第26話

 まえがき

 前話の『ネガティブワールド』の設定がそのあとの進行に矛盾していたため、設定を加筆修正しました。


 ネガティブワールド:ジャンルカード

 一ターンに一度、手札から属性:闇落ちのキャラクターカードを一体特殊演出させる。このカードがジャンルゾーンに存在する限り、相手は自分ステージゾーンに存在する属性:闇落ちのキャラクターカードを対象とした設定の開示はできない。


 ↓


 ネガティブワールド:ジャンルカード

 一ターンに一度、手札のキャラクターカードを一枚選択し、そのキャラクターカードの属性を属性:闇落ちに変更してステージゾーンに特殊演出させる。このカードがジャンルゾーンに存在する限り、自分ステージゾーンに存在するキャラクターカードは全て属性:闇落ちになる。また相手は自分ステージゾーンに存在する属性:闇落ちのキャラクターカードを対象とした設定の開示はできない。


 ついでにリフェリーが覚醒キャラを呼び出した時の口上も追加しましたので、時間に余裕があって気も向いたらどうぞ。




 -----------------------------


 


 SIDE ジャッジ


「流石にこの前の襲撃について、俺は何も聞かされてなかったからビックリしたぜェ? お陰でアービターとの問答がアドリブ全開で苦労したなぁ!」


 あの四天王と初邂逅した時の裏側をまるで世間話のように語り掛けるリフェリーレフェ


「あの時の会話を思い返してみろよ? 詰め寄るように質問をしてる風でその実、大胆に四天王同士で普通に会話してるだけだぜあれ! 我ながら自分の役者としての才能にゾクゾクしちゃったぜ!」


 何もかもが嘘っぱち。

 思い出も、信頼も何もかもが。


 だったらもう、どうでもいいや。


「……俺は手札からジャンルカード『覇龍災宴』を展開。これにより一ターンに一度デッキからディザスターカードを手札に加えることができる」

「ようやく決心がついたんでちゅかぁ~!」

「……黙っててくれよ」


 聞きたくない。

 もうこれ以上、その声で記憶の中にある先輩を汚して欲しくない。


「デッキからシチュエーションカード『終焉を告げる咆哮ジャッジメントディザスター』を手札に加え、俺はドラゴンハンター・リョウマを通常演出で登場させる」


 ――リョウマ?

 ――良いカードを引けたじゃねぇか!


「……っ! リョウマの登場時設定により、俺はデッキからディザスタードラゴン・ツナミを手札に加える」

「良いカードを初手から引いてるねぇ!」

「その口を閉じろ……!」


 ピシリ、と何かがひび割れる音がする。


「俺はミドルフェイズに移行して先ほど加えたカードをそのままシーン展開……!」

「条件を無視して手札、デッキから直接ジャッジメントディザスター一体を登場させるカードだな!」

「来い……ジャッジメントディザスター」


 これによってジャンルカードに存在する『覇龍災宴』の設定が開示される。


「このカードがジャンルゾーンに存在し、自分ステージゾーンに『覇龍神王ジャッジメントディザスター』が登場した時、手札または使用済みゾーンに存在するディザスタードラゴンを一体、自分ステージゾーンに登場させることができる」


 呼び出すのは手札のディザスタードラゴン・テンペスト。


「更にジャッジメントディザスターの設定で俺は手札からディザスタードラゴンをもう一枚登場させることができる」


 次に呼び出すのはディザスタードラゴン・クエイク。


「ジャッジメントディザスターのもう一つの設定を開示。リョウマを没ゾーンに送り、手札からディザスタードラゴン・ツナミを特殊演出」


 ジャッジメントディザスター一体に、三体のディザスタードラゴンが俺のステージゾーンに全て揃う。


「いいねぇ……いきなり最上級キャラを四体も出しやがったかぁ!」

「テンペスト、クエイク、ツナミのディザスタードラゴン三体とジャッジメントディザスター一体が揃った時、俺はシチュエーションカードなしでそれらを対象に一つの存在へと覚醒演出させることができる」


 ――卑怯だぞジャッジ!

