第42話

「小悪魔センリちゃんの設定を開示! デッキから任意のカードを三枚選び、相手に一枚カードを選ばせる!」

「……」


 アービターがデッキから選んだカードは三枚のシチュエーションカード。『鋼を呼ぶセンリちゃん』、『ライドオンセンリちゃん』、『ロケランを構えるセンリちゃん』の三つだ。

 その三つが伏せられて、僕の前にやってくる。僕はこの中からランダムに一枚選ばなくちゃいけない。


「さぁ選べ……!」


 鋼は恐らくメタトロンだろう。

 とするとライドオンはバードボルテージバイクかな。

 ロケランはもうロケランしかない。


 設定は読めないから名称から推測するしかない。でも困った。僕の持ってるアイテムはどれも強いから何を引いても厄介なことになる気がする。


「どの道ランダムだ……僕の運に身を任せるしかない」


 なお運は運でも悪運だけども。取り敢えずこの中でマシそうなのはライドオンのカードだ。バードボルテージバイクって拡張性や利便性は高いけど、ロボットやロケランの中で一番攻撃力に乏しいアイテムだからね。きっとカード化しても攻撃力に関わらないカードだと信じたい。


「僕はこのカードを選ぶ!」


 僕から見て右側のカードだ。

 そうして出てきたカードは……。


「お前が選んだカードはシチュエーションカード『鋼を呼ぶセンリちゃん』だ! 選ばれなかったカードはそのままデッキに戻してシャッフルをする!」

「そっちかぁ……」


 よりにもよって鋼のカード。

 まぁそう簡単にはいかないと思ってたけど。


「俺はそのまま『鋼を呼ぶセンリちゃん』をシーン展開! 使用したシチュエーションカードはそのままクロスカードとしてキャラにクロスさせることができる! 俺がクロスさせるのは吟遊詩人センリちゃんだ!」


 どう見てもメタトロンに似たロボットに乗った僕が、アービターのステージゾーンに現れた!


「攻撃力20耐久力13のステータス……」

「それだけじゃない! ボルテージカウンター一個につき、鋼センリちゃんの攻撃回数が一つ上昇する!」

「今のボルテージカウンターは二個……つまり――」

「――計三回攻撃だ!」


 ボルテージカウンター自身の設定の他に、ボルテージカウンターを参照するカードもあると……あの、お母様? ちょっと監修に本気出し過ぎじゃないですか?


 :【G・マザー】正直ごめんなさいと思ってる

 :人の心があったんかいお母様ァ!

 :一応フォローするとコラボカードは公式戦じゃ使用禁止だから

 :でもそんなの関係ねぇ!

 :はいオッパッピー


「これでターンエンドだ!」

「僕のターン、ドロー!」

「その瞬間、吟遊詩人センリちゃんの設定が開示される! 俺はデッキから任意のシチュエーションカードを一枚、手札に加えることができる!」


 :それ相手ターン開始時にも発動すんのかよ!

 :うーんぶっ壊れ

 :中々にエグイ設定をお持ちで

 :これは原作再現(白目)


「これで俺の手札は三枚だ!」


 対する僕の手札は四枚。

 この四枚で相手のボルテージカウンター二個分の設定無効を搔い潜り、アービターを倒さなくちゃいけない。


「でも僕のやることは変わらない」


 僕は手札からジャンルカード『TS - トランスハプニング』をジャンルゾーンにセット。


「そしてそのままシーン展開。僕は手札の『TS - 舞い降りし御使いテンシ』をデッキの『TS - 目覚める心』と交換する!」

「……なるほどそう来たか」

「そしてそのまま『TS - 目覚める心』をシーン展開!」

「俺はここでボルテージカウンターを1消費させることで目覚める心の設定を無効にする!」


 :あぁっ!

 :目覚める心の設定は相手キャラの強奪だったが……

 :それを予期して妨害したか


「お前の魂胆は分かっている……大方俺のキャラを奪って、元の持ち主に攻撃を仕掛ける陰湿戦法を取ろうとしているのだろう」

「……」

「お前のデュエルはいつもそうだ……そうやって相手のやることを皮肉るように否定して心を折る……だがそのスタイルもここまでだ」

「……それは今の君とどう違うの?」


 僕の言葉にアービターが一瞬だけ目を見開くと、すぐに口角を上げて楽し気に僕のことを見つめた。


「――いいや、何も変わらない。言っただろう? 俺とお前は似た者同士だと。同じ顔、お前を模したデッキといった数々の全ては……お前を辱め、我が結社に勝利を捧げるためにだ……!」


