第45話
◇SIDE エーシス
「覇者とか総帥って……何言ってますの!?」
「事実、その通りだとも」
突如として現れ、自分のことを覇者『ああああ』にして秘密結社カオスティック・ギルティアの総帥と名乗る謎の筋肉ムキムキマッチョマンの男。まさかこの人がリンちゃんたちのお父さん……!?
ツッコミどころが多いんだけどこの人!
「裏の頂点、真の黒幕、全ての元凶……そうだ、この私カオスティック・ギルティアの総帥こそが最後にお前たちの行く手を阻む者だ」
「本当に、お父様が……」
「実に久しぶりだ、リン。一年ぐらいは経っただろうか」
「何しれっと親子の会話をしようとしてますの……? そんなことよりも今すぐ組織の皆様を止めてくださいませ! いったいどれだけの人がご迷惑になられたと――」
「おいリン! 親父に向かって何を」
その時、総帥が手を上げてシン少年の言葉を止める。
「いいんだシン。リンの言うことも尤もだ」
「親父!?」
「なら!!」
「確かに迷惑を被った方もいるだろう。純粋に混沌王を楽しみたいと思った方々にも、我らの行動に迷惑を感じたはずだ」
そう言って、私たちに頭を下げる総帥。
あ、あれ……?
妙に潔い……?
そう思った瞬間。
「――だが断る」
『!?』
突如として空気を一変させた総帥に言葉を失う。
「それでも言おう、断ると。我らに歩みを止める意思はない。この世の常識を、社会を、世界を混沌に染め上げるまで歩みを止めない」
それどころか。
「例え同志たちが諦めようとも、私だけは諦めないとここに誓おう」
そう自信満々に言い放つ始末だ。
「な、何を馬鹿なことを言ってますの!? 私が見つけたエクストラリワードは真っ赤な偽物! ただのリワードですわ! それだけで世の中を変えるなんて」
「いいや、本物だよ」
「……え?」
コツコツと近付いてくる総帥に私たちは距離を取っていく。そして椅子に縛り付けられているシン少年の後ろに回った瞬間、シン少年を縛っていたロープが突如として解かれ、自由の身になった。
『あっ!?』
「この私が本物にしたのだ」
「すまん、親父……」
「いいんだシン。さぞ窮屈だったろうな」
そう言ってまるでうちのお父さんのように優しくシン少年の頭を撫でる総帥。その姿はまるで悪の組織のボスのようなものではなく、ただの親子みたいな光景だった。その、風貌は置いといて。
「本物って、何を言っているのですの?」
「言葉通りだリン。私がそのリワードに手を加えたことで、ゴールの先が変更された。そう――実際に変わるのだよ、世界が」
:は?
:いやでもリンちゃんが茶番って……
:流れ変わったな……
「世界中のありとあらゆる暗号化されたデータが詰めデュエルに置き換わる。個人単位でデュエル評価ポイントが実装され、戦績によって社会信用度が変動する。過去で得た栄光は公平に評価され、未来永劫歴史の偉人として認識される」
その言葉は脳の理解が拒むほどの荒唐無稽な話で、それでもその自信満々に語られる言葉には妙な説得力があった。
「全てが根本的に変わる。最初の一か月ぐらいは混乱に陥るだろう。だがその翌月にはもう仕様を理解し、三か月目には諦めが生まれ、人々の意識に根付いていく。半年もすればもう当たり前のように利用している」
――そうして人類は一年もしない内に順応し、混沌王が新たな社会になる。
「な、何を馬鹿なことを仰って……」
「馬鹿なことだと思うか? 毎分毎秒、いつでもどこでも出される数々の新技術に順応してきた……順応するようになった人類が? そう、これはあり得ない話ではないんだよ、リン」
まるで諭すように語る総帥にリンちゃんは得体の知れないものを見るような目で自分のお父さんを見る。
「エクストラリワードの登場によって、人類はもう新時代を受け入れる下地を作ってしまった。ありとあらゆる可能性を受け入れ、ゆるやかに停滞していた時代はもう過去の話だ。時代は既にその先の未来へとアクセルを踏んでいるのだよ」
その言葉を、今の私たちには否定できない。
一番それらの技術を享受してきた、私たちには。
「だがそれでも、君たちには選ぶ権利がある」
『え……』
「舵を取り、どの方向に切りたいかは君たちの自由だ。私たちはもう混沌王社会の道へと舵を切った。ならばそちらはどうする?」
今の時代のまま進むか。
別の時代へと突き進むか。
あるいは、カードゲームで全てが決まる時代に進むか。
「そこにいる私の娘。その隣にいる娘の友達。二匹の可愛らしいマスコットに、画面の向こう側にいる君たち」
ゆっくりと指を差して、確認していく。
「君たちの全てがこのイベントの参加者だ」
その瞬間強大な暴風が吹き荒れ、私たちがいる部屋の上部が吹き飛ばされる。
「ニャニャニャニャ!!?」
《掴むデス! ……流石にわっちゃあも無理デス》
「ニャアーッ!?」
「私を掴んで!」
マナちゃんとクロちゃんを吹き飛ばされないように掴む!
「リンちゃん!」
「な、なにが……」
呆然としているリンちゃんの手を掴むと同時に、私もようやく理解する。今この場に起きている異常な光景に。
「――……え」
西洋の城みたいな組織のアジトが崩れ、暴風に飲まれていく。今いる私たちの床だけが無事で、まるで私たちがいる場所が隔離されているよう。
それだけじゃない。
夢幻鉱山の霧が。
全てを幻に叩き落す霧が吹き飛ばされ、地形が変わっていく。見渡す限りの世界が、塗り替えられていく――!!?
「――イベント作成リワードのちょっとした応用だ」
「っ、お父様!!」
「コンテンツ、ルールと来てイベント演出もイベント作成の範疇。そう、今やこの世界の全てがデュエルフィールド!!」
:おいおいやべぇぞこれ!?
:今デミアヴァロンにいるけど、こっちにも地殻変動起きてる!
:なんだこれ……レースコース、か……?
「否定するなら抗え! 戦って勝て! この事態を止めるにはただ一つ! この私とデュエルして勝つことだけだ!」
ここまで来てデュエル!?
いや、最初から最後までデュエルしかないよねぇ……!!
「黄道十二星座、八神将、六芒星に四天王……ある意味君たちは予選を勝ち上がってきた本選出場者だ。決闘者スキルを持ったプレイヤーを私たちが倒し、署名カードを集めきれば私たちの勝利」
対する私たちの勝利条件は……。
「戦うのは私VS全てのデュエリスト! これは新時代の舵を取るためのレイドバトルだ! 誰か一人でもいい、私に勝て! 否定したければ私に勝利しろ! 新時代を担いたいのならば私に勝利しろ!」
シン少年と総帥がいる床が盛り上がり、私たちを置き去りにしていく。まるで玉座を形成するように遥か上空へと上昇していく。
「デュエル中の妨害、乱入なんでもありだ! 私はその一切合切をねじ伏せて見せよう! 全ての同志に誓い、私が新時代の舵を切ろう!」
私も。
リンちゃんも。
マナちゃんも。
多分私たちの配信を見ているデュエリストたち全員も、デッキを構える。
「さぁ、諸君始めようではないか――」
今ここに、特大のイベントが始まる。
時代を左右する戦いが始まる。
「――大無法エンターテインメント・デュエルを!!」
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