第41話

「……」


 勝敗は決した。

 デュエルフィールドは崩壊して、それと同時に先輩の体も粒子になっていく。これまで結社の幹部が倒された時に現れる現象だ。

 粒子になって俺の体に入っていくのはほんの一瞬。だから先輩との会話はない。言いたかった言葉も、言って欲しい言葉も交わせない。


 寂しい結末だ。

 それでもたった一瞬、ほんの一瞬交わし合った眼差しは言葉以上に通じ合った気がする。俺を見る先輩の眼差しは『レフェ先輩』と同じで、後輩の成長に困惑や戸惑いを含みながらも、呆れながら成長を祝福する眼差しを浮かべていた。


「……先輩」


 語った思いは痛いぐらい伝わった。

 それでも先輩が語る手段は極端すぎた。


「だから行くよ先輩」


 楽しい混沌王を、楽しいままにするために。

 そうして俺は、先に先行していったエーシスたちを追うように走るのだった。




 ◇SIDE センリ




『ランダムで先攻後攻を決めます』

『アービターが先攻になりました』


 システムアナウンスを受けて、僕と瓜二つの顔をしたアービターが手札からカードを一枚掲げる。


「俺のターン! 俺は手札からジャンルカード『ハートビートバード!』を展開! これにより俺は特定のカードを登場させることによってボルテージカウンターを一個溜めることができる!」

「……?」


 :なんだ?

 :なんかどっかで聞いたようなフレーズのカードだな……

 :いや、まさかね

 :ははは、そんなまさか


 コメント欄も僕と同じ心境らしい。

 アービターとのデュエルが始まった時から、なんか嫌な予感がずっと胸をざわつかせているんだけど。いやいやそんな……ははは、まさかね?


「次に俺は手札からキャラクターカード『娯楽を夢見るセンリちゃん』を登場させる!!」


 その瞬間、アービターのステージゾーンに現れたのは僕と同じ姿をしたキャラクターがあざといポーズを取った光景だった。


「ウワーッ!!?」


 ガクリと膝をついて全力で叫ぶ。

 なんでぇーっ!? なんで僕のカードが使われてるのこれぇーっ!!?


 :うっそだろお前wwww

 :センリちゃんのカード!?!?!?

 :四天王がコラボカードを使うのかよwww


「センリと名の付くカードが登場したことにより『ハートビートバード!』のボルテージカウンターが1溜まる!」

『はぁっ☆』

「僕はそんなこと言わないィィイイ!!」


 ビタンビタンとその場で魚のように暴れる僕を他所に、無情にもアービターのターンが進行していく。


「『娯楽を夢見るセンリちゃん』の設定を開示! 登場した時に一度だけ、デッキからセンリと名の付くシチュエーションカードを一枚手札に加えることができる! 俺が加えるのは『楽器を見つけたセンリちゃん』だ!」

「何枚あるんだよ僕のカード!?」


 :【G・マザー】私が作りました

 :お母様!?

 :そういやセンリちゃんのコラボカードはお母様が全監修してるって

 :あの四天王に使われてるんですけど!

 :徹頭徹尾、娘の邪魔しかしてなくて草

 :【F・ファーザー】息子です

 :じゃあ間を取ってむすめっ子で!

 :どっちにしろ娘じゃねーかえーっ!?


「何回目のライン越えだよお母様……!!」

「くくっ……悶えるほどに苦しいだろう? 俺はずっとお前のことを観察してきた。そして分かったのだお前の弱点を……!」

「僕の、弱点……!?」


 嫌悪感マシマシの表情を浮かべる僕にアービターが指を突き付ける。そして自信満々に僕の弱点を叫ぶ。


「それはお前自身だ、センリ!」

「僕自身が弱点!?」

「あれほど身内に散々弄られてきたというのに、お前は諦念を抱きながらも羞恥心を捨てきれていなかった……! 羞恥心があることで余計に周囲を盛り上がらせるというのにだ!!」

「何言ってんの!!?」


 :羞恥心は最大のスパイス

 :はっきり分かんだね

 :この四天王……できるッ!


「だから俺はお前の姿を取った……コラボカードと聞いて全力でパーツをかき集めてきた……! 全てはお前を羞恥地獄へと叩き落し、デュエルに勝利するために!」

「悪魔の所業だよそれ!!」


 なんて奴だ、そうまでして僕と同じ姿にしたっていうの!? しかもそのためだけにコラボカードを買い集めるとかとんだ努力の方向音痴だよ!!


 :あの執念は常人のそれじゃねぇ

 :俺ですら一枚なのに……

 :先日出てきたばかりのコラボカードでデッキを作るとかコイツはとんだ変態ですぜ!


「なんでそういうことするの……」

「俺は心の底から結社に忠誠心を抱いている……この身、この心、全ては結社とその同胞、その悲願のために捧げているのだ……!」


 だから結社の最大の障害になるであろう僕に勝利するためにこんなことをしているのか……!?


