第35話

「さぁ、私と勝負をしなさい……アン」

『ヒャッハー!!』


 四天王の一人、アルビトロからアンさんに対する指名だ。その言葉と同時に四天王たちが走っている周囲の構成員が叫びを上げる。


「例え四天王だろうと相手にしてやるぜ!」

「バトルじゃあああ!!」


 新しい四天王の登場によって味方のプレイヤーが彼らに突撃していく。


 しかし。


「ガマゴン」

「了解です、お嬢様」


 アルビトロが乗る台をバイクで牽引していた四天王の執事ガマゴンがバイクに何かを入力する。その瞬間、台の横から無数のミサイルを発射してきた!?


「うっそだろお前!?」

「アカン、これが走馬灯……!?」

『ぎゃあああああ!?』


 そんな……みんながミサイルの餌食に!?


「いやデュエルしてよ!」

「キャンピングカーのロケット砲で迎撃してるお兄ちゃんに言われたくないよ」

「……アイツの相手はアタシしかいねぇか」

「アンさん?」

「悪いね、ちょっくらアイツと話を付けに行ってくるよ!」


 そしてアンさんはパイアさんの名前を呼ぶ。


「バイクを!」

「分かったンゴ!」


 パイアさんがストレージからこの前の六芒星で乗っていたバイクを取り出す。

 キャンピングカーの中は広いからサイドカー付きのバイクを出しても問題はなく、パイアさんが出したバイクにアンさんとパイアさんの二人が乗り込んだ。


 そして。


「――え、パイアも行くの!?」

「え? 行かせてくれないンゴ?」


 :ズコー

 :一人で行くつもりだったのかよ!

 :相手四天王が二人だぞ!


「……あー」

「失念してたンゴね……熱くなると周りが見えなくなるのは姉御の欠点だンゴ」

「いや、でも……いいの?」

「どう見ても相手はお嬢様と執事のコンビだンゴ。だったらこっちも姉御と私の姉妹コンビで戦うのがお約束ンゴ」

「パイア……」

「どっちのコンビが強いか、白黒付けに行くンゴ!」

「おう!」


 その言葉と同時にキャンピングカーの後部が展開され、バイクの発進が可能になる。


「アイツらはアタシたちが相手をするから、センリたちは構わず先に行け!」

「ちゃんと倒して戻ってくるンゴ……!」


 :死亡フラグ立てんな!

 :立てて良いのは混沌王の中だけにしろ!

 :総長負けないで!


「……分かった!」


 セリフはあれだけど、僕は彼女たちの実力を信じている。だから僕は彼女たちの勝利を祈るだけだ。


「それも死亡フラグでしょお兄ちゃん」

「心を読まないで」


 とにかく、ちゃんと勝ってね!


「行くよパイア!」

「ンゴォーッ!」


 けたたましい音を響かせながら、二人が乗ったバイクが発進し二人の四天王の元へと行く。残る四天王は推定二人。僕たちは夢幻鉱山の霧の中へと突っ込んでいった。




 ◇SIDE パイア




 もうみんな行ったンゴ。

 残るは自分たちを加勢してくれる一般プレイヤーの協力者たちと、彼らと争う構成員。そして姉御の最大の宿敵であるエセお嬢様たち四天王の二人。


 私には分かるンゴ。

 この戦い、一筋縄ではいかない苛烈な争いになるということンゴが……!


「なにブツブツ言ってんだい?」

「視聴者に分かりやすい解説をしてたンゴ」

「お、おう……」


 :せっかくだから俺たちはこっちを見るぜ!

 :キャー! 総長ぉおおおっ!

 :勝ってください総長!


 こっちに流れてきた視聴者も姉御の勝利を願っているンゴ。ならば私は姉御が勝てるように精一杯支援するンゴ。

 そしてついに、両者はっきりと見える距離にまで近付いたンゴ。


「――来てやったぞ西の総長!」

「――おいでなすったようですわね東の総長」


 姉御が大きく迂回するようにハンドルを切る。

 そしてエセお嬢様の周囲を並走している構成員をバイクや拳で蹴散らしながらエセお嬢様の前にまで回って先頭を走るンゴ。


「アタシをご指名のようだな! ……えーと」

「はぁ……私の名前はアルビトロですの」

「そうかい。だがアンタが今何を名乗っているのかは興味ねぇ! アタシが確認したいのはただ一つ、どうしてアンタが結社にいる!?」


 総長時代の姉御の話を聞いていた私は、西の総長と呼ばれる人がどんな人かある程度把握しているンゴ。

 そんな姉御の評を聞けば、彼女が混沌王……それも混沌王社会を目指す結社に与する性格じゃないことだけは確かンゴ。


 そんな姉御の言葉にエセお嬢様総長が目を細める。


「――それは私の言葉ですのよ」

「え?」

「急に総長をやめて、次に何をしたかと思えば混沌王の公式デュエリスト……それに派手なお猫を頭から被るその姿に私がどれだけの失望を受けたことやら」

「ね、猫被ってないし!?」


 :今更取り繕っても遅いわ!