 ――うーん確かに強すぎるんだぜ。


「来るか、来ちゃうのか!」

「終末はここに確定した……頂点すらも価値はなく、ただ終わりのみを見る終末概念の龍『災終界カタストロフ・エンドゲーム』を覚醒演出」


 最早龍とは烏滸がましい、神聖にして無慈悲なる概念龍がステージゾーンに降臨する。これを出したのは初めて引いて、先輩に見せたあの時だけ。


 これを出せば、それで全てが終わるから。

 強いから封印された、つまらないカード。


「エンドゲームの設定を開示。このカードの覚醒演出に使われたジャッジメントディザスターを使用済みゾーンから蘇生させる」


 これによりジャンルカードの『覇龍災宴』の設定が起動する。ジャッジメントディザスターがステージゾーンに現れたので、手札または使用済みゾーンからディザスタードラゴンを一体呼び出すことができる。


「使用済みゾーンからテンペストを登場」


 そしてジャッジメントディザスターの設定により、使用済みゾーンに存在するディザスタードラゴン・クエイクを再び登場させる。


「本気だなぁジャッジ」


 そう思うのも当然だろう。

 何せ――。


「……エンドゲームの設定により自分の場に存在するディザスターと名の付く属性:ドラゴンのステータスは全て100になり、更に自身を含めたディザスターと名の付く属性:ドラゴンによって相手に最低1のメンタルダメージを与えた時――」


 ――俺はこのデュエルを強制的に勝利する。


「特殊勝利条件付きのカード……!?」

「初めて見るだろう? そう、あれが強すぎて自主的に封印したジャッジの本当の切り札! 圧倒的な物量と理不尽な力によって無慈悲に勝利だけを掴み取るリスペクトもあったもんじゃねぇ害悪!!」


 だからこそ。


「だが使っていいのかジャッジくぅん? あれだけデュエルを通じての交流を楽しんでいたお前がそんな害悪ドラゴンを使ってよぉ!」

『いやアンタが言うな!』


 だからこそ使うんだよ。


「……アンタ相手に、リスペクトを抱く価値なんてない」

「見事に嫌われたもんだねぇ!!」

「冷静になるんだジャッジ! 今のお前は冷静さを欠いてるんだぞ! 見ろよあのゴミみてぇな表情! 絶対何か企んでいる顔だぞ!」

「罠だンゴ!!」


 アン先輩とパイア先輩が何かを言っている。

 その内容は分からないけど、どうでもいい。


「無駄だよ無駄無駄ぁ! 度重なるバトルによって疲労した精神力と集中力を欠いた状態で! 俺の見事なまでの裏切りムーブは決定的にコイツの冷静な思考を奪ってやったんだぜぇ!」


 うるさい……。

 うるさい……!!


「うわああああああああ!!!」


 消えてくれ。

 いなくなってしまえ。

 もう先輩に似た顔を見せるな。


「ジャッジメントディザスターでダークライドオンハウンドに攻撃!」

「だが残念なことに! 全く! 微塵も! この無敵の智謀を持つリフェリー様に届かないんだよなぁ!!」


 迫りくるジャッジメントディザスターにダークライドオンハウンドの不気味なまでの静けさが周囲を包み込む。


「ダークライドオンハウンドの設定を開示ィ! その未来は既に破滅した! 一ターンに一度、相手キャラクター一体を破壊する!」

「――!?」

「対象はお前だジャッジメントディザスター!」

「っ、ジャッジメントディザスターの設定を開示! 自身を対象とした設定が開示された場合、その設定の対象を他のディザスタードラゴンに変更させる!」


 しかし。


「ここでダークサムライアントの設定を開示! その願い、希望を踏み躙る! 一ターンに一度、相手キャラクターカードが設定を開示した場合、その設定を無効にする!」

「なっ!?」

「消えな、ジャッジメントディザスター!」


 肩代わりの設定が無効化され、ダークライドオンハウンドの設定によりジャッジメントディザスターが破壊される。


「あ、ぁ……」


 ――これ! これを俺の切り札にするぜ!

