第39話

(先輩が登場させたキャラの設定は覚えているぜ……!)


 ダークライドオンハウンド。

 相手キャラ一体を破壊する設定。


 ダークサムライアント。

 相手キャラの設定を無効にする設定。


 ダークシンゴーストカメレオン。

 戦闘によって破壊された時、メンタルダメージを無効にして相手に相手のキャラの攻撃力分のダメージを返す設定。


 どれも一ターンに一回しか使えない制限付きの設定だぜ。その中で警戒すべきはダークシンゴーストカメレオンの設定。先輩の口ぶりから設定が一つだけじゃない可能性もあるキャラだぜ。


(つまりキャラの登場や設定は危険)


 かといってシチュエーションカードによる設定も先輩のジャンルゾーンに置かれている『ネガティブワールド』の設定で属性:闇落ちのキャラを対象に設定を開示することができなくなっている。


 キャラは駄目。

 シチュエーションカードも駄目。

 それでもやれることはある。


(要は処理すべき優先順位の問題だぜ)


 慎重に、まるで爆弾解体のように一つずつ処理していく。そして全ての処理が終わった時、俺の反撃が始まる。


「――そんな風に俺のことを予想してる顔を浮かべているな先輩!」

「え!?」

「センリは言った……混沌王はもっと自由に戦えると! そんな針に糸を通すような手段なんて面白くないぜ!」


 デッキ構築の際に受けたセンリのアドバイスを思い出しながら、俺は手札から一枚のカードを展開するぜ!


「俺はジャンルカード『萌え燃えきゅん・ワールド』を展開するぜ!」

「なんだそのカードはッ!?」


 先輩が知らないのも無理はない。

 何故ならこのカードいや、デッキは――!!


「センリのアドバイスによって構築した対先輩用のデッキ! その意味を先輩は考えた方がいいぜ!」


 :そこまでするかジャッジ君!

 :悪魔に魂を売ったと同義だぞ!

 :いや草

 :センリちゃんプロデュースのデッキはマズイですよ!


「萌え燃えきゅん・ワールドの設定は自分、相手キャラに属性:萌えを付与することができるぜ!」


 その瞬間、三体の禍々しいヒーローアニマルたちが萌えの力を受け取り姿を変えるぜ!


「俺のダークヒーローアニマルたちがカワカッコいい感じのマスコットに!?」

「これぞ属性:闇落ち萌えだぜ!」

「どうしちまったんだジャッジ!?」


 闇落ちでもあり、萌えでもある。

 そして俺は更に手札からシチュエーションカードをシーン展開するぜ。


「『七色の学園制服』! 属性:萌えを持つキャラ全てに学園の制服を着させるぜ!」

「嘘だろ勝手に制服を着せられてるーっ!?」


 :アニマルに制服を!?

 :なんだこのデュエル、ケモ度が高いぞ!

 :あの……ハウンド君はワンちゃんだから良いとして、他は蟻とカメレオンなんですが

 :いいだろうがよぉ制服を着た蟻はよぉ!

 :学園服カメレオンは萌えるダルルォ!?

 :↑守備範囲内の人たちが来たあああ!?


「さぁここで俺は更にシチュエーションカード『次元を越えた授業』をシーン展開!」

「無駄だぁ! 俺のネガティブワールドの設定でお前は俺の属性:闇落ちキャラを対象に設定を開示することはできない!」

「なら対象にしないぜ!」

「なにっ!?」


 このシチュエーションカードは使用してもシチュエーションゾーンに残るカード。

 そしてその最大の特徴は自分、相手の制服を着用しているキャラ全てに影響を及ぼすこと!


「いるだけで全てに影響を与えるシチュエーションカードってことか……!」

「俺から先輩のキャラを対象に設定開示してないのでネガティブワールドの設定は適用範囲外だぜ!」


 そして三体纏めて一緒の授業を受けることになったことで、授業の内容が公開されるぜ!


「チキチキ! 合格を狙え! 落ちたら補習確定のデスゲームだぜ!」

「マジでどうしちまったんだお前!?」

「初回のシーン展開時と毎ターンの開始時に授業の課題が全ての生徒に課せられるぜ。そしてその課題をクリアすれば何もなし……」


 だがもし課題をこなせなかった場合。


「その時は! そのキャラが相手のステージゾーンへと補習しに行くぜ!」

「そういうことか……!」


 課題はゲーム側のランダム。

 そしてその課題はキャラの性能やプレイヤー自身に対して課せられることもあるぜ。


「さぁその三体に対して課題を設けるぜ!」


 ダークライドオンハウンド。

 ……相手がドローするカードの種類を当てる。


 ダークサムライアント。

 ……算数。


 ダークシンゴーストカメレオン。

 ……道徳。


「え、なにこれは」

「これが三体に課せられた課題だぜ!」


 :なんで最初以外は小学校レベルの課題なの!?

 :大いなる意志の作為的なものを感じる

 :これは草


「先ずはダークライドオンハウンドの課題からだぜ! これは俺がドローするカードの種類を推測し、成功すれば没ゾーンに置かれ、失敗すれば俺はそのまま手札に加え、更に先輩のハウンドは俺の補習ステージゾーンに移動するぜ!」


 俺の説明に先輩が引いてるような気がするけど気の所為だぜ!