 手段は選ばず。

 全ての手段を使い。

 そして勝つ。


 そう皮肉るような笑顔を浮かべて言うアービター。そしてふと何かの妙案を思いついたかのような動作をすると、目の前の人物は僕に指を突き付けた。


「この状況を一言で表すならそう――」


 そして僕を嘲笑うように言葉を紡ぐ。


「――全部、お前のせいだと」

「……」

「どのような強敵でも、最終的に自身の力が巡り巡って自分に返る結末を辿るいや辿らせる……いいな、実に好みのスタンスだ……!」

「だったら」


 静かに言葉を発した僕にアービターは目を細める。


「だったら君はそれを肝に銘じていてよ。これから君の選択と君の判断が、これから起きることの責任なんだから」

「はっ……減らず口を」


 その言葉も、自分に返ることを忘れないでね!


「僕のターン中に相手がカードの設定を使用した時、僕は手札のシチュエーションカード『因果応報の脈動』をシーン展開! 僕は君のキャラクターのコントローラー権を奪う設定を選択する!」


 そして対象は鋼センリちゃんだ!


「チッ、まだそのようなカードを……! しかし……っ!」


 ボルテージカウンターを使用して設定を無効化するか。それともそのまま僕がシーン展開した設定を通すか。

 だけど君の選択肢は一つしかないよね。


「俺はボルテージカウンターを1消費してその設定を無効にする!」


 毎ターン好きなシチュエーションカードを手札に加える設定を持つ吟遊詩人センリちゃんはそれだけで強いカードだ。はっきり言って僕だったら即採用するカードなのは間違いない。

 だからアービターはどうしても僕が使用したカードの設定を無効にしなくちゃいけない。それだけ吟遊詩人センリちゃんを奪われることだけは避けたいのだろう。


「更に僕は決闘者スキル『RE:スタートワールド』を使用! これによって僕は手札のカードを書き換える!」


 :センリちゃんの初スキルだ!

 :一体どんなカードに変換するんだ?

 :ドキドキ……!


「僕は手札のカードをシチュエーションカード『TS - カウントチェンジ』に変換! そしてそのままシーン展開!」


 TS - カウントチェンジはありとあらゆる数字を逆転させる設定を持っている。そして今回選んだのはこの数字!


「僕と君の手札枚数を逆転させる!」

「なんだと!?」


 僕はゼロ枚。

 対するアービターの手札は三枚。


「君はゼロ枚になるように全てのカードを捨て、僕は三枚になるようデッキから三枚ドローをする!」

「クソ……!」


 :そもそもセンリちゃんと名の付くシチュエーションカードはな。使用せずに使用済みゾーンに置かれた場合、使用済みゾーンから設定を開示できる設定は使えない仕様なんだよな

 :それじゃあ新たにデッキからカードを加えることもできない……ってコト!?

 :それにまだ制限はあるぞ


「多分だけど……それらのカードは自分ステージゾーンにセンリと名の付くキャラクターカードがいなければカードを使えないんじゃない?」

「……ッ」


 僕の言葉にアービターは沈黙した。

 沈黙は肯定と同義!


「さぁこれで手札の枚数は逆転した。言ったはずだよ。君の選択、判断は自分の責任だとね!」


 ボルテージカウンターはなし。

 手札はゼロ。

 もう僕の動きを妨害する手段は消えた!


「手札からシチュエーションカード『TS - 間に合わなかった英雄』をシーン展開! コストとして手札のカードを一枚使用済みゾーンに送り、デッキから任意のTSキャラクターカードを自分ステージゾーンに登場させることができる!」


 僕が選ぶのはこのカード!


「キャラクターカード『TS - ニーティアン・ニート』! このカードがステージゾーンに登場した時、僕はデッキから更にニーティアンが指定するカードを手札に加えることができる!」


 ニートが指定するカードはTS、ニートと名の付いたカード一枚!


「僕はデッキからシチュエーションカード『TS - 鎖国するニート』を手札に加え、シーン展開! コストとして僕のメンタルを半分にし、このシチュエーションカードをシチュエーションゾーンにセットする!」


 センリ。

 MP40 → 20。


 なおこのカードによるメンタルダウンでハプニングドローは発生しない。


「さぁ……!」


 この瞬間、僕の場にニーティアンと鎖国するニートの二つのカードが揃った! これにより鎖国するニートの設定が開示される!