「お前に勝利するためなら俺はこんなこともできるぞ……!」

「な、なにをするつもり!?」


 そう言ったアービターが突如として僕の配信カメラに目線を送ると……前屈みをして胸元をちょっとだけ開いて――!?


「まってまってまって」

「……(ぷるぷる)」

「そっちもかおをあかくしてるじゃん!!」


 :50000¥/ うひょおおおおお!!

 :50000¥/ 羞恥心確認!

 :50000¥/ なるほどそう来ましたか

 :50000¥/ 続けて?

 :【G・マザー】500¥/ ふむ……

 :【混沌ウサギ】500¥/ ふむふむ

 :【みるぷー】500¥/ ふーん……

 :【マスクド・ミカエル】センリさんの顔で破廉恥なことをするのをやめろ


「……」

「ねぇもうやめよ?」


 お願い。本当にお願い。

 もうそれだけでメンタルがゴリゴリ減ってるから。もう本当に過去一苦しめられているから。ねぇ、きいてる?


「……ミドルフェイズに移行して、俺は『娯楽を夢見るセンリちゃん』を対象にシチュエーションカード『楽器を見つけたセンリちゃん』をシーン展開!」


 駄目だこの人、メンタルがある意味強い!


「センリちゃんが楽器と遭遇した時、伝説が始まる!」


 いやまぁ僕自身が歩んできた話だから改めてそう伝説とか大仰に言われると複雑な気分になるんだけど……!


「覚醒演出! 『変幻自在の吟遊詩人センリちゃん』!」

『みんなよろしくーっ! センリだよ!☆』

「僕はそんなこと言わないィィイイ!!」


 :そもそもセンリちゃんの音源はどこから

 :忘れたか?

 :【G・マザー】はい

 :あ、はい


 しかも攻撃力10と耐久力3の性能って……なんで攻撃高いのに耐久低いのさ。


 :あー……

 :まぁ……

 :無きにしも非ずっていうか

 :センリちゃんやることなすこと火力高いけど、防御方面は疎かだしな(意味深)


「新しいセンリちゃんが登場したことによりボルテージカウンターが1溜まる! そして先ほど使った『楽器を見つけたセンリちゃん』の設定を使用済みゾーンから開示する! デッキからセンリと名の付くシチュエーションカードを再び手札に加えることができる!」


 だけどそのタイミングで僕は手札のカードを使用する!


「僕は手札からシチュエーションカード『TS - 反復横跳び世界一周』をシーン展開! ②の使用済みゾーンに存在するカードを没ゾーンに送る設定を開示する!」

「このカードは使用済みに存在する時にしか展開できないカード……没ゾーンに送られた場合発動はできないか……!」


 アービターの展開で大体分かった。

 多分センリちゃ……センリシリーズのキャラを場に出して多彩なシチュエーションカードでサポートをするデッキなんだと思う。

 ならば僕がするのはできるだけ相手にシチュエーションカードを手札に加えさせず、使用させないようにするだけだ!


「吟遊詩人センリちゃんの設定を開示! 毎ターンデッキからシチュエーションカードを手札に加えることができる! 俺はこの設定でデッキから――」

「僕は手札からキャラクターカード『シチュエーションブレイカーオタ吉』を使用済みゾーンに置くことで、デッキからシチュエーションカードを手札に加える設定を無効にする!」

「無駄だ! ボルテージカウンターを1消費することで設定の開示を無効にすることができる!」


 なるほど……ボルテージカウンターってそういう風に使えるのか……いやこれとんだインチキ設定なのでは?


 :いやリアルセンリちゃんも大分インチキよ?

 :史実の忠実(確信)

 :大丈夫、お母様の監修だよ


「俺はデッキからシチュエーションカード『狂信者を呼ぶセンリちゃん』を手札に加え、そのままシーン展開!!」

「それもカード化されてるの!?」

「ダイスロール!! 1D4を振り、出た数の狂信者トークンを生成する! 出目は4! これで狂信者トークンは四体現れる!」


 :うわでた

 :そうなんよ。センリちゃんのアイテムとかスキルとか活躍とか全部カード化されてるんだよ!

 :なんで持ち主が使うべきデッキを敵が使ってるんですかねぇ

 :相手もダークセンリちゃんだから……


「自分ステージゾーンにキャラが三枚がある時、俺はシチュエーションカード『ファンサービスセンリちゃん』をシーン展開! 使う設定は①!」

「ま、①!?」

「狂信者三人を使用済みゾーンに送り、一枚のキャラを覚醒演出! 出でよ『小悪魔生徒センリちゃん』!!」

『今日も来たよせんせ~』

「僕はそんなこと言わないィィイイ!!」

「いや言ってたぞ」


 :言ってた

 :言ってた

 :言ってた

 :具体的にはインタールードその3『息子のASMRを録るマザー』で言ってたぞ


 そう言えば確かに言ってたな……。

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