようになったのだ。

 そうして数々のデュエリストが総帥に対して一斉にデュエルを行う。その数は百万を超え、既存のレイドデュエルを覆すレイドデュエルが始まった。


 相手はAIではなく、一人のプレイヤー。


 これまでは定められた膨大なメンタルポイントをデュエリストたちがイベント期間内に削り切るレイドデュエルではなく、一対多数の同時レイドデュエル。


 総帥側のメンタルポイントは今まで通りの40。ただしデッキ枚数制限が撤廃され、総帥側はデッキ切れが起こらない仕様となっている。

 一方プレイヤー側のメンタルも同様に40。ターン進行は同時に行われ、各フェイズ間の壁は撤廃された。総帥側はアシストAIと共に彼らの行動一つ一つに対処しないといけない。


 処理能力の時点で総帥側が圧倒的に不利な条件だ。


 それに加え。


「おいお前ら! 大無法エンターテインメント・デュエルだかなんだか知らないが、どんなカードも初手泡沫の夢を当てれば無意味だ!」

「泡沫の夢の暴力を食らいやがれ!」


 相手が開示したカードの設定を無効化する『泡沫の夢』。

 百万を超えるプレイヤーたちの連携による『総帥の全ての行動を封殺する作戦』が企画され、依然不利な状況にいる総帥がより一層不利となる状況となった。


 ――だが忘れてないだろうか。


「私のターン」


 ――これは大無法エンターテインメント・デュエルであると。




「避けられるなら避けてみるがいい」




 その瞬間、激しい勢いを出しながら迫る来る謎の濁流が一般人を避け、デュエリストだけに向かって彼らを飲み込んだ。


「え? ぐあああああああ!?」

「嘘だろなんでここに災害が……!!?」

「これ壁や一般人を通過して来てるんだけど!?」

「被害がデュエリストにしか行かない! これ絶対デュエリストを殺す濁流だよ!」


 レイドデュエル開始による地殻変動は一般人の目には映らない。特異なレースコースや謎の災害は『イベント演出』とされ、イベント参加者であるデュエリストにしか影響を及ぼさない。


「ライドオン要素もあるのかよ!?」

「クソ、レースコースがあるのはこのためか!」

「初見ムリゲーだろ!?」


 これによりイベント演出による即死ギミックが常に行われ、デュエリストたちはそれらを避けてレイドデュエルに挑まなければならない。

 それに気づいた時にはもう総参加者の約99.9%が脱落していた。そして脱落したデュエリストに再挑戦権はなく、残った数千人未満のプレイヤーたちに未来が託されることとなる。


「どうしたデュエリスト諸君――」




 ――私はまだ、ターンを開始しただけだぞ。




 ◇SIDE エーシス




「こんなのデュエル関係ないですやん」

「カードゲームによる新たなる秩序を目指していると言いながら、やってることは文字通り無法じゃないですの!!」


 それが総帥の言う大無法エンターテインメント・デュエル……ってコト!?

 確かに妨害、乱入ありとは言ってくれたけどさぁ。そんな露骨に妨害行為を働くってどうなの!? 寧ろ妨害と言うより命を刈り取りに来てない!?


「私たちはまだ対戦の申請をしてないけど、申請したら襲われるの確定だよね?」


 だから今は申請せずに様子見してるを決めてるけど。


「お父様側の勝利条件はエーシス様方が持つ署名カードですわ。確かに対戦せず傍観していれば、相手は勝利条件を満たせられませんが、今の状況においては意味がないのですわ」


 確かにそうだ。


 何せ今のルールは申し込まれたら拒否できないルールになっている。

 総帥が私たちにデュエルを申し込めば、否応なくデュエルに強制参加させられることになる。だからいつまで経っても逃げられないんだ。


 ――それに何より。


『いたぞ!!』


 私たちが倒すべき相手は総帥一人だけだけど、敵は一人じゃないのだ。


「やっば!」

「に、逃げますわー!」

「マナちゃん、いつも通り妨害よろ!」

《申請しようとした相手を妨害するデス》

「走るニャーッ!」


 私たちの敵は結社全体。


 こんなラスボス展開の状況でも、追手は消えてくれない。

 そして万が一マナちゃんの妨害から逃れ、一人でも私たちに申請を通した場合私たちの逃げ道は完全に消える。


「進んでも退いても地獄だよーっ!!?」

「ですわああああああ!!」

《ロケランを食らうデス》

『ぎゃあああああ!!?』

「汚い花火ですニャー……」


 配信を見た感じ、誰も総帥にダメージを与えられていないことだけが分かる。それに加えて厄介なことがまだある。


『私はシチュエーションカード『救道の九十・白破魔』をシーン展開。自分の場に救道と名の付いたキャラが存在することで展開でき、このカードの設定により相手ステージゾーンに存在する全てのキャラをデッキに戻す』

『フハハハハハここで泡沫の夢だ!』

『そのカードは確かに強力だがカウンターに弱い!』


 どこかで総帥と他のプレイヤーとの戦いの様子が、公式配信を通じて私たちの目に映し出される。その配信では他のプレイヤーが泡沫の夢をシーン展開されたことで総帥が展開したシチュエーションカードが不発になる光景。


 だけど。


『――染まる救道、底に沈む嘆きの亡霊、絶えず自責するかつての英雄、そこに道はなく、そこに人はなく、そこに善悪もなく、口から漏れ出る怨嗟の声にそれでもと歩み続ける救道の光――』


 紡がれる謎の詠唱。

 その瞬間、無効化されたはずのカードに光が灯る。


『救道の九十・白破魔……完全に詠唱されたこのシチュエーションカードによる設定は、ありとあらゆる妨害を受けない!』

『なんだその仕様!!?』

『そんなん完全に黒ひつ――』

『ぎゃあああああ!!?』


 なにあれぇーっ!?


