第28話

「……お前の結末は、一つしかない」

「そうなれればいいね」


 :煽っていくぅ!

 :はっきり言って今のジャッジ君は歪んでる

 :そうだ、お前は曇らせというものを分かっていない! そんなものはただ自分の性癖を満たすためだけの自己中行為だ!

 :↑違う、そうじゃない


「俺は手札からシチュエーションカード『クローン・ファクトリー』をシーン展開。このカードは使用しても使用済みゾーンに行かず、そのままシチュエーションゾーンにセットする」


 そしてその悍ましい設定が開示される。


「クローン・ファクトリーのシーン展開時、使用済みゾーンに置かれているキャラのクローンカードを生成し、自分ステージゾーンに登場させる……」

『あ、あれ……? 私、影に飲まれて……?』

「ぐふぅ……!」


 ジャッジ。

 MP36 → 35。


「ハプニングドロー……! 更にこのクローン・ファクトリーが場に存在している間……! 自分のオープニングフェイズごとに、使用済みゾーンに置かれているキャラクターのクローンカードがステージゾーンに現れる……!」


 :な、なんて奴だ!

 :まさか毎ターン、ミナモちゃんのクローンが勝手に生まれるってこと!?

 :ガ〇ツかな?


「これで俺は毎ターン、ハプニングドローをすることができる」

「そうまでしてキャラの尊厳を破壊したいの?」

「このデッキに存在するキャラは全て使い捨てだ……このヘルカイザー・ジャッジの欲望を満たし、勝利に貢献するためだけの駒だ」


 ――そしてそこにリスペクトなんてものはない。


「……そう」

「これで俺はターンエンドだ」

「僕のターン、ドロー!」


 僕は静かに佇む少年に向けて、口を開いた。


「……僕のデッキはTSトランステージという名前を冠するTSデッキだ」

「……」

「そのカードの特徴は交換、入れ替え、変化、変身といった多種多様でありながらそれ単体では弱いとされるカード群」

「……何が言いたい」

「単体では弱いが故に、他のカードと組み合わさることで無限に近い戦法を選ぶことができるんだ」


 使いこなすにはかなりの戦略眼が必要だろう。もっと言えば簡単に敵を倒すというのなら他のカードを使った方が早いという始末。


「それでも僕はこのデッキを使う」

「……」

「だってこれらのカードが好きだから」


 僕の言葉にヘルカイザー・ジャッジはスゥ……と目を細める。


「デッキは……デュエルに勝てればそれでいい」

「それじゃあ確かめようか」


 僕はジャンルカード『TS - トランスハプニング』をシーン展開。これによって僕は一ターンに一度、手札のカード一枚とデッキに存在するTSと名の付いたカード一枚を交換してデッキをシャッフルすることができる。


「僕は手札の『TS - 狼人間カナタ』をデッキの『TS - 施しの聖女シズカ』と交換。そしてそのままキシズカを登場させる」

「ハプニングカード『人気低迷による没』。シズカを没ゾーンに落とす」

「慎重にやった方がいいと思うよ?」

「お前には、何もさせない」

「相変わらず冷静さを失っているね」

「うるさい」


 そのハプニングカードの発動時に、僕は手札からシチュエーションカード『泡沫の夢』をシーン展開。


「開示されたカードの設定を無効にする」

「……っ!」


 これでヘルカイザー・ジャッジの手札は二枚。


「因みに、シズカの設定は自分以外のTSと名の付いたカードの設定が開示される度に僕はカードを一枚ドローすることができるよ」

「くっ!」


 僕の行動にヘルカイザー・ジャッジが睨み付けてくる。相手が手札を増やす設定を使ってくるとか、自分からすると面白くないからね。


「さて」


 僕の今の手札は一枚。

 対するヘルカイザー・ジャッジの手札は二枚。

 彼の手札は確定でハプニングカードだ。


「手札のキャラクターカード『TS - 舞い降りし御使いテンシ』の設定を開示。僕の場に属性:聖人、天、神、善人のいずれかがいる時、このカードを特殊演出させることができる」