 ――お前の引きどうなってんだよ全く……。


「ジャッジメント、ディザスターが……」

「さぁお次は? 次はどうでる!?」

「あの野郎……! 最初からエンドゲームを出す前に設定を開示して妨害することもできたってのに……!!」

「登場時に使っちゃあ面白くねぇだろうがぁ!」

「くっ……! 俺はエンドゲームでダークシンゴーストカメレオンに攻撃!!」

「駄目だジャッジ君!!」


 遠くでセンリが何かを言おうとしている。

 でも、止まらない。止められない……!


「終わらせろぉおおおお!!!」


 エンドゲームの無慈悲なる終焉がダークシンゴーストカメレオンを飲み込んでいく。これで終わりだ。これでもう、このデュエルは――!


「ダークシンゴーストカメレオンの設定開示だ」

「あ……」


 倒されたはずのダークシンゴーストカメレオンの眼光が妖しく光る。


「七大罪の一つ『傲慢プライド』の力がお前を裁く!」

「――!」

「一ターンに一度、自分より上の攻撃力を持つ相手キャラによって自身が倒された瞬間、プレイヤーに対するメンタルダメージを無効にし、攻撃してきた相手キャラクターの攻撃力分のメンタルダメージをお前に返す!!」

「……え」




 終焉が、こちらに迫る。




「ジャッジ君!!?」

「お前の敗因はただ一つ……ドラゴンなんて使わず、ドラゴンハンターの設定で慎重に対処すればなんとかなったのかも知れない」


 だけどそんなことはもう意味がない。


「まぁそんな思考力を奪ったのはこの俺だがなぁ!!」


 計画された裏切りに勝てるはずもない。


「楽しかったぜェ、お前との友情ごっこォ!!」

「先、輩――」


 何よりこんな気持ちじゃあ、勝てるわけがないのだ。




『ジャッジVSリフェリー』

『ジャッジ LOSE』


『アンティルールにより、プレイヤー名:ジャッジが持つ『覇龍神王ジャッジメントディザスター』がプレイヤー名:リフェリーへと移譲されました』




 ◇




「ジャッジ君は……?」

「駄目だ……ログインしてるようだが、アタシらのことを避けてやがる」

「なんで、なんでジャッジ君はこんな目に合わないといけないの……なんで、なんも力もないはずなのに……!」

《エーシス……》

「エーシス、何を言って……?」

「ううん、なんでもない……ちょっと用事を思い出したから」

「あっ!」

《わっちゃあもついていくデス》


 エーシスとマナナンがどこかへと行き、残るのはジャッジとレフェ……いやリフェリーを欠いた公式デュエリストとセンリだけ。




 そんな中。




「……」


 ジャッジは、ただ当てもなく歩いていた。

 周囲は既に雨が降り、空も暗い。

 現実と違って体が濡れても風邪を引かない。


 だけどその心は現実と何ら変わりなく、ただただ重かった。


「あっ……」


 水たまりによって転ぶジャッジ。

 立ち上がる気力もなく、ただただ倒れ伏すのみ。そんな彼を助け起こす人はいない。いや、人自体がここにはいない。


「――辛いか? 少年」


 例外が一人、そこにいた。


「……」

「随分ショックを受けているようだな。よっぽど裏切られたのが苦しいか?」

「……っ」


 声音からして大人の男。

 聞いた端から悪意のある声だと分かる声。


「知りたいか? どうしてリフェリーが君を裏切ったのか」

「――え?」


 悪意があるからこそ、その言葉は何よりも傷付いた心に届く。


「見てみないか? リフェリーが進んできた道を」

「あ……!」

「その力を少年にくれてやる」

「お、れは……」


 顔を見上げたと同時に雷鳴が轟き、男と思われるその人物の輪郭が浮かび上がる。結社の物と思われる漆黒のローブを身に着けたフードの男が、ジャッジに手を伸ばしていた。


「この手を掴め少年」

「――……」


 その言葉を前に傷付いた少年は――。


「――良いだろう。約束通り力をくれてやる。そして解放しろ! 己の内に眠る本当の自分を!!」


 今この瞬間、絶望に沈んでいた少年は消えた。

 これから生まれるのは闇夜に沈む一人の修羅。


「記念すべき日だ」


 記念すべき誕生の日。

 ならば新しく名前を付ける必要がある。


 そう。


「今からお前の名は――」




 ――ヘルカイザー・ジャッジだ!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る