第30話

「その、皆様……私のお話をお受けいただき、誠にありがとうございますわ」


 キャンピングカーに乗りながら、リンちゃんの案内でカオスティック・ギルティアのアジトへと赴く僕たちに、リンちゃんが改めて感謝の言葉を述べる。


「なに、アタシたちはどの道、いつかその結社にカチコミしに行く予定だったからね。寧ろ本拠地を探す手間が省けてよかったよ」

「でもまさかアジトが外にあるとはねー」


 そう、リンちゃんが示したカオスティック・ギルティアのアジトはデミアヴァロンの外……夢幻鉱山の中だという。

 普段の活動範囲がデミアヴァロンの中だったからこの場所にアジトがあるって聞いた時は驚いたよ。


「お兄様がとあるサブイベントで手に入れた報酬で夢幻鉱山の一部エリアをギルドホームにできる報酬を手に入れまして」

「夢幻鉱山の中に住める権利かぁ……」


 夢幻鉱山……幻……変態……うっ、頭が。


「この子はどうして頭を抱えてるんだい?」

「詳しくはアーカイブで!」


 アンさんに宣伝はやめてエーシス。


「カオスティック・ギルティアのギルドホームは夢幻鉱山の特性故に、お兄様が招待もしくは許可しなければ霧に阻まれて辿り着けない仕様になっていますの」

「なるほど。そうやって隠れてたってわけだ」

「でもリンちゃんのお兄ちゃんが招待や許可をしないと入れないなら、私たちもアジトに入れなくない?」


 エーシスの真っ当な質問にリンちゃんは問題ないと首を振る。


「ギルドホーム設立時にお兄様は私をギルドホームの共有名義に入れてくださったのですわ。だから私にもお兄様と同等の権利がありますの」

「流石双極の一人!」

「やめてくださいまし!?」


 裏切った身だから複雑だろうね……。


「そう言えば、リンちゃんが裏切ったことは既に向こうも知られているとして……もしそれで共有名義から外されたらアジトに入れなくない?」

「いえ、共有名義はお互いの同意がないと無理矢理外すことはできませんの。ですのでちゃんと皆様を霧の中のギルドホームに招待することは可能なはずですわ」

「なるほどね!」


 つまりアジトに案内することに支障はないと。それでも彼ら裏切った上、自分がかつて所属していた組織に敵を迎え入れるって罪悪感凄いんじゃないかな。


「う、うぅ……」


 しかも無意識にお腹を押さえてる……ゲームの中なのに。


 そんな時だった。


『後方カラ 多分 反応ヲ検知』

「多分!?」

「多分は余計ンゴ……」

「このキャンピングカーのAIはいつもそうだから気にしないで」


 それよりも後方から反応だって?


「拡大して!」

『了解シマシタ』


 そうして後方から迫る何かを拡大してフロントガラスに映すAI。するとそこにいたのは……丸太?


「いや丸太の上に人が乗ってるぞ!」


 :桃〇白か何か?

 :なんだよ丸太の上に人って

 :もしかしてその人……


「あ、あれは……!?」


 心当たりがあるのか、リンちゃんが目を見開いて口を押える。その瞬間、僕たちの脳内に謎の声が響く。


『ふむ……公式デュエリストが雁首揃えて我らが居城に迫るとは……やはり双極の片割れが我らを裏切ったのは本当のことのようだな』

「……っ!」

「おいこの声はなんだ!? まさかこの声はアタシたちを追ってる奴の――」

『左様の助』


 そこでようやく後ろから迫る丸太が僕たちの見える距離にまで近付いた。遠すぎて分からなかった人の輪郭が明確になり、そこで僕たちはようやくその人の正体を知ることとなる。


『儂は我が結社カオスティック・ギルティアの四天王が一人――』


 丸太の上でまるで座禅をするように座る老人風のアバター。服はボロボロで最早布切れが体にしがみ付いているレベルの風体。

 長年整えてこなかったのか、紙や髭、眉毛などが無造作に長く生やしている得体のしれない風貌。


 そんな彼の名前は。


『――デュエル仙人のクラマじゃ』

『デュエル仙人……!?』


 :なんだよデュエル仙人って

 :仙人っていうジョブは確認されてるけど

 :まさかあのデュエル仙人が結社に!?