「まさかあれもお父様が仰った大無法エンターテインメント・デュエルというルールの仕様ですの!?」


 走りながら配信を見ていたリンちゃんがそう叫ぶ。

 カードの設定を無視してパワーアップさせるとか完全になんでもありじゃん! こんなのどう対処すればいいの!?


 :なんなんだよこれ!?

 :どうすればいいって言うんだ!?

 :なんだあのパワーアップ!?

 :クソ負けた! 再挑戦すらできないのかよ!

 :あとは任せたお前ら……!

 :任せたじゃねぇよ、おめーも頑張って配信映像から研究や考察でもしてろ!

 :スレ立てといた!

 :でかした!


「勝てるかなーこれ!?」

「私にも分かりませんわっ!?」


 ですよねー!


 今は優先順位故に見逃されているか知らないけど、私たちが強制的に対戦相手として選ばれるのはそう遠くない未来の話だ。


 だったらもう選択肢は一つしかない!


「覚悟を決めないと……!」


 勝つ負ける以前に勝負しないとどちらも得られない! だったらもうやるしかない! さぁ意地を見せるよ私!


「でもその前に――」

「――乗り物を探しませんと!」


 各地の様子からして、対戦を始めた瞬間に災害によってデッドエンドになる。だから初手逃げ切れる足を持っていないとそもそもデュエル自体進行できない!


 だから乗り物を持っていない私たちが目指す先はそう――!


「お兄ちゃんのキャンピングカー!」


 あの化け物キャンピングカーならレイドデュエルの妨害から身を守れるはず!


 その時、私たちの頭上から影が掛かる。


「う、上だニャ!?」

『っ!?』


 クロちゃんの言葉に後ろを振り向く。するとそこにいたのは浮かぶ岩に乗りながら私たちに追随するリンちゃんのお兄ちゃんがいた!


「わざわざお前たちを見逃すはずがないだろう!」

「お兄様!!」

「リン!! お前の相手はこの俺――」

《隙ありデス》


 ドゴオオオオオンッッッ!!!


「ぎゃあああああ!!?」


 シン少年の言葉に被せるように発射されたロケットがシン少年が乗る浮かぶ岩を撃ち落としたああああ!!?


「お兄様ああああ!?」

《今のわっちゃあは絶対デュエル申請を阻止する自動接客人形サービス・ドールデス》

「……なんだか分からないけど、とにかくヨシ!」


 よし、このままキャンピングカーの元へと行くよ!




 ◇




「大丈夫か、シン」

「あ、ありがとう親父……クソ、遠慮なく撃ち落としてきやがって」

「いい友達を持ったものだ。やはり社会が変わろうとも自ら支える友の存在は不変ということか」

「だけどリンは俺たちを!」

「いいか、シン。リンの行いを私は裏切りとは言わない。リンが悩み、選択し、そして行動したその全てを私は裏切りとは思わない。リンはそう、我らとは違う道を選んだだけのことだ」

「……」

「そのことにシンは気に病む必要はない」


 そう断言する総帥にシンは納得がいかない表情を浮かべる。だけどそんな子供に対し、総帥は諭すように言葉を紡いでいく。


「そう、気に病む必要はないのだ。先駆者として常に先に立つと覚悟をしたのなら、向かってくるその全てを打ち倒すのだと覚悟を決めるのだ」

「親父……!」

「さぁ責務を全うしようではないか」

「え!?」

「見ろ、ここにまた一人、覇者に挑む勇者が現れたぞ」


 そうして彼らが見たのは、巨大なドラゴンに乗りながら迫る一人の少年だった。


「アイツは……!」

「よもや挑んでくる最初の公式デュエリストがあの時の少年とは……感慨深いものを感じるな、ヘルカイザー・ジャッジ」

「ヘルカイザーは余計だぜ! 俺もまさかあの時のおっさんが秘密結社の総帥とは思わなかったぜ!」


 公式デュエリストの一人、ジャッジ。

 彼が一行の中で一番最初の挑戦者であった。


「答えは見出せたか、少年」

「あんなもので分かる訳がないぜ!」

「だが悩みから吹っ切れたいい顔をしている。では残りはデュエルで見るとしよう」

「何を言ってるのか分からないんだぜ……!」

「親父!!」


 総帥を乗せた岩が上昇していく。そんな中、一人取り残されたシンに対して総帥は気軽な口調でこう答えた。


「子供の成長を見るのは大人の娯楽だ、シン」

「親父……」

「もっとも、勝負の世界に大人げという言葉は存在しない。少年の相手は片手間でしよう。何せもう片方の手は今、他の相手で塞がっているからな」

「余裕を見せられるのは今の内だぜ!!」

「すぐに終わらせてやろう」


 そう楽し気に、ノリノリで言葉を発する実の父親。そんな総帥にジャッジは獰猛な笑みを浮かべながら飛び立っていく。


「すぐに終わらせるんだったら――」


 そんな二人を見て、シンはポツリと呟いた。




「――どうして城と合体しないんだ、親父……」

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