第37話

 まえがき

 テンポの都合でデュエルは省略気味。

 フィーリングでお読みください。




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 ◇SIDE パイア




「ライドオン――」

「チェーンデスマッチ・デュエル……ンゴ!?」


 もうデュエルは来るところまで来たンゴか……普通のデュエルをした頃はもういつの頃だったか分からなくなってきたンゴ。


「私たちを結ぶ『因縁の鎖』……これは私たちの命であり武器でもあるのですわ」

「命であり武器だと?」


 :知らんぞそんなルール!

 :恒例の新ルールかぁ

 :デスマッチとかパック開封デスマッチしか知らんよ俺


「ちょうど鎖の中心を境に二つの色に分けられているのが見えまして?」

「私たちが白で、アンタらが黒だね」

「それらの色は受けたメンタルダメージやによって、自分の色が相手の色を浸食していく仕様ですの」

「全部浸食されたらどうなる?」

「完全に飲まれた側、つまり敗者は問答無用で敗北し……勝った相手の命令を聞かなければならないのですわ」

「なんだと?」


 なるほど、それでデスマッチンゴか。いやンゴが語尾の私がデスマッチと言うと危ないンゴね。これはより慎重に言葉を発しないと……!


 :そう言えばパイアがデスマッチと言うと

 :おいバカやめろ

 :セクハラですよ!

 :チンゴだからセーフ!


「この鎖が繋がれたということは既に両者の間で『ギアス・コントラクト』の効果が刻まれているという証になりますわ……その意味が分かりまして?」

「そういうことか……!」


 強制契約ギアス・コントラクト

 本来は特殊なアイテム、特別な場所、双方の同意によって行われる契約の一種で、お互いはこの契約を必ず守らなければならないンゴ。

 破った側は相応の重いペナルティを課せられるその仕様から、企画物の配信でそれなりに使われることがあるンゴ。


 あとはギアス・コントラクトの効力を付与された巻物スクロール……ギアス・スクロールと呼ばれるアイテムでモンスターを強制的に配下にするスタイルを取るプレイヤーもいるンゴね。その場合テイマーの方々から嫌な顔をされるンゴが。


 閑話休題。


 つまりそんな代物を、私たちにやったンゴか……!?


「どう? これで真剣になりましたでしょう?」

「上等だ……逆に命令してやるよ!」


 どちらの総長も互いに譲れないンゴ。

 これは、とんでもない戦いになるンゴねぇ……!




 ◇




「こ、のおおおお!!」

「クソったれですわああああ!!」


 この結果が、まさかの殴り合いになったンゴ。


 :何回も言うが……

 :おい、デュエルしろよ

 :お互いに装備を纏ってリアルファイトしてるぅーっ!!


「アタシのターン、ドロー! うわあっ!?」

「あらごめんあそばせ?」

「この、チェーンを引っ張るな!」


 チェーン自体は伸縮自在。ただ引っ張るという意思でチェーンを使った場合、私たちを繋げているチェーンはちゃんと意志によって引っ張ることができるンゴ。

 その結果、このチェーンデスマッチのチェーンはドローする際もカードを使用する際もチェーンを引っ張って妨害や嫌がらせに使うことができたンゴ。


「……さて」


 六芒星の時に使った装備カードを身に纏って直接攻撃しに行くスタイルは向こうも同じだったンゴ。それによって起こったのはミラーマッチのような似た盤面の展開ンゴ!


「――そこで私は! 右手にクロスしているキャラクターカード『ACアサルトクロス・エンプレスムカチャッカフィスト』を使用済みゾーンに送り、デッキから『AC』と名の付くクロス可能なキャラクターカードを私にクロスさせますわ!」


 そしてエセお嬢様の右手に装備されたのは『AC・エンプレスぷんぷんデストロイヤー』という名の釘バット!


「貴女が攻撃した時、私も受けたダメージ分貴女に返しますわあああああ!!」

「しゃらくせえええええ!!」

「きゃあっ!?」

「姉御!?」

「お嬢様っ!」


 姉御が強引にチェーンを引っ張ったことで、エセお嬢様の体が姉御の方へと吹っ飛んできたンゴ!


「アタシの『特攻服・プリンセスメンチHELLメット』の設定は一ターンに一回だけ相手キャラとの戦闘開始時、相手キャラの設定を開示できなくさせる! よってアンタのぷんぷんデストロイヤーは無効化される!」


 そこに執事副総長のガマゴンがカードを使用してきたンゴ。


「だがその瞬間、私はシチュエーションカード『泡沫の夢』をシーン展開。クロスしているアン様を対象にあらゆる設定を無効化にします」

「なっ!?」

「これで残るのは素のステータスのみですわ!」

「知るかそんなもん!」

「ごはぁ!?」

「お嬢様ぁああ!?」


 :容赦ない腹パンがお嬢様を襲う――!

 :この総長、メンタルより物理を狙いに行ったな

 :まぁそれでもチェーンの浸食は進むしな


「やりやがったですわねぇえええええ!!?」

「ぶほぉ!?」


 泥沼ンゴ……。

 これはもう私が知っているデュエルじゃない……私の知っているデュエルはみんなに笑顔を――!!


「死に晒せえええええ!!」

「死んで償えですわああああ!!」


 あぁ、いや……これはこれで笑顔が絶えないデュエルンゴねぇ……。使ってるデッキも似たような内容で、どちらも殴られたら殴り返すデュエルスタイル。同じ液体でありながらまさに水と油。

 ここまでの攻防で、互いのメンタルはほぼ同数。どっちが勝っても、どっちが負けても不思議じゃないぐらいの接戦。


 ――そうンゴ。


 寧ろ、これが姉御たちにとっての真剣な決闘デュエルなんだンゴ。だったら私が取るべき選択肢は姉御を支援することのみ――!


「手札からシチュエーションカードをシーン展開するンゴ!!」

「それに併せて私もシチュエーションカードをシーン展開します!」


 やはり、向こうの執事も同じ考えンゴ。

 自分たちが信じる姉御お嬢様の勝利のために戦うのが、自分たちがここにいる存在理由なんだンゴ。


「貴女が急にいなくなってから私の心はぽっかりと穴が空いたような気持ちでしたわ! あの時交わした決着の約束すら反故にされた私の気持ちが分かりまして!?」

「何が約束を反故にした、だ! 先に約束を破ったのはアンタじゃないか!」

「なんですって!?」


 あれ、なんか話の行先が……?


「周囲がどんどん彼氏を作っていって! それで残されたアタシたちは密かに彼氏なんか作らない、ずっと独身で喧嘩しようって約束をしたんじゃねぇか!!」

「それは――!?」

「それなのにアルちゃんは、アルちゃんは――!!」


 エセお嬢様の顔面に向かって拳を振り上げて。


「――そこの執事とデキたんじゃねぇかあああ!!」


 ブッコミナックルを叩きつけた。


 :えええええええええ!!?

 :あのエセお嬢様、執事とデキてるの!?

 :彼氏作らないと言いつつ彼氏作るやつー


「ぐふぅっ!? そ、それは……っ!」

「そうだよなぁ……? 幼馴染で自分のお嬢様ごっこに付き合ってくれる身近な男に惚れないわけがないんだよなぁ……? それなのに自分の心にクソ鈍感だったアンタは、好きな人がいないって言って馬鹿なアタシを騙したんだ」


 エセお嬢様の執事をしているガマゴンに目を向けると彼は目を逸らしていた。でも私の目は誤魔化せないンゴ。そこの男の耳が赤くなっているところをなっ!


「思えば執事役の幼馴染は露骨にアンタに対して矢印を向けてたよなぁ……そりゃあ告白でもすればすぐにゴールインするのも時間の問題だったわけだ」

「で、ですがっ! 例え彼ピができても私たちの因縁に公私混同するなど――」

「あぁん彼ピだぁ!?」

「あ、いえ」


 :草

 :草

 :草しか生えないなんだこの展開


「なにが公私混同しないだ……」

「こ、ここでシチュエーションカード『加速する姫騎士総長』をシーン展開するンゴ! 使用済みゾーンに存在する姫騎士と書かれたキャラクターカードを一枚没ゾーンに送ることでステージゾーンに存在する姫騎士キャラ一体をもう一度攻撃可能にすることができるンゴ!!」


 私が言葉を言い終わると同時に姉御が飛び掛かっていく。


「アンタが彼ピできた途端ずっと無意識に惚気てたじゃねぇかああああああ!!!」

「きゃああああああああ!!?」

「お嬢様あああああああ!!?」


 よし! これで相手のMPは風前の灯火ンゴ! 見ればチェーンの色もこちら側が圧倒してるンゴ!!


「なぁ……教えてくれよアルちゃん……」

「な、なにをですの……?」


 攻撃を与え終わり、私たちが乗るバイクに戻った姉御。ブロロロロとバイクを走りながら、姉御は静かに質問を口にする。


「――子供、できたのか……?」

「……さ、三人ほど」

「ぐふぅうううううううううう!!?」

「姉御おおおおおお!!?」


 ちょ、あれだけ圧倒してたチェーンの色がこちらの手前にまでやってきたンゴ!? なんで傷付くと分かりながら地雷を踏みに行ったンゴ!?


「た、例え裏切ったとしても……幸せな家庭を築いているならいいんだ……おめでとうアルちゃん……っ」

「アーちゃん……っ!」

「――だが、それはそれとして」


 姉御が額に青筋を浮かべて笑みを作る。


「逆ギレで周囲に迷惑をかけた詫びはしねぇとなぁ……?」

「っ、いえ、その……しかし! それでもあの日に受けた心の傷と貴女に対する失望は紛れもなく本物ですわ!!」

「それを逆ギレって言うんだよ!!」


 姉御とエセお嬢様がお互いに拳を構える。


「こうなったらもう――」

「――お互いに満足するまでタイマンですわ!」


 もう勝手に戦えンゴ。


 ――……そして。




『アン&パイアVSアルビトロ&ガマゴン』

『――DRAW』

『引き分けました』




『勝敗が着かなかったため『ライドオン・チェーンデスマッチ・デュエル』の報酬は無効となりました』




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 あとがき

 両者共に似たテーマのデッキ使いなので、細かく描写しても似たような展開になるためデュエルメインではなく両者の因縁の内容を前面に出した話になりました。


 引き分けの経緯としては姉御とエセお嬢様のダブルノックアウトですね。殴り合いによって風前の灯火となった二人に対して執事がバーン効果のあるカードを使用したことで二人ともメンタルブレイクしたという経緯です。


 妻の中にあるわだかまりを解きたいと思った彼ピの粋な計らいですね。


 そして残ったパイアとお嬢様の彼ピはもう戦意もなく、そのまま試合放棄しました。なので両チームとも引き分けという形になったわけです。


 そしてこれによる決闘者スキルの付与と署名カードの入手は起こりません。




 P.S.本当はチェーンでお互いの行動を妨害しながら、仮面〇イダー龍〇みたいなカードバトルを考えていたのですが、どう考えても描写に尺を割きすぎて長くなると思ったのでカットしました。

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