第25話
「なに、なにが……」
ボーッとする思考をなんとか動かして周囲を見る。
俺たちを囲むデュエルフィールドの外にはあれだけ俺たちを襲っていた構成員がニヤニヤとした顔を浮かべてこっちを見ていた。
「レフェ、先輩……?」
「クックック……おいおいどうしたぁ? そんな不安そうな顔をしてよ」
デュエルフィールドの対戦相手側に立つ先輩は、これまで見たことのない笑みを見せていた。無性に心をざわつかせる眼差しを見せるその姿は、俺の知る先輩の姿じゃないような気がした。
「いや……そうだぜ……」
この場を説明できるとある考えが思い浮かんだ。というよりもそれしかないと感じる。俺は縋るようにレフェ先輩の顔を見て、口を開いた。
「時間稼ぎのために、デュエルを申請したんだぜ?」
「……」
デュエル中は他の人がこちらのデュエルフィールドに入ることはできない。現に俺たちを襲った結社の構成員もこのデュエルフィールドに入ることができないでいる。俺たちがデュエルを終わらせるまで、彼らによる襲撃は止まる。
「このまま時間を引き延ばせばセンリたちが助けに――」
「ちげーよ」
「――え?」
「正真正銘、お前を倒すためにデュエルを申し込んだんだ」
――意味が分からない。
「俺を倒す……? なんで、どうしてなんだぜ? だって俺たちは仲間――」
「先ずその前提から違うんだ」
その言葉を理解する前に、レフェ先輩がストレージからとある物を取り出す。これまで結社の幹部たちが着ていた、よく見知ったローブがレフェ先輩の肩に羽織られていく。
「さぁ自己紹介しようか」
「……違う、違うんだぜ」
まさか。
そんなはずはない。
だって一年以上一緒にいて、一緒に公式デュエリストとして活動して、一緒に結社と戦ってきたはずなんだ。
それでも。
「我が結社カオスティック・ギルティアの四天王が一人――」
無情にも、信じがたい言葉が尊敬する先輩の口から出てくる。
結社のローブを羽織った先輩の姿はまるで別人のようで、事実羽織った瞬間レフェ先輩の名前が見えなくなる。
「――リフェリーだ」
それが事実であると、彼は口角を上げた。
「嘘だぜ」
「事実だ」
「そんなの信じないぜ」
「お前の気持ちなんて関係ない」
バサリ、とローブをはためかせトドメを刺すように告げる。
「これが本当の俺なんだよ」
『ぎゃああああ!!?』
『!』
その時、デュエルフィールド外にいる構成員たちが蹴散らされ、見知った顔の人たちが疲れた表情を浮かべながらやってきた。
「ジャッジ君!! レフェさん!!」
「っ! センリ、みんな……!」
「なんだこのデュエルフィールド……! おい、てめぇレフェ!! お前いったい何やってんだ!?」
「それにそのローブって……!?」
みんなが俺たちの様子を見て、困惑の表情を浮かべる。そう、そうだぜみんな。先輩ったら急に意味分かんないことを言って――。
「何って、我が結社の障害となる戦力を削ぎに来たんだが」
『なっ!?』
「アンティルールだ、ジャッジ」
「アンティ……?」
「このデュエル、俺が勝てばお前の持っている『覇龍神王ジャッジメントディザスター』のカードを貰う」
――……え。
「アンティって、カードを賭けたデュエルンゴ!? そんなルール、このゲームの仕様にないンゴ!!」
「それがあるのさパイア。いや、正確には追加されたってのが正しいか」
「何を言ってるのレフェさん!」
エーシスの当然の言葉に、一人考え込んでいたセンリがレフェ先輩の代わりに答える。
「……サバイバル・デュエルと同じ、署名カードが集まったことで追加された新ルールっていうこと?」
「センリさんは賢いなぁ!」
「そのルールを事前に知っているということやっぱり……レフェさんは結社の――」
「――四天王の一人さ」
違う、違う……!
先輩はそんな顔をする人じゃない……!
