第43話

 ◇SIDE エーシス




「ねぇリンちゃん! 聞いてもいい!?」

「な、なにをですわ!?」

「なんか心当たりあるんでしょ!? さっきの偽お兄ちゃんが言ってたあの方についてっ!」

「た、確かに心当たりがありますわ!!」


 ――でも。


「流石にこの状況で話せる余裕はないんですのおおおおお!!!」


『待てえええええ!!!』

『この元陸上競技部ナンバーナインの俺から逃げられると思うなよおおおお!!』

『ママチャリで毎日五キロ先のキャバクラに通ってきた脚力を舐めるなああ!!』


 お兄ちゃああああん!! さっきからゲームとは関係ない微妙なスペックの人たちに追い掛けられてるんだけどおおおおおお!!


《エーシス、これを使うデス》


 その時、私の肩にくっ付いているマナちゃんが私にある物を渡してきた。


「そ、それは!?」

《センリのロケランデス》

「え」

《殺るデス》


 あ、はい。




 ◇




「なんとか撒けたね……!」

《やったデス》

「撒けたというよりぶっ飛ばしたというか、その……まぁ結果オーライというわけですわね!」


 今私たちがいるのはリンちゃんがここなら隠れられると言った部屋の中。見た感じ寝室っぽいけど……ここは?


「私の寝室ですわ」

「へーここがリンちゃんの……」

「双極のために用意されたこの部屋のセキュリティは万全ですわ。私が許可した方以外の入室禁止も設定できる優れものでしてよ」


 :ガタッ!

 :リンちゃんの寝室だとぉ!?

 :もしもしポリスメン?

 :前々から思ったけど小学生にしては語彙力が大人顔負けで草


「料理を準備するニャ」

《わっちゃあも手伝うデス》


 クロちゃんとマナちゃんがストレージから予め用意しておいたお弁当を積み上げていく。

 ジャン流の料理ほどじゃないけど、満腹具合や味を再現しているため十分英気を養えるからだ。あとは料理バフで身体能力を向上させられるから、さっきの追いかけっこが始まっても余裕で逃げられるしね。


「ようやく一息つけるぅ~……」


 どかりと椅子に座った私の隣にリンちゃんも椅子に座る。そして申し訳なさそうにリンちゃんはリワードがある場所を答える。


「リワードがあるお部屋は一つ上の階層にありますわ」

「あと少しとはいえ、また登んなきゃいけないのかぁ……」

「お兄様が……」

「え?」

「お兄様が重要そうなアイテムは最上層に置くべきと……」


 :草

 :いやRPGではよくあることだけども!

 :マジで最上層に置く人いるんだ……

 :なんならティル・ナ・ノーグの時も目当てのアイテムは一番上の階層にあったしな


「……昔からそうですわ」

「……」


 テーブルの上に突っ伏して、愚痴るように話を始めるリンちゃん。そんなリンちゃんの話に、私は静かに聞き耳を立てた。




 ◇SIDE リン




『決めたぞリン』

『え、何をですの?』

『俺たちは結社を作る!』

『ん? 結社? ギルドではなく?』

『そうだ! お前が見つけたエクストラリワードで世界を変えるために、俺たちは結社として活動しなくてはならないのだ!』

『なんでですの!? え、いや、その私が見つけたのはリワードはリワードでもですね――』


 狼狽える私を無視してお兄様が強引に話を進めていく。

 お兄様個人で知り合った混沌王のコミュニティすらも総動員して、結社としての組織がどんどん形になっていく。


『決めたぞ!』

『こ、今度は何をですの……?』

『結社の名前だ!』

『な、名前と来ましたか……』

『聞いて驚け! これから我が結社の名は――』


 ――秘密結社カオスティック・ギルティアだ!


『いやいやなんかそこはかとなく、こう……イタい感じのネーミングですわ!』

『イタいとはなんだ!?』

『多分……恐らく、その……数年経つと症状が悪化して、そこから更に数年経つと頭を抱えるレベルのイタさになるのですわ!』

『お前は何を言ってるんだ!? カッコいいだろカオスティック・ギルティアはっ!? 俺は決めたぞ! この結社の名前はカオスティック・ギルティアにする!』

『連呼しないでくださいまし!?』




 ◇SIDE エーシス




「結社の由来がそれって……あぁ、うん」


 :なるほどね

 :道理で名前が子供っぽいというか

 :これはもう特大のデジタルタトゥーを刻みましたねぇ!

 :ジャッジ君とは別の意味でもう戻れないゾ


「構成員もどんどん増えていくし、知らず知らずのうちに双極の座まで座らされ、エクストラリワードが偽物なのもあって胃が痛く……うぅっ」

「かわいそう」

「挙句の果てに騒動が大きくなり、ジャッジ様という深刻な被害者も出る始末……私、この騒動が終わったら腹を切って詫びますわ……」

「責任感が強すぎるのもどうかと思うよ」


 :そもそもジャッジ君は結社の被害者というよりも……

 :センリちゃんの被害者みたいな……

 :割合で言うと8:4

 :割合の意味を調べろよあぁん?


「それよりも! 話を聞いてもいいかな?」

「はなし……?」

「あの方について!」

「あ、それは……」


 あの偽お兄ちゃんの言葉にリンちゃんは心当たりとしてお父さんの名前を口にした。だとするとこんなに事態が大きくなった原因はリンちゃんのお父さんの可能性が高いと思うんだ。


「恐らくアービター様が仰るあの方の正体は……お父様なのではないかと、思いましたの」

「それはどうして?」

「お父様は、その……かなりおかしい人でして」

「ん、んん?」


 え、何その評価。


「リンちゃんとお父さんって仲が悪かったり?」

「どうなんでしょう……私自身好きも嫌いもないのですが、ただ言えるのはあの人はおかしい人だと認識しているだけですわ」

「それはもう嫌っているのでは?」


 小学生の子にそこまで思わせるお父さんって何?


「私のお父様はこのゲームを運営しているBESの社員で、常日頃から娯楽院社長を称賛していた方ですの」

「う、うん……」

「社長の目指す世界に貢献するため私たち兄妹にも常日頃からこのゲームの中でリワードを探すように言われまして……」


 なるほど、その流れでリンちゃんは今のリワードを見つけたんだ。


「いえ、その前にお父様は私たちと離れて暮らすようになったのですわ」

「それってつまり別居中ってこと?」

「そうですわ。流石にあのお父様についていけなくなったのか、お母様が別々に暮らすようお父様に命令したのですわ」

「わぁ……」

「その後に私は今のリワードを見つけました。その時に、リワード受け取りには保護者が必要ということで私のお母様にご同伴させて頂きましたわ」


 :なるほどなぁ

 :社長に脳を焼かれるとかヤバい奴確定で草

 :でもそれとどう今回の騒動に関係してくるんだ?


「リワードの件についてはお父様に一切報告していなかったのですわ。ですがアービター様のお話で……もしリワードのお話がお父様にも話が行っていたら」

「……確実に行動に移すだろう、って?」


 私の言葉にリンちゃんが頷く。


「お父様はおかしい人でしたがとても優秀な方でした。人を巧みに扇動するカリスマを持ち、お父様自身も優秀なエンジニアであることも相まって――……」

「……リンちゃん?」


 ふと、何を思ったのかリンちゃんが話の途中で言葉を止める。

 怪訝そうにリンちゃんの方を見ると彼女は突っ伏した状態から起き上がって、何かを考えるような素振りを見せた。


「あり得ないですわ……ですがもし私の予想を上回るアレでしたら……もしかして本当に? ですが――」

「リンちゃん? ちょっと?」

《準備できましたデス》

「一緒に食べるニャ!」


 マナちゃんもクロちゃんも話に入ってきて事態はややこしくなる。そんな時、本来双極と双極に許可された者しか入れない部屋の扉が動く。


『……ッ!?』


 みんな目を見開いてドアの方を見る。

 そしてそこから入ってきたのは――。


「ここにいたか、裏切り者」

「お兄様……っ!」


 お兄さん!? ということはあの子がリンちゃんのお兄ちゃんで双極の残った方!? 子供にしては切れ目な眼差しが印象のクール系。こう、ジャッジ君が熱血主人公キャラっぽい外見してるなら、あの子はそのライバルポジっぽい外見だ。


「お答えくださいませお兄様! 今回の件、もしかしてお父様が関わっているのですわ!? それだとしたらお父様と通じているのはお兄様しか――」

「お前は、昔からそうだったな」

「え……」


 静かに妹であるリンちゃんに鋭い眼差しを向ける彼。


「そう、昔から俺との邪魔をしてはいつも口うるさく言ってくる」

「お兄様……?」

「親父の凄さを知らない癖に……!」


 懐からデッキを取り出して、リンちゃんに突き付ける。対するリンちゃんも反射的にデッキを取り出して身構える。


「躾けてやる、リン。俺はお前にデュエルを――」

「先手必勝ァーッ!」

「申し込ぶげらぁっ!?」

「お兄様ああああああ!!?」


 :エーシス!?

 :デュエルより手っ取り早いからってそんなwww

 :小学生にフライングクロスチョップかましてて草

 :やはり物理は最強

 :これに限る

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