第36話

 :やったか!?

 :アービター戦、完!

 :残る四天王は四人だ!(誤字にあらず)


『……』


 あまりの惨状に僕たちは何も言えない。実質今回の惨状を引き起こしたリンちゃんはキャンピングカー内のベッドの上で布団に包まって震えている始末だ。なお元凶であるコメント欄は普通に盛り上がっていた。この人たち他人事が過ぎるな。


 取り敢えず情報を整理しよう。


 加害者:僕たち。

 被害者:四天王を含めた結社の人たち。

 被害状況:アジトの入り口付近破壊。


 ……うん。


「見なかったことにしよう!」

「そうだね!」


 :やはり兄妹……

 :咄嗟に超法規的措置を取る姉妹には脱帽だね

 :元凶俺らだがな


「……(ぴくっ、ぴくっ)」

「アービターさあああああん!!」

「クソ、俺らの仲間もやられた!」

「いったい何が起きたんだ!」

「ただ社会を全てカードゲームだけで決まる社会にしたかっただけなのに……いったい俺らが何をしたって言うんだ……!」


 結社の人たちが未だに事態を飲み込めていない今がチャンスだ。


「周囲を破壊しながら気を引いて」

「センリ様?」


 :トドメを刺すつもりか!?

 :この男の娘、容赦せん!

 :流石センリちゃん!

 :よっ、外道主義の悪魔!


 君たち全員訴えても僕勝てると思うよマジで。


『了解 緊急迎撃機能『デストロイモード』デ 制圧デキル ト思ウ』

「キャンピングカー……ニャ?」


 今までキャンピングカーのミサイルで迎撃してきたのに今更だと思うんだ。僕はもう割り切って使えるなら全力で使うと決めました。


「な、なんだ? なんかあの化け物から音が」

「まさかとは思うけど、あれってセンリちゃんの化け物キャンピングカーだろ!?」

「やべぇ、逃げるぞお前ら!」

「なんで逃げるんだ!? あんなのデュエルで迎撃すれば大丈――」

「お前センリちゃんの配信見てないのか人生損してるぞ今すぐアーカイブを観るんだよ!」

「なんで今宣伝を!?」


『ぎゃああああ!?』


 ここら一帯を破壊活動していくキャンピングカーが気を引いてくれる内に僕たちはコッソリ、リワードがある場所まで行こう。


 :気を引く(殲滅)

 :なんてこったもう残らないぞ

 :禍根を残さないスタイル()


「あ、あぁ……曲がりなりにも私の居城だった場所が……」


 ごめんリンちゃん……でも彼らの行動を止めるにはこうするしかなかったんだ! 彼らもこうなることを覚悟しての革命だったんだ!


 :本当ぉ?

 :もっと平和的な手段があったのでは

 :今のところ巨大キャンピングカーでアジトに突っ込んで、人的被害を拡大させながら器物損壊しまくる行動しかしてないんですがそれは

 :控えめに言ってテロ

 :多分結社の人たちもここまでのことをしてないと思うよ


 ……。

 うん。


「――全部君たちのせいだからね!」


 :あの名セリフをここで使うなやwww

 :これはダサい方の責任転嫁

 :ここで決め台詞消費してええんか?


 もうやってしまったことを悔やむのはやめにしよう。人は前を向いていくことで未来に進むんだ。もう止められないものは仕方がない、もう起きてしまったことはしょうがない。


 だって流れでこうなったんだもの(問題発言)。


「え、えーと……取り敢えずリワードがある場所は私たち双極に用意された最上階の部屋にありますのでそこまで案内しますわ……!」

「お願い、リンちゃん!」


 そうしてリンちゃんが先頭で案内しながら走り始めるその時だった。


「――流石に……これはどうかと、思うぞ……っ」

『っ!?』


 突如として僕たちの目の前にローブを纏った人物が現れたのだ。フードをすっぽりと被っていたせいかその外見は分からないものの、ローブの色で分かるその人物の正体とは――。


「君は……アービター!? どうしてここに!? キャンピングカーに轢かれたんじゃ……」

「残念だった、な……トリッ、クだ」

「その割にはかなりボロボロに見えるけどぉ……」


 エーシスの言う通り、足が骨折しているのかかなり不安定な姿で立っており、ローブ越しに全身が折れ曲がっていると分かるほどの歪な姿。

 ゲーム故に痛みがないと思うけど、現実だったらもう医者が首を振るレベルの惨状だ。


「あばばばばばばばば」

「被害者のリアルな惨状を目の当たりにしたリンが罪悪感のあまりショートしているぜ!」

「な、に……? この惨状は、センリのせいでは、ないのか……?」

「四捨五入するとお兄ちゃんの方が過失五十割ってところかな」

「待って」


 :どんな計算だwww

 :まぁでも俺らのコメントが小学生に見えるように配信してるセンリきゅんが悪いところもあるし?

 :つまりセンリちゃんが悪いということか!

 :(※俺らが悪くないということはないです)


「当てつけのつもりでこの体を見せたが、お嬢様には悪いものを見せたようだ……」

「当てつけって」

「少し待っていろ……

『!?』


 その発言に訝しんだ直後、アービターの体中からゴキゴキボキボキと聞く者の顔を顰めるような音を響かせながら蠢いていく。

 ドン引きしながら見ていくと、徐々にアービターの折れ曲がった体が真っ直ぐになっていくのではないか。


「ふぅ……待たせたな」

「体が、治った?」

「常備していたエリクサーによる効果だ……ショッキングな姿で驚かすつもり故、死なない程度に治癒力を抑えていた……」

「悪趣味……」

「元凶が何を言う……」


 :あちゃーこれは一本取られましたなぁ!

