第44話
◇SIDE エーシス
:事件ですか? 事故ですか?
:事件です!
:高校生ぐらいの女の子が小学生にフライングクロスチョップをかましました!
「……」
「……」
「あわわわわわ」
私は今、地面に横たわってぐったりしている小学生ぐらいの男の子の前に立っている。ビクンビクンと痙攣させている小学生の前にだ。
お父さん。
お母さん。
お兄ちゃん。
犯人、私です。
「しょ、証拠隠滅――」
「何を口走っていますの!?」
動転してつい思ったことを口に出しちゃった。するとふと、リンちゃんのすぐそばでパシャリパシャリと音を鳴らしているマナちゃんが目に入る。
「何をしてるんですニャ?」
《こういう時は写真に撮っておけとセンリが言ってましたデス》
駄目だ、もう決定的な場面を撮られている……!
っていうかお兄ちゃんさぁ!
私が犯罪行為をする前提でマナちゃんに余計なことを教えないでよ! いやそもそも妹が将来犯罪行為をするという予想を建てる兄って何!?
:うーんこのぐだぐだ感
:やっぱ姉妹やな!
:姉妹なんだよなぁ
:もう少し訂正に力を入れてもろて
「……」
「リンちゃんどうしたの? ロープなんて持って……」
「いえ、よくよく考えてみればこの状況は好都合なのではないかと思いまして……」
「まさかそんな趣味が……!?」
「え? いえ、拘束して情報を得るためにですが」
:小学生相手に何言ってんだwww
:妹ちゃん、ちょっと黙ろうか
:リンちゃん、キョトンとしてて草
「コホン……それはともかく情報って?」
「……お兄様は我が家の中で一番お父様と仲が良かったのですの。だからお父様が別居で別れた後も、もしお兄様がお父様と通じ合っていたら……」
情報は筒抜け……ということね。
「私はお兄様と昔のように遊びたかっただけなのに……それなのにお兄様がお父様に情報を渡していたからこんな事態に……!」
「リンちゃん……」
泣きそうな声で喋るリンちゃんに私は心が決まった。
「手伝うよリンちゃん」
「エーシス様……?」
「リンちゃんのお兄ちゃんから一つ残らず情報を搾り取ろう!」
「お、おー……ですわ?」
なんで不安そうな顔をしているの?
◇
「う、うぅ……ここは? なんか、暗くてよく見えない……」
ロープによってふん縛られた状態で椅子に座っている少年が目を覚ます。周囲を見ても遮光カーテンで外の光を遮断しているせいか、部屋は薄暗くどことなく不気味な雰囲気を醸し出していた。
「俺は確か、デュエルを申し込もうとして……ハッ!? そうだ、あの暴力女! デュエルよりも暴力で訴えるなんて、ここまで来たデュエリストとして失格だろ!!」
:ボロクソに言ってて草
:でもやっぱり根本としてデュエルファーストなんか
:住む世界がやっぱ違うな
:俺たち一般人とデュエリストは別の生命体だ、いいね?
:アッハイ
「目を覚ましましたね被告人」
「だ、誰だ!?」
バッ! とライトによって少年の目の前が照らされる。
そうして現れたのは裁判官たちが座るような席。そしてその中央には黒いサングラスをかけたとびっきりのミステリアス美少女と、同じく黒いサングラスをかけたキャットシーがいた。
「いやなんだよ!?」
カンカン!
と手持ちの小槌を机に叩く。
「静粛に。死刑」
「いきなり!?」
「失礼、裁判長が失言しましたニャ」
「失言っていうレベルじゃないだろ!?」
「それでは被告人の容疑を説明を。検察官、どうぞ」
そうしてまたライトがバッ! と少年から見て左側の場所に照らす。そしてそこにいたのは私たちと同じく黒いサングラスをかけたリン検事だった。
「いやお前リンだろ!?」
「裁判長、この方に極刑を」
「待て待て待て」
ちょっとリンちゃん、段取りがあるから色々過程をすっ飛ばすのはやめよ?
あと、なんかクロちゃんが私の方をじとーって見てるけど気のせいだよね!
「コホン、失礼嚙みました」
「わざとだろ!?」
「かみまみた」
「わざとじゃない……いや、そんなわけあるか!?」
お母さんの本で見たネタだなぁ。
「リン検事、進行を」
「被告人の名前はシン。職業小学生。ゲーム内では秘密結社カオスティック・ギルティアの創設者にして最高位のデュエリストランカー『双極』の座に着いているデュエリストの一人ですわ」
:そんな最高位ランカーがこんな扱いで草
:なんで裁判形式www?
:妹ちゃんの発案だし……
:やっぱセンリちゃんと同じ血を継いでいるだけはあるな……
「彼の罪状は世間を騒がせている罪、あと扇動罪? 的な罪と混沌王の兵器転用罪、妹と遊んでくれない罪、妹に冷たくしてる大罪とスパイ罪ですわ」
「おいこの検事、適当なことしか言ってないぞ」
カンカン!