「さぁドローするカードの種類を当てるんだぜ!」

「くっ……! キャラクターカードだ!」

「……確かに今まではドラゴンハンターやディザスタードラゴンでキャラクターカードの方に偏重してたかも知れない」

「まさか、違うってのか!?」

「でもそんなもの関係ないぜ!!」


 俺はデッキからカードを一枚ドロー!

 そして――!


「すぐさま『RE:スタートワールド』を使用! ドローしたカードをシチュエーションカードに変換するぜ!!」

「うっそだろお前!?」


 :ずっるwww

 :これ絶対センリちゃんの入れ知恵やろwww

 :ジャッジ君が不良になっちまったんだべ!?


「これで先輩のダークライドオンハウンドは補習確定! 俺のステージゾーンに移動するぜ!」

『くぅーん……』

「ダークライドオンハウンドォォォッ!?」

「さぁ次の課題だぜ!」


 次はダークサムライアントの算数!


「クソ、これ以上俺のヒーローアニマルたちを渡すわけにはいかねぇ……! 算数科目だと舐めやがって……社会人舐めるなよ!!」

「課題オープンだぜ!!」


『次の問題を五秒で答えなさい』

『――829735×961527=?』


「おい桁ァ!! しかも五秒って五秒っておい!」

「さーん……にー……」

「待て待て待て待て!!? えーと、えーと」

「はい時間切れだぜ!!」

「クソがああああああ!!」


 :これは酷い

 :ペンと紙持ってこいやぁ!!

 :大人はなぁ! ツールがないともう計算できへんのや!!


「これでダークサムライアントは補習確定! はい次だぜ!」

「クソ、次は道徳だと……? 社会人舐めるなよ……道徳と常識と社会人マナーは必須科目じゃい!!」

「課題オープン!!」


『次の問題を答えなさい』

『道端にとても強い高レアカードが落ちていました。このカードを自分のデッキに入れますか? それとも交番やSNSで持ち主に呼びかけますか?』


「はい! デ ッ キ に 入 れ る!」


 ブッブー。


『不正解。持ち主に返してあげましょう』


「あああああああああああ!!!」

「これでダークシンゴーストカメレオンも補習だぜ!」


 :このスラム育ちのデュエリストがよぉ……

 :法律や実際に持ち主に返せるかどうか云々は置いといて、これ道徳よ?

 :しゃーねーだろデュエリストなんだから

 :カードは拾う物

 :ゲームだとたまに道端に落ちてるカードはドロップアイテムだからな……そりゃあ私物化するべ

 :でもこれ道徳だから……


「そんな、こんなことで俺のキャラが……!? いやまだだ……次のターンの開始時に俺有利の課題が出されるはず……そうなれば奪還できる可能性も――」

「果たしてそれはどうかな?」

「なんだと!?」


 ネガティブワールドの設定は自分のステージゾーンに存在するキャラにしか適用されない。つまり今俺のステージゾーンに存在するこのキャラたちは好きに利用することができるということ。


「ここで俺はこの属性:萌えの三体を対象に先ほど変換したシチュエーションカード『M.O.E. - マジカル・オーダー・イベント』をシーン展開!」

「お前、なにをする気だ!?」

「俺の好きなようにするだけだぜ!」


 三体のアニマルヒーローたちの前に不思議なステッキ型のアイテムが現れる。そのステッキが光輝いた瞬間、三体のアニマルヒーローたちが変身する!


「マジカルアップだぜ!!」


 ダークライドオンハウンド改め。

 ――マジカルポリス・らん。


 ダークサムライアント改め。

 ――マジカルサムライ・あんてぃ。


 ダークシンゴーストカメレオン改め。

 ――マジカルエクソシスト・とかめ。


「闇より出でし三人の魔法少女! マジカルスクワッド、ここに見参だぜ!」

「お、俺のヒーローアニマルが……!?」


 :犬耳ミニスカポリス魔法少女だあああ!!

 :ほほう……触角付きのサムライ魔法少女ですか……やりますねぇ!

 :こっちは舌が長い爬虫類肌が残るエクソシストだぞ! 流石にマニアックが過ぎるぞおい!!

 :もうちょっとケモ度上がって欲しかった

 :うるせぇ! 重症患者は下がってろ!


「因みに制服を着用しているキャラが消えたので、シチュエーションゾーンに存在している『次元を超えた授業』は設定を発揮されないぜ!」

「チッ……キャラの操作権を奪った後のフォローも完璧ってことか!」


 先輩は今、俺らしくないデッキの展開に戸惑いを見せている。だけど俺はそうは思わない。このデッキを回し、目の前に動物の特徴を残した魔法少女がいる光景ははっきり言って――。


「は、はは……!」


 これまで時々感じていた高揚感を今、猛烈に感じている。胸を押さえ、上がっていく口角に俺は……そう、俺は!!


 ――今!

 はっきりと楽しい興奮していると思ってるんだぜ!


「まだまだ行くぜ先輩!」

「お前……っ、本当に何があったんだよ!?」




「混沌王の混沌たる所以……ここに見せるぜ!!」

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