「……クソ」


 ハプニングカードは使わないか。

 寧ろ使えないと見るべきかも。


 ドローソースを担うカードはそれだけで厄介だ。

 排除できるなら排除したいと思うのが全デュエリストが共通する気持ちだろう。

 それでもハプニングカードが二枚ある中で使えないというのなら、それらのカードは高確率でバトル中に発動するハプニングカードに違いない。


 バトルなら厄介なことになるかも。

 まぁ、バトルがあればの話だけど。


「TSカードの設定が開示されたことにより、僕はシズカの設定で1ドロー」


 手札はまた一枚になる。


「テンシは同じ場に属性:聖人、天、神、善人のいずれかのカードが存在する場合、そのキャラとクロスすることができる」

「……」


 条件指定によるクロスなのでこれもTSカードの設定開示対象内。よって僕はカードを一枚ドローすることができる。これで二枚。


「僕はシズカとテンシをクロス! シズカ・クロス・テンシ! その瞬間、クロス状態となったテンシの設定を開示!」


 デッキから任意の属性:聖人、天、神、善人いずれかのTSキャラクターカードを一枚ステージゾーンに特殊演出させることができる!


「来て『TS - 憂う勇者ツガミ』! テンシの設定が開示された瞬間、僕は1ドローをする!」


 これで手札は三枚。


「更にツガミの設定を開示! 自分の使用済みゾーンに存在するTSと名の付いたキャラクターカードが三枚以上存在する時、ツガミは覚醒する!」


 因みにこの三枚のキャラクターカードはヘルカイザー・ジャッジが使ってきたハプニングカードによってデッキの上から捨てられた三枚でもある。これもまた自業自得ということだろう。


『グ、ウ……ウオオオオオオ!!』


 憂う勇者は更なるステージへと覚醒する!


「覚醒演出! 『TS - 否定の超者ツガミ』! そしてツガミの設定が開示されたことにより、シズカの設定で僕は更に1ドローをする!!」


 手札はこれで四枚目!


「超者ツガミの設定は一つ! 君を否定するために勇者すら超える力を手に入れたツガミは君に一切の選択肢を与えない……!」


 それはつまり。

 このキャラが自分ステージゾーンに存在する限り、相手が自分のデッキからカードを手札に加える行為は全て使用済みゾーンに行くというわけだ。


「何をする気だ……!」

「言ったはずだよ。僕は今の君を否定すると」


 歪んだデッキを使って得られるのは歪んだ認識と経験のみ。それでリフェリーを、レフェ先輩のことを理解するだなんて土台無理な話なんだ。


「だから決めたんだ! このデュエルの結末はこれが相応しいと! 先ずは手札からキャラクターカード『TS - 黄泉の国のヨミ姫』の設定を開示! これによって僕はこのカードと使用済みゾーンに存在するTSキャラクターカード一枚を交換する!」


 選ぶのはこのキャラクターカード!


「『TS - ヒキ神のヒッキー』!」


 神様としては残念な格好をした引きこもりの女神様がヨミ姫と入れ替わる。ヨミ姫の設定を使ったことによって手札は更に一枚増える。


「このキャラクターカードはシチュエーションカードとしても扱い、シチュエーションゾーンにセットすることができる」

「シチュエーションカードにもなれるキャラ……」


 当然、僕はヒッキーの設定でシチュエーションゾーンにセット。


「通常シチュエーションカードと違い、このキャラは何かしらの方法を使わない限りずっとシチュエーションゾーンの一枠を占領するカード! そしてその設定はTSカードらしく、何かと引き換えにしなくちゃいけない!」


 ヒッキーの設定は単純かつ強力。

 それは――!


「――メンタルを消費し、消費した分の数値を自分ステージゾーンに存在する属性:聖人、天、神、善人のいずれかを有するTSキャラクターを対象に、そのカードの設定に書かれている数値にプラスすることができる」

「は……?」


 酷く限定的で、ハイリスクな設定だ。

 だけど嚙み合った時が一番の破壊力を持つカードでもあるんだ。


「そして僕はフラグカードを一枚立てるよ」


 ……ふぅ、と息を吐いて僕はヘルカイザー・ジャッジを見据える。相変わらず、君は俯いて僕を見ようとしない。


「……君は本当にここにいて前に進めると思うの?」

「今更何を言ってる……」

「僕と君が最後に交わせる会話だからだよ」


 :おいおい勝利宣言かぁ?