私が叩いた小槌にシン少年がビクッと肩を震わした。
「静粛に、被告人。彼女は拙い知識なりに頑張ってます」
「えこひいき過ぎるだろ!?」
「いやあの、頑張ってるとか言わないでくださいまし……」
顔を赤くしてかーわい。
……じゃなくて!
「それでは教えてください。スパイ容疑について」
「こんな茶番は終わりだ! おいリン! 今すぐ俺とデュエルを――」
《異議ありデス》
「ぶげらぁ!?」
余計なことを言おうとしたシン少年がハリセンを持ったマナちゃんに頬を叩かれた!
「お、おぉ……っ!? な、なんだお前……!?」
「貴方の弁護士です」
「俺、味方に叩かれたんだが!?」
《余計なことを言うと裁判が不利になるデス》
「元から不公平じゃねぇか!」
それはそう。
黒いサングラスをかけたマナちゃんがハリセンを構えて余計なことを言おうとするシン少年を阻止するために近くに待機する。
そんなマナちゃんの姿を見て、シン少年は嫌そうな顔をした。
「ではリン検事、続きを」
「はい……被告人はお母様の命令によって離れて暮らすこととなったお父様と密かに通じ合っていた罪がありますわ。これが現実なら私は何も言わなかったのですが、お兄様はゲーム内でも密かにお父様に情報を流しておりました」
「はっ、何の話かと思えば……」
リンちゃんの言葉にシン少年が鼻で笑う。
「親父は凄いんだ……! それなのに母さんは親父を家から遠ざけた! 俺は反対したのに、お前は何も擁護してくれなかった!」
「お父様は私たちにリワードを探すよう何時間もゲームのプレイを強制して、それでいて私たち家族よりも仕事に夢中な人だったですわ」
え……リンちゃんたちのお父さんってそんな感じなの?
「運動会も授業参観も休日の旅行も何も、お父様は来てくださらなかった。私にとってはもう、お父様がいてもいなくても同じこと。だから私は反対しなかったのですわ。私にとって家族はお母様とお兄様だけ――」
「それだけで親父のことを判断するな!」
シン少年が激昂する。
「俺たちを顧みない? 当然だ、親父にはその資格がある! 世界を変えるほどの才能を持っているならそれを優先した方がいいに決まってる!」
「っ、お兄様が、そんな風に考えて……?」
「俺はそんな親父を尊敬してたんだ……! 親父がいったい幾つリワードを提供してきたと思ってる!? いったいどれだけ世の中を支えてきたと思ってるんだ!!」
『え!?』
:え!?
:はぁっ!?
:リワードを提供してきたぁ!?
:しかも複数!?
まさかの言葉に私は当然として視聴者も驚きのコメントをしている。そしてその中で、リンちゃんは知らなかったのか私と同じぐらいに驚いていた。
「お、お父様が複数のリワードを……? そんな、そんなこと私は何も……」
「当たり前だろ!? 仕事や社長について誇っていても、親父は一度も自分の功績を誇らなかった! だってそれは親父にとって当然のことだったからだ! 俺だって偶然がなければ今でも気付いてなかった!」
「……っ」
「俺が親父と繋がってる……? 当然だ、お前がリワードの話をもってきた時に話しをして、その結果この結社が生まれたんだからな!」
:マジ!?
:どんどん衝撃的な真実が出てくるな
:シン少年のお父さんが全ての元凶……ってコト!?
「親父は俺のために世界を変えてくれると言ってくれた……! そして俺は世界を変える親父の姿を直接見てみたいと思った!」
「最初から、全てお父様が……!?」
「そうだ……! 秘密結社カオスティック・ギルティアの裏の頂点にして、真の総帥……それが親父だ!」
――そうだとも。
『っ!?』
突如として響いてきた男の声に私たちは警戒する。
そしてその次の瞬間、弁護席にライトが照らし出され、弁護席に足を乗っけた黒いサングラスの筋骨隆々の人物が現れる。
「親父!」
「え!? あれが、お父様のアバター!?」
「久しぶりだなリン」
「お父様……っ!」
「なんで親父も黒いサングラスをかけてるんだ?」
リンちゃんたちのお父さんが椅子から立ち上がる。
「よろしく諸君。ご紹介に預かったシンとリンの父親……そしてこの結社の総帥にして全ての元凶――」
その人は顔にかけていた黒いサングラスを投げて、決め顔で言った。
「――覇者『ああああ』だ」
『ダッサ!?』
:えぇ……
:なんで名前適当なんだよwww
:おい由緒ある名前だぞ
:かなり昔の話だろうがえーっ!?
「息子に怒られたんで、気軽に『総帥』とでも呼んでくれ」
『えぇ……』
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