 :諸々の所業に関してセンリちゃんは何かを言う資格はないです

 :それでも気にせず責任転嫁するのまさに外道


「さて……ここで歓迎会を用意していたが見事に台無しになったな……」

「ア、アービター様! 私たちは、いえ……私はこのような事態を起こした責任を取るべくリワードの停止をしにやってきましたの!」

「……」

「全ては私の責任ですの! こんな結末に皆さんを巻き込んだことについて私は――」

「勘違いしているようだ」

「っ!?」


 言葉を被せるように発したアービターにリンちゃんが目を見開く。


「何も成し遂げられない? 違うのだお嬢様……全てはもう変わった」

「どういう、ことですの?」

「どうして未成年であるはずのお嬢様がリワードを受け取れた……? どうして貴女のお兄様が子供でありながらこれほどの人材を手にし、人をまとめ上げられた?」


 その言葉にリンちゃんが呆然とする。


……」

「……まさか」

「もうお嬢様の……いや、の知る結社じゃない。この結社はもうの物だ」


 その時、リンちゃんの口からポツリと声が零れた。


「――が……?」


 呟かれた言葉に僕たちは目を見開いて一斉にリンちゃんの方へと顔を向ける。

 お父様って……どういうことなの!?


「話はここまでにしようか……!」


 そしてアービターが声の調子を上げながら話しかける。


「俺の目的はお前だけだ……センリ!」

「っ!」


 アービターが自身のローブに手をかけると、そのまま勢いよく脱ぎ出す! そして中から現れたのは――!


「もう一人の、僕……!?」


 :センリちゃんが二人!?

 :全体的にこう、ダークセンリちゃんみたいな!

 :髪色も服装も全体的に黒い2Pカラーのヤツ!


 でも正体を見せる前は一般的な男性の平均身長だったけど、ローブを脱いだ瞬間僕と同じ身長ぐらいに縮んでいるんだけど! あれも結社が見せる高性能ステルスローブの能力だっていうの!?


「最大の障害はお前だと、俺は常々そう思っていた……だから研究したのだ。センリ……お前の全てを」

「僕の、全て」


 :【混沌ウサギ】非常に似ておりますがあれは人工ですね!

 :うわでた

 :センリちゃんの有識者だ!

 :男の娘に詳しい有識者も呼べ!

 :人工って、ただキャラクリで似せたってこと!?

 :【混沌ウサギ】どう足掻いても隠し切れない違和感……センリきゅんの天然美少女フェイスとは程遠い作りです!

 :【混沌ウサギ】でもキャラクリレシピは欲しい

 :はい

 :知ってた

 :流石変態ウサギだぜ!


「膨大な選択肢を好む性格は、非常に同感だ……だがだからこそお前の相手はこの俺が相応しい……!」

「っ、お兄ちゃん!?」

「これは!?」

《センリとあの黒センリの足元に魔導陣が見えるデス……これは、転移デス?》


 マナナンの言葉に僕たちは目を見開く。それと同時に僕の顔をしたアービターがニヤリと笑みを浮かべる。


「――俺たちに相応しい決闘場は決まっている」

「センリッ!」


 手を伸ばそうとするジャッジ君を制して、僕はしっかりとした声で伝える。


「ジャッジ君……彼は僕が相手をする」

「え!?」

「だから君たちは僕を置いて先に行ってくれ!」


 わざわざ相手が指名してくれたんだ。

 なら逆に倒すまでだ……!


「『転移魔導陣、起動』」


 その瞬間、僕たちの体は消えて――。




「――うぐっ!」


 体を打ち付ける衝撃に呻きながら起き上がる。そして周囲を見るとどうやら僕はどこかの塔の上に飛ばされたらしい。


「ここが……」

「そうだ。ここが俺たちの決戦のバトルフィールド」

「っ、アービター!」


 振り向くと、僕から一定の距離を置いた位置にいるもう一人の僕が立っていた。僕の外見をした相手とか、オンラインゲームならではの状況だなぁ……!


「決着を付けよう、もう一人の俺」

「何がもう一人の僕だよ……!」

「結局のところ我ら四天王との勝負は因縁ばかりとの闘い……つまり俺とお前はプレイスタイルが似た者同士の戦いというわけだ」

「そう言われても……」

「他の場所では既に因縁の戦いが始まっているぞ……」




 ◇




 夢幻鉱山の手前では。


「腹パンでメンタルダメージ!」

「ごへぇ!? や、やりやがりましたわねぇ!?」

「お嬢様にシチュエーションカード『腹パンカウンター』をシーン展開!」

「おらぁ! ですわ!」

「ぐほぉ!?」

「姉御ンゴ!?」


 東西の総長たちがかつての因縁と白黒つけるために殴り合い――。




 ◇




「よぉ、ついにここまで来たなぁジャッジ」


 僕たちが消えた直後に現れた最後の四天王。

 その登場に、ジャッジ君が顔を歪める。


「……先、輩」

「まだ先輩と言ってくれるのかぁ?」

「……っ」

「さぁ、最後の決着と行こうか!」

「く、っそおおおお!!」


 ――この場所で、先輩と後輩の決着が始まる。




 ◇




「さぁ俺たちも始めよう……!」

「どうして僕に執着しているかは分からないけど……君との初対面から考えていたことがある――」


 ビシリと指を差し、宣言する。


「――君に相応しい結末はもう決まってあるから!」


 この勝負、絶対痛い目を見せてあげるよ!


「ならば、来い……!!」


 デッキを構えて、お互いに声高らかに宣言する。


『――デュエル!!』


 始まりを告げる、その言葉を。

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