「先ず一つ目! ニーティアンを除いた相手、自分のステージゾーンに存在する全ての特殊演出されたキャラを破壊する!!」

「なんだとぉ!?」


 消えされ小悪魔と吟遊詩人!!

 あとついでに狂信者一人!

 もう二度と面を見せるな!


「二つ目! ニーティアンと鎖国ニートが場に揃っている時、君はステージゾーンを三か所使用することができない!」

「盤面……ロック……ッ!?」

「三つ目! 僕はこの鎖国するニートを維持するために両者のターン開始時にMPを半分支払う必要がある!」

「今更そんなデメリットなんて……!」


 維持するためには相当痛い出費だろう。

 だけどアービターが使う、センリと名の付いたキャラクターカードを大量展開してボルテージカウンターを溜めるコンセプトのデッキにとってはこれほど痛い設定のカードはない。


「僕は先ほど使用した『TS - 間に合わなかった英雄』のコストとして使用済みゾーンに送ったカードを使用済みゾーンからシーン展開する!」

「使用済みゾーンから設定の開示だと!?」

「シチュエーションカード『TS - 増殖する無敵の人』! このカードが使用済みゾーンに存在する場合、このカードを使用することができる!」


 このカードにより僕とアービターの空いている盤面全てに『TS無敵の人トークン』を生成する!


「なっ、残ったステージゾーンの枠が埋まった……!?」

「性能は最低値1の癖に、戦闘による破壊は無効化される無敵設定付きだ」


 使いようによっては優秀な壁になれるカードだ。だけど素の状態のままじゃ、ただ自分相手両方のステージゾーンに居座る無敵の人に過ぎない。


 どう? 凄い邪魔でしょう?


「いらない無敵の人を送るとは……っ!」

「さぁまだまだ行くよ!」

「まだあるというのか!?」


 僕は決闘者スキル『RE:バースワールド』を使用!


「これによって僕は新たに『TS - ファンサービス!』を創造し、シーン展開! 盤面のキャラ三体を使用済みゾーンに送ることで任意のTS覚醒キャラを登場させることができる!」

「俺の『ファンサービスセンリちゃん』と似たカード……!?」

「参考にしてもらったよ!」


 無敵の人を三人、使用済みゾーンに送ることで僕はこのTS覚醒キャラを登場させる! それはジャッジ君との戦いで活躍した悲しき勇者!


「――『TS - 否定の超者ツガミ』!」


 僕を研究している君ならこのキャラの設定を知ってるよね?


「相手がドローするカードは……全て使用済みゾーンに置かれる設定を持つキャラクターカード……っ!?」

「手札から『TS - 対価封印の契約』をシーン展開! デッキから任意の枚数分シチュエーションカードを使用済みゾーンに送ることで、その送った枚数分の相手シチュエーションゾーンの枠を三ターンの間使用不可能にする!」

「や、やめろ……!」

「僕が送るのは五枚! 当然これで君のシチュエーションゾーンは三ターンの間全て封鎖された!」

「やめろ!!」

「言ったはずだよ――」


 ――君に相応しい結末は決まってあるって。


「君にはもう、何もできない」


 ハンデス。

 ステージゾーン封鎖。

 シチュエーションゾーン封鎖。


「僕と同じだから君は負けるんだ」


 例え決闘者スキルを使用しても。

 例えハプニングカードをドローしても。

 シチュエーションゾーンにカードを置くことができないのなら使えないも同然。


「選択肢を重視するからこそ、取れる手段も明確」


 抜け穴は使用済みゾーンにいても設定を開示できるカードぐらいだけど、それを使うまでもなく終わらせるつもりだ。


「はっきり言おうか、秘密結社カオスティック・ギルティアの四天王アービター」

「あ、あぁ……」


 超者ツガミは攻撃力15の性能を持つキャラ。

 無敵の人によって1ダメージ減らされるものの、三ターンかけて攻撃すれば十分に相手をメンタルブレイクさせることができるだろう。しかもその程度のターン経過なら、鎖国するニートの維持費でMPを半分にされ続けても十分生き残る。


 その間、アービターは何もできない。

 抵抗することもままならずに敗北する。


 ――そう。




「君は、今まで対戦してきた中で一番楽な相手だったよ」




『センリVSアービター』

『センリ WIN!』




『結社カオスティック・ギルティアの四天王を倒しました』

『ジョブ:決闘者の限定スキルを習得する条件を満たしました』

『決闘者スキル『RE:ボーンワールド』を習得しました』

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