 :いやセンリちゃんのことだから……

 :マジの可能性が高いか

 :え、もう? こっわ


 煽るような言葉にヘルカイザー・ジャッジは目に見えてその表情に怒気を宿す。


「何が最後だ……!」

「歪な人を理解するには歪なデッキを使う……完全にそれを受け入れればいつかはあの人のことを理解できる……君はそう言っていたね」

「……っ」


 でもはっきり言おうか。


「――それでも分からないよ」


 僕の言葉にヘルカイザー・ジャッジは目を見開く。


「ここにいちゃあ何も分からない」

「何を根拠に……!」

「デュエルで交流すること。それが君のコミュニケーションだったはずだよ」

「そんなもので人の心が分かるかぁ! 現に俺はあの人とデュエルをしても何も分からなかった! 分かったのは最初から俺を裏切ってたことだけだった!」


 裏切られたのは絆だけじゃない。

 デュエルで交流する楽しみすらも裏切られた。


「何がデュエル、何がリスペクトだ! こんなもの、ただ強いカードを出して相手に勝利すればいいだけのゲームだ! 自分が気持ちよくなるためだけの手段なんだ!」


 :だからそのデッキだっていうのか

 :お前は真の曇らせを知らない

 :ただただ自分の性癖を満たすためにキャラを無意味に殺して悦に浸っている変態だよ!

 :↑お前ら小学生相手に何言ってんだ


「前を見てよ」

「っ!?」

「君と戦っている相手を見なよ」


 そこには誰がいる?

 そう、僕だ。

 君に語り掛けている僕だ。


「デュエルは一人じゃできない。だから二人いる。デュエルを通じて競い合い、交流し、高め合う。二人でデュエルなんだ」

「だから何が言いたいんだよ!!」

「君とあの人は、ずっと自分だけにしか目を向けてなかった」

「っ、それは」


 分かるわけがない。

 自分のためにデュエルをする人と、自分が裏切られたがために何も考えず、耳を塞いでデュエルをしてしまった君たち二人とじゃ通じ合えるわけがないんだよ。


「だから僕が言いたいことはただ一つ!」

「――っ!!?」




「こんなところにいるよりも、ちゃんと二人で話し合え馬鹿ーっ!!」




 僕はヒッキーの設定を開示!

 僕は僕のメンタルを39ポイント減らす!


 センリ。

 MP40 → 1。


 そしてこの39ポイントを付与する対象はシズカの1ドロー設定!


「この設定により、シズカの設定でドローできる枚数はちょうど40枚になる! そしてその40枚はデッキの上限枚数!」


 :おいおいまさか!?

 :まさかアレを狙うのか!?

 :これは邪悪ですね、間違いない


「俺は、俺はッ!!」

「シズカの設定が開示される前に、僕は立てたフラグカードを回収する! 回収条件はカードの設定が開示されること! よってフラグカード『反転の奇跡』を発動することができる!」


 一ターンに一度、次にお互いが開示する設定は一回だけ相手の方に反転する! ついでに言うとフラグカード回収によるメンタルダウンは3ポイントだ!


 ジャッジ。

 MP35 → 32。


「ぐっ、うぅ……!!?」


 さぁ、ここでシズカの設定が開示される。

 だけどその恩恵を受けるのは僕じゃなく、君だ。


「シズカの設定適用先が反転したことで、君はデッキからカードを40枚ドローすることができる」


 このままでも十分勝てる。

 その上で完全に否定するにはこうするしかない。ヘルカイザー・ジャッジの全てを完膚なきまでに否定するには、この方法しかないのだ。


「でも君はそれらのカードを得ることはできない」


 歪なカードは君の手に渡ることはなく、全て使用済みゾーンに置かれる。それが僕の場にある超者ツガミの設定!


「メンタルブレイクなんて生温い……その歪んだデッキごと君の歪な思いをぶち壊す!」

「や、やめろ……やめて……!!」


 デッキに手を伸ばしカードをドローをしようとするヘルカイザー・ジャッジ。だけどその前にデッキは膨れ上がり、伸ばした手に躊躇いが生じる。


 そう、君にそのデッキは相応しくない。

 君に相応しい結末はライブラリアウトデッキ切れ――。




「――マインドブレイクだ!!」

「うわあああああああああああああ!!?」




 バラバラバラバラッ!! とデッキが破裂するように無数のカードが舞い上がる。それらに手を伸ばそうとも、ヘルカイザー・ジャッジの指は一枚もデッキのカードに触れることができない。


 これが使い捨ての駒として扱ったヘルカイザーの末路。これが自らの欲望を満たそうとしてキャラを消費し続けた者の最後。


 これで――。


「――僕の勝ちだ」




『センリVSジャッジ』

『センリ WIN!』




 :これ荒療治ってレベルじゃなくない?

 :大丈夫?

 :メンタルもマインドも壊れてるよ?

 :ついでにデッキも全部あの世行きだ

 :こっわ




 ――……あっ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る