 :もうやめましょう総長

 :今やもう完全に総長口調で通してるのに今更気にしてるの可愛い


「だから私は貴女と決着をつけるために混沌王を学び、カオスティック・ギルティアに入りましたの」

「ア、アタシのために……!?」

「――勘違いしないでくださる? 貴女と決着をつけるのは貴女のためではありません。私の心残り、私の壁……正真正銘、私のために貴女をギッタギタのボッコボコにしたいのですわっ!」


 そうしてエセお嬢様が紅茶のティーカップを投げ捨てて、ビシッと姉御に手を向けたンゴ。


「なにをするつもりンゴ!?」

「決まっていましてよ――」


 その瞬間エセお嬢様と執事の二人の腕から鎖が伸び、私と姉御それぞれの腕にくっついたンゴ!?


「――私たちと『ライドオン・チェーンデスマッチ・デュエル』で白黒付けるんですのよ!!」


 ……え、なにそれは(困惑)。




 ◇SIDE センリ




「もうすぐで着きますわ!」

「構成員はまだ追ってきてるぜ!」

「逆に加勢しに来てくれた味方の数が減ってるよ!」


 :霧で前が見えねぇ!

 :すまん、迷子になった!

 :多分アジトの場所を知ってるかどうかで夢幻鉱山の霧が行方を阻んでいるんだ!


「なんとか食らいついて構成員を追ってる味方はいるけど……駄目! やっぱり味方と分断され始めてるよ私たち!」


 僕たちがこうして話をしている間にも、マナナンとクロが構成員たちを迎撃してくれている。最悪、味方の助力を貰えなくてもこのキャンピングカーの機能で対処するしかない。


 だから結局のところ僕たちは。


「……前に行くしかない!」

「霧を抜けましたわ!」

「お兄ちゃんあれ!」


 エーシスの指差す方向を見れば僕たちを包んでいた夢幻鉱山の霧は消え、道路が現れる。そしてその道路の遥か先に繋がっているのは、数々の塔が重なるようにそびえ立つ巨大な中世ヨーロッパ風のお城が建っているのが見えた。


「あれが結社のアジト……!?」

「豪華すぎだよリンちゃん!」

「お金だけはありますのでぇっ!」


 :うーんリッチ

 :ゆーてセンリちゃん家だってエクストラリワードとかでリッチだよね

 :ゲーム内だと大会の優勝賞金とかでリッチだし

 :センリちゃんほどのリッチならあの城も建てられるのでは?

 :リッチしかねぇな

 :いやーリッチリッチ


 お金だけはあるって……見た感じ小学生だけどリンちゃんやそのお兄ちゃんのキャラってかなりの資産を持っているのだろうか。

 このゲームって攻略に必要な課金はないけど、育成を楽にする課金要素はある。何せ三十年の運営で、膨大なコンテンツがこのゲームにはあるんだ。流石に強いアイテムを直接じゃなくて、素材に関する商品ばかりだけど。


 まぁかといって僕を含めて未成年の課金には制限がある。これだけの城を用意するのに課金だけじゃ計算が合わない気がするし……やっぱりリアルマネーで雇って建てたとか?


 グエッコーみたいに人を雇ってこのお城を建てたとしたらまだ可能性はありそうだけど……どうも気になるな。


「ねぇ、リンちゃん。どうしてお金だけはって――」

「どーする!? このまま降りてチャイム鳴らす!?」

「こういう時受付の人に確認するんだぜ」

《それだとアポイントの確認を求められるデス》

「リンの客だと言えば行けるニャ?」


 :真面目か!

 :一旦落ち着こう

 :もう盛大にカチコミってバレとるやろ

 :先ずは深呼吸しよう

 :ふぅー……よし、それで?

 :そしてそのまま突っ込もう

 :おk

 :↑おいwwww

 :↑待てや(笑)

 :しっかりいたせーっ!!


「もうどうにもなれですわあああああ!!」

「ちょっと待って!?」


『対象物ノ 硬度ヲ確認中……』

『多分 行ケマス』


 多分じゃダメだってばああああああ!!?


『うわああああああ!!?』


 キャンピングカーの前面に厳つい装甲が展開。そしてそのまま僕たちはキャンピングカーごとお城の巨大な門へと向かい――。


 ――ドガアアアアアアアン!!


『っ!?』


 門をぶち破って現れた巨大なキャンピングカーの姿に、お城の中にいた構成員たちが目を見開く。そしてその中にはアービターと名乗るローブの人物もいて――。




「ぶげらぁっ!!?」

『アービターさ――ぎゃあああ!!?』




 周囲の構成員ごと四天王を轢いちゃった……!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る