「なんだジャッジ? まだ俺のことを信じないか?」
「信じられるわけがないんだぜ!!」
「はっ! それでもデュエルは無情にも進む!」
「っ!?」
その時、周囲にいつも聞いたアナウンスが鳴る。
『ランダムで先攻後攻を決めます』
『レ フ E”#$%& … …――リフェリーが先攻になりました』
ターンが、進行する。
「俺のターン! 自身のジャンルゾーンにジャンルカードが存在しない場合、俺は手札からキャラクターカード『反転の裁定者ダークディサイド』を特殊演出させる! その瞬間ダークディサイドの設定により俺は手札、デッキからジャンルカード『ネガティブワールド』を一枚、ジャンルゾーンにセットすることができる!」
ノイズだらけ漆黒の影が、世界をネガの光景へと浸食させていく。
「ジャンルカード『ネガティブワールド』の設定は三つ! 一つ、一ターンに一度手札に存在するキャラクターカードを一枚指定して、属性:闇落ちに変更し、特殊演出させることができる!」
……二つ、このジャンルカードが場に存在する限り、自分ステージゾーンのキャラは全て属性:闇落ちになる。
「そして三つゥ! 同じくこのカードが場に存在する限り、お前は俺の属性:闇落ちを持つキャラを対象に設定を開示することができなくなる! これがネガティブワールドの力だぁ!」
知らない。
「……っ」
レフェ先輩がそんなカードを持っていることも、そんなカードを使うなんてもことも知らない。
「ネガティブワールドの設定により俺は手札のキャラクターカード『幽世の勇者ゴーストカメレオン』を属性:闇落ちに変更させ、特殊演出させる!」
あのカードは先輩が好むヒーローアニマルデッキのカード。先輩の面影が見えるカードに心が苦しくなる。
「ゴーストカメレオンの設定は一ターンに一度手札、デッキからクロス可能なキャラクターカードを一枚直接ゴーストカメレオンにクロスさせることができる!」
そうしてデッキから一枚、キャラクターカード『閃きの調停犬ドライブハウンド』がゴーストカメレオンへとクロスした。
「更に俺は手札から『果実の武者サムライアント』を通常演出で登場させる! 登場時にサムライアントの設定を開示! 自分ステージゾーンのキャラを一体使用済みゾーンに置くことで自身のステータスを倍にする!」
サムライアントの攻撃、耐久共に10になる。
「使用済みゾーンに置かれたゴーストカメレオンの設定により自分と、自身とクロスしたキャラクターカードをそれぞれステージゾーンへと蘇生する!」
これにより、ゴーストカメレオンとドライブハウンドがそれぞれステージゾーンへと復活した……!
「使用済みゾーンから復活したドライブハウンドの設定を開示。シチュエーションカードなしで自身を覚醒演出させることができる! だがここで属性:闇落ち状態による覚醒演出は一味違う!」
ドライブハウンドが漆黒に染まり、その姿を変容させる。
「滅んだ未来から出でよ! 『破滅からの来訪犬ダークドライブハウンド』!」
「おいおい! ドライブハウンドの覚醒先は『シフトライドオンハウンド』のはずだぞ!」
アン先輩の言う通り通常の覚醒先と全然違う。
こんなカード、レフェ先輩のものじゃ……!
「本当の俺とは違うんだよ! 俺はダークディサイドの設定を開示! 条件は自身と属性:闇落ちのキャラ一体! それらを選択して覚醒演出をすることができる!」
選択されたのはサムライアント。
「願いを踏み躙り、邪悪に染まれ! 『禍実の悪大将ダークサムライアント』!」
「覚醒キャラが二体目……!?」
「続けてゴーストカメレオンを対象に手札からシチュエーションカード『シャドウアウェイクン』をシーン展開! 属性:闇落ちのキャラ一体を覚醒演出する!」
ゴーストカメレオンが内側から闇に染まっていき、勇者としての姿が跡形もなく消えていく。
「生まれながらに死した罪の子! 『七大罪の亡霊ダークシンゴーストカメレオン』!」
「覚醒キャラが……」
「一気に三体も!?」
覚醒キャラはそれだけで強力。それなのにネガティブワールドのせいで、それらに無効化能力も付与されている始末……!
「俺はこれでターンエンドだ」
「っ!」
「どうした? お前のターンだぞ?」
「お、俺は……!」
「まだこの期に及んで受け止めきれねぇのかぁ?」
――っ。
「それはそうだろっ! 俺の知ってるレフェ先輩はそんな顔をしない! レフェ先輩はそんなカードを使わない! 俺の知ってるレフェ先輩は――!!」
――いや、そうだぜ……。
目の前にいるのは偽物だったら、辻褄が合う。
「そうだ、お前は偽物だ……誰かが先輩のアバターに似せたか、もしくは誰かが勝手に先輩のアバターを使っているに違いないんだぜ!!」
「鈍いなぁ、俺がその先輩だよ!」
「違う、違うんだぜ!!」
認めたら、認めたら全部が壊れる。俺を混沌王の道へ誘ったあの顔も、思い出も全部なかったことになる……っ!
「まぁだ分からないのかよぉ! お前と一緒に雑魚共を蹴散らしてたのも! お前が疲労したタイミングでデュエルを仕掛けたのも! 全部俺が計画した作戦だよ!!」
「……違う」
「本物の俺は結社の四天王! お前の先輩、レフェに化けてたってわけだ!」
記憶の中にある何かが崩れる音がする。
『制限時間までドロー行為をしなかったため、自動的にドローをします』
手札に加えられるカードを見る気力もなく、ただただ愉快そうに笑う誰かを呆然と見る。
「今明かされる衝撃の真実ゥ!」
あぁ……。
「お前が尊敬する先輩は、密かに世界を変革しようとする超絶やり手の四天王が一人! 理想の社会実現のために頑張る社会派お兄さんってわけだぁ!」
もう、なにも考えたくない。
「……分かってたはずだ先輩」
自分の心を閉じ込めて、周囲の期待を応えてきた退屈な日々が脳裏に過る。
結社の目指す社会は、よりにもよって俺を退屈な日々から連れ出してくれた混沌王を使って、今の世界をかつての灰色の世界へと染め上げるものだ。
「それが分かってて、それでも目指すのかよ」
他でもない先輩が、退屈な日々から俺を救ってくれたというのに。
「俺を、またあの世界に連れ戻すのか」
「言っただろう?」
狂気的な笑みを浮かべたリフェリーが静かに呟く。俺を見ているようで見ていない目を向けながら、たった一言を言い放つ。
「お前の気持ちなんて関係ないってな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます