第29話

「う、うぅん……?」

「あっ起きましたニャ!」

《起きたデス》

「え、ここどこぉ……?」


 目が覚めたらマナナンとクロのダブル可愛いが目に入ったら混乱するよね。


「おはようジャッジ君」

「その声……ハッ!? センリ!?」


 ジャッジ君が飛び上がりながら僕を見る。今彼がいるのは公式デュエリストのギルドホームだ。デュエルに負けた彼を僕が……まぁ厳密にはバードボルテージバイクが運んでここに連れてきたわけである。


「……確か俺は」

「僕に負けたんだよジャッジ君」

「ひぃ……」

「あれ?」


 :可哀想に……

 :センリちゃんの顔を見て怯えるの草

 :ジャッジ君が怯える表情、ゾクゾクする

 :↑おまわりさんこいつです!


「……あれ? それは」


 ふとジャッジ君が僕の首にぶら下げている看板を見る。


「あー……」


 なんというかその。


「センリへの罰だよそれは」

「あ、アン先輩……」


 ジャッジ君に対して取った行動がアレ過ぎたため、罰として『僕は小学生相手に鬼畜行為を働いた男の娘です』と書かれている看板を首にかけていたのだ。

 いや、まぁその反省してはいるんだけど内容どうにかならなかったんですかね……?


 :残念だが間違っていねぇんだわ

 :因みに書いたの妹ちゃんね

 :知ってた


「その、俺……っ」

「いいんだ……アタシだってアタシが守らないとって思ってた妹分が彼氏作って一週間荒んでた頃があったからな」

「それと同列にしていい話題なのンゴ?」


 まぁそこは当人の受け止め方だから……でも良かった。やり過ぎたと思ってたけど、ジャッジ君が何もなくて。


 :なんかチラチラとセンリの方を見てるな

 :その度に顔を青ざめてるんだけど

 :でも息荒くない?

 :まさかあれは、性癖を歪ませている時の顔!

 :マジかジャッジ君……

 :正気に戻ってるようでやっぱりまだ歪んでて草


「なぁジャッジ。いったいどうして、アンタがあの地下で覇王ヘルカイザー・ジャッジになってたんだ?」

「あっ……いや、あの、それは」


 ジャッジ君が行方不明になってからこの数日間。

 ログインのほとんどを覇王ヘルカイザー・ジャッジとして、ジャッジ君はあの地下の違法デュエル賭博で活動していた。


 あの地下には結社の構成員もいたはずだ。いくら裏切られてショックを受けたとはいえ、どうしてあのようなことになったのか、僕たちは知らなくちゃいけない。


「知らないおじさんが、あのデッキをくれたんだ」

「事案だンゴ……!?」

「アンタは座ってな」

「ンゴ」


 知らないおじさん……結社の人?


「結社かどうかは確実なことは言えないけど、おじさんの話を聞いてて……俺、レフェ先輩のことを知りたくてあのデッキを使ったんだ」


 :もしかして洗脳か?

 :メルヘンやファンタジーじゃあるまいし

 :弱ってたところに巧みな言葉で付け込む的なアレなのでは?


「悪い大人だンゴ……」

「もう何を考えたらいいか分かんなくて……ただあのデッキを使って、完全に受け入れられたらレフェ先輩のことを理解できるようになるって言われたから」

「だからあそこでずっとデュエルを?」

「だがどうしてあの場所なんだ?」


 アンさんの疑問にジャッジ君は首を振る。どうやら場所については興味がなかったのか、疑問を抱かなかったようだ。


「あの場所が結社と関係があるのは確かなんだ」


 現状分かったのは結社と関わっていると思われる謎のおじさんという存在だけ。だけどそれ以上の情報が分からない。


「ここで手詰まりなの……?」

「――安心して」

『!?』


 そこに僕たちの背後から見知った声が届く。

 というよりもこの声は――!


「エーシス! 何か用事があるって外に出かけてたんじゃ」

「ずーっと説得してたのこっちは!」

『説得?』


 エーシスの言葉に首を傾げる僕たち。

 そんな中エーシスが体を横に移動すると、そこ見知った人が入ってくる。というのもは……。


「リンちゃん?」

「……はい」


 初めてサバイバル・デュエルを仕掛けられた日、エーシスと一緒にいたエーシスのデュエルフレンドにして僕のファンという少女!


「この度は……その」

『?』

「誠に申し訳ございませんですわーっ!!」

『っ!?』


 いきなり女子小学生に謝罪させられた僕たちは、頭に疑問符を浮かべながらリンちゃんの話を聞くことにした。




 ◇




「リンちゃんが結社の双極で――」

「――結社のエクストラリワードが嘘ぉ!?」


 :え、マジ!?

 :やめてくれないか、情報の洪水をワッと浴びせてくるのは!

 :じゃあなんだったんだ今までの戦いは……


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」

「い、いやちょっと待って……エーシス、もしかして?」

「うん、知ってたよ」


 エーシスの言葉に僕たちは天を見上げる。

 知ってたって……知ってたってさぁ……。


「偶然リンちゃんの独り言が聞こえてねー」

「いつかはバレると思っていましたが……まさかうっかりでバレるとは思っていなかったのですわーっ!!」

「うっかりって……」


 エーシスもエーシスでどうしてそんな重要なことを早く……いや、言ったところで結社側に所属している人たちの名誉が危なくなるよね。まぁ確かに知った後でも秘密にしておくのは当然か。


 :でも配信に乗ったぞ

 :リンちゃんの裏切りとリワードの正体が結社の人たちにバレちゃう!

 :忘れたのか? フィルターで弾けるぞ

 :そういやそうだった

 :いや彼らの名誉はどうなるんだよ

 :そこになければないですね

 :草


「でもだったらどうして今更この話を?」

「結社絡みでジャッジ君という被害者が出たからね……だから流石に私たちだけで秘密を抱えるのはよくないなって」

「罪悪感で吐きそうというか吐きましたわ……」

《エーシスがずっと説得してたんデス》


 そうか、エーシスが……。


「それに……」

「それに?」

「気掛かりがありまして……」


 リンちゃんは何か他に悩んでいることがあるのか、静かに言葉を綴る。


「きっかけはサバイバル・デュエルというルールが追加された時ですわ。というのも、今回の事態を引き起こしたリワードには私がいないと動きませんの」

「……つまり?」

「私、あのリワードでサバイバル・デュエルを追加した覚えがないのですわ」

『っ!?』


 追加した覚えがない? でも彼女の言うことが正しければ、リンちゃんがいないとそのリワードが動かないということでしょ?


「そうですわ……これまで私はお兄様と結社の方々から、決闘者スキルと強制デュエルのイベントを追加するように言われ、その言葉通りに追加してきましたわ」

「だけどアンタは、サバイバル・デュエルというルールを追加していないってさっき言ってたわよね?」

「……アンティルールも同様ですわ」


 なのに彼女がいないまま彼らはルールを追加できた。


「ルールの追加は一定数の署名カードを集める必要がありますわ。それに新しいルールの追加に必要な署名カードは既に揃っていました」

「要はリンちゃんが与り知らないところで何かが起こっていると……」

「……そうですわ」


 リンちゃんがギュッとスカートを握りしめる。


「……確かにあのリワードには社会を変えるような力はない……でももしそれが本当にそのような力があったとしたら」

「怖くなって僕たちに真実を話す決心をしたんだね」


 僕の言葉にリンちゃんが頷く。


「持ち主以外のリワード使用か……」


 リンちゃんの説明で分かったことがある。

 それはどうしてこのような事態に陥っても運営が干渉してこないということだった。リンちゃんの話が本当ならそれも当然だろう。何ら危険性のないリワードだからこそ、運営は放置していたんだ。


 だけど、それもあくまで現状の話だ。


「運営が出てきたら、今度こそ結社の人たちは終わりだよ」

「……っ!」


 配信でエクストラリワードが嘘であるとバラされ、結社の人たちが滑稽に見えるというネットのおもちゃレベルならまだいい。

 でももしここで、運営が出てきたら一生ネットのおもちゃにされるレベルじゃ済まさなくなる。


「結局のところ、僕たちは結社の人たちが何かをする前に彼らを食い止めなくちゃいけない」


 僕の言葉にエーシスたちは頷く。そしてアンさんがリンちゃんに対して質問をぶつけた。


「それで、アンタはどうしてジャッジがあの地下でデュエルをさせられてたのか知ってるのかい?」

「……知ってますわ。というのも……今、結社の方で問題が起きているのですわ」

「問題?」

「実は、署名カード事態は既に必要な枚数を手に入れてますの」

『え!?』


 それってもう結社の目的は達成しているということ!? でも現実世界に変わりはないし、そもそもリンちゃんの話では肝心のエクストラリワードは嘘だって話だけど。


「リワードに設定されたゴールが達成されたら報酬が出てきますが……未だにその報酬が出てこないんですの」


 報酬が出てこない……?

 考えられるのは設定が間違っているか、リワードが何かしらバグを起こしてるのか。


 それとも。


「そもそも条件が達成されてない?」

「恐らくは」

「どういうことなのお兄ちゃん」

「ただ署名カードを集めるってだけじゃ駄目なんだと思う」

「なるほどね……署名カードにも条件があるってわけかい」


 なるほど、見えてきたぞ。


「そのためにジャッジ君をあの地下で戦わせてきたのか」

「えぇ……ある日報告でジャッジ様を地下の賭博場で戦わせて署名カードを集めさせる作戦を進行してるって聞きまして……」

「それが覇王ヘルカイザーの正体だってのか!?」

「……」


 見ればジャッジ君は顔を赤くして俯いていた。

 まぁしょうがない、レフェさんのことを理解できると言いながらその実、計画のために利用してたんだから怒りを抱くのも無理はないだろう……。


 :これ恥ずかしがってる?

 :まぁ黒歴史を連呼されると、ね?

 :ヘルカイザー! ヘルカイザー!

 :覇王! 覇王! 覇王!

 :やめて差し上げろ!


「報告……リンちゃん双極の一人なんだンゴ?」

「……そうですけど、どうも私の知らないところで勝手に行動している方がいるようで」

《リンだけ仲間外れにされてるデス》

「……」


 リンちゃんがしょんぼりしてるから本当のことを言うのやめよう!


「……まぁとにかく! 私がエーシス様の説得を受け入れたのも、皆様に真実を話す決心をしたのも、全て皆様にお願いしたいことがありますの」

『お願い?』

「結社カオスティック・ギルティアのアジト……そこへ私が案内しますので――」




 ――私たちを、倒してください。

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