 :↑知ってる人いたよ

 :話すと長くなるぞ

 :短くしろ

 :混沌王界隈の頂点プレイヤーの一人だ

 :やればできるじゃねぇか

 :いやそれがマジならヤバいじゃん!?


「頂点プレイヤー……!」


 各コンテンツに存在する規格外の実力を持ったプレイヤーたち。それを頂点プレイヤーと呼ぶけど、やっぱりカードゲームコンテンツにもいたか!


「私たちを止めに来たのですの……!?」

『ふむ……実のところ我らもお前たちのようなデュエルの猛者がやってくること自体、歓迎すべき事柄である』

「え……」


 歓迎って、どういうこと?


『我らが集める……その署名カードには条件があった』

「条件……」

『即ち、我らを打倒し決闘者スキルを集めた者たち』

『!?』

『これまで黄道十二星座、八神将、六芒星を倒した者たちの署名カードを集めることによって、我らの悲願が成就する』


 それが本当なら、確かに必要な枚数を既に収集しているのに報酬が出てこないと言っていたリンちゃんの言葉に説明がつく。


「つまり必要なのは……僕たちの署名カード!」

『左様の助』

「……ハッ! つまりアタシらは飛んで火に入る夏の虫ってわけかい」


 目的が僕たちなら確かにこれから彼らの本拠地に向かおうとしている僕らは格好の獲物……いや餌というわけだ。


「あ……そ、そんな……私は……!?」


 そしてそれを知らずにわざわざ僕たちをアジトにまで案内してしまったリンちゃんは、自責の念によって顔を蒼褪めていた。でも、それは違うよリンちゃん。


「ううん、リンちゃんは悪くないよ」

「エーシス、様……っ」

「私たちが勝てばいいんだよ!」

「よく言ったねエーシス! そう、アタシらが勝てば何も問題ない! 寧ろ目当てがアタシらって分かってればやりやすいってものさ!」

「ンゴ……!」


 やっぱりこの程度の情報で揺れる僕らじゃない。

 襲い掛かってくるなら立ち向かうまでだ!


『ふむ……流石の闘志じゃ。やはりデュエリスト足るもの、逆境に対して闘志を燃やすに限る……それでこそ儂がここに来た甲斐があったというものじゃ』

「というかさぁ。それだったらどうして一人で私たちを追いかけてきたの? 恰好もきったないし」

『知れたこと……どの道結社総出でお前たちを刈り取るというのなら……儂自らが刈りに来ても問題はなかろう。それと儂は汚くない』


 流石デュエル仙人と名乗るだけはある。この人もとんだデュエルジャンキーってことか。あと汚いですよ。


「こっちは複数だよ? お爺ちゃん一人で勝てると思ってるの? あと服がかわいそう。ってか寧ろ布切れだし」

『寧ろ儂一人で十分じゃ……それに逆に問おうではないか。お前たちにこの儂が勝てるとでも? あと服など布切れでも問題はない』


 なんかエーシスと仙人がヒートアップしてるような。


「仙人名乗る前に服装見直してほら。そんな有様じゃ仙人には見えないからね」

『デュエル仙人とは周囲に満ちる気と同化し、デュエルの深淵を覗くもの……この姿こそがデュエル仙人に辿り着いたが故の証である……あと仙人に服は必要ない。寧ろ服など邪魔なだけじゃ』

「はぁー? きったない上に露出癖とか救いようがないんですけど。そんなんで同化されてしまう気の人たちがかわいそう!」

『は? かわいそうじゃないが?』


 あの、二人とも。


「あったま来たんだけど! 服を蔑ろにする人に仙人なんかなれないって!」

『小娘が……理解らせてやろうぞ……』


『……』


 あの、エーシスさん?

 どうしてデュエル仙人と睨み合ってるの?


「天井開けて」

『了解シマシタ』

「エーシス!?」

「あの人は私一人でぶっ倒す!!」


 そうして僕たちが止める間もなく、エーシスが梯子を使ってキャンピングカーの上に上る。そうしてキャンピングカーの上で仁王立ちしてお互いを睨み合う二人。


 そして――。


『デュエル!!』


 どうしよう……エーシスが頂点プレイヤーとデュエルを始めちゃった……!?


「服の素晴らしさを教えてあげる!」

『来るがいい! 仙人の何たるかその身に刻ませてやろうぞ……!』

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