第24話

 SIDE ジャッジ


 今から約一年前。


「――えぇ、○○君の成績は非常に良いです」

「――いえいえ、これも先生の教えの賜物ですよ」


 親と先生の面談を隣でニコニコと口角を上げて話を聞く。時折向けられる自慢気な表情に、僕は耳障りの良い言葉を返す。


 これも全てみんなのお陰だと――。


「……」


 退屈。退屈。退屈。

 先に帰った親と別れて、一人で周囲を散策する。普段からいい子にしているお陰か、一人で散策しても親は何も言わない。

 最寄りの駅、最寄りのコンビニ、最寄りの公園へと歩いていく。お金もあるから買い食いもできそう。普段から模範的な優等生を演じているから、こういう僅かに行動をしても誰も咎めない。


 寧ろそれがより人間味とかあって好感が持てるというのだから、僕が築き上げてきた優等生の姿は恐ろしい。


「……はぁ」


 でもこの代り映えのしない日常が続くとなるとため息もつきたくなる。こんなにも親の言う通りにしてきた。大人たちの期待に応え、生活してきた。


「おーい! 一緒に遊ぼうぜー!」

「っ!」


 同級生の声が聞こえてくる。


(一緒に、遊ぶ……?)


 もしかして僕のことを誘っているのだろうか。何回も進級して、どの誘いも断ってきたというのに、それでも一緒に遊ぼうと誘ってくれる……?


「……っ」


 僅かな期待が心の中に芽生え、足が止まる。返事をするか、しないか僅かに逡巡する。そして顔を上げようと決心すると――。


「あそぶからちょっと待ってー!」


 僕の後方から別の同級生の声が出てきて、直前まで取ろうとしてた行動を止めた。


「……はは」


 まぁそれもそうだなと、僕は思った。今更こんな詰まらない優等生を誘うなんて誰もいないのは当然のこと。


(――でも)


 それでも期待してしまうのはしょうがないじゃないか。僕だって遊びたい。誰かと遊びたい。でも、何でもできてしまう自分は大人の期待に応えなくちゃいけない。


 でもこんな退屈な毎日を送りたくはない。


「――僕は、いったい」

「おいおいなんだい少年? そんなところで腐てくれてて、幸せが逃げていくぜ?」

「……え?」


 そんな時、見知らぬお兄さんが僕に声をかけてくれた。知らない人に声をかけられたら警戒することは当然だ。

 でも今の僕にはお兄さんを警戒する気力はなくて……だからだろうか、僕は僕の思いをお兄さんに吐露してしまったのは。


「ふぅん……つまり退屈で死にそうになってると」

「……う、うん」


 いや、僕はなんでこんな胡散臭い人にこんな話をしてるんだろう。

 そう、今更ながらに後悔をしてるとその謎のお兄さんは笑みを浮かべてこう言った。


「よし、じゃあこの親切なお兄さんが君の遊び相手になるぜ!」

「え……」

「いやそんな不審者を見る目のレベルを上げなくても……まぁ分かるけども」


 コホン、と微妙なを誤魔化ように咳をした謎のお兄さんは、改めて僕と向き合う。


 そして。


「少年、混沌王って知ってるか?」


 これが僕と……いや俺とレフェ先輩の出会い。そして家にもあるVRリンクで気軽に遊べるカードゲームとの出会いでもあるんだぜ。




 ◇




「しっかし随分と成長したなぁ」

「そうなんだぜ?」

「大きくなったのもそうだけど、短期間で有名になりやがって……しかも昔と違って大分も変わってよ」

「これも全部レフェ先輩のお陰だぜ!」


 本当にレフェ先輩には何もかもお世話になったんだぜ。親に対する弁明の内容や、公式デュエリストになる時もそう。

 レフェ先輩がいたからこそ、俺は今や退屈せずに楽しく過ごせているんだぜ。


「まぁジャッジが楽しければいいさ……それはそうとあそこのブースとか楽しそうじゃないか!?」

「キャラクターカードの触れ合いブースって書いてあるんだぜ?」


 見ればデュエル中でしか見られなかったキャラのモデルがちゃんとゲームの中に存在してるんだぜ!


「この前のサバイバル・デュエルを思い出すが、運営は運営でちゃんと実体化技術を作ってたんだなぁ……感心するぜ」

「マジカルレッドが実際にいるんだぜ!」


 センリのコスプレとは違う本物のマジカルレッドだぜ! ……いやでも、どうして実体化したマジカルレッドが目の前にいるのに、頭の中はマジカルレッド姿のセンリを思い出すんだぜ……?


「お、おいどうした?」

「いや……なんでもないぜ……」

「そうか? あっじゃあ気分転換にカード実体化の体験コーナーをやろうぜ!」

「お、おうだぜ!」


 ここの体験コーナーは自分が所持してるカードを実体化させる機能の体験コーナーなんだぜ。この機能が実装されれば、サバイバル・デュエルを介在しなくてもちゃんとカードを実体化できて、乗り物代わりにもなれるという話だぜ!


「広いぜ……!」

「まぁ中には巨大なキャラとかいるからなぁ……」


 案内されたのは会場の外にある広大なフィールド空間だぜ。ここならジャッジメントディザスターを何体並べても問題ないんだぜ!


「あっ、当然だけどちゃんとジョブを決闘者に変更しろよ?」

「分かったぜ!」




 ◇SIDE センリ




「え? 体験会は調整中のため体験中止中?」

「ありゃりゃー残念だねお兄ちゃん……」

「うーん……アンさんたちがおすすめしてた発表とか体験会とか楽しみにしてたんだけどなぁ」




 ◇SIDE ジャッジ




「めっちゃ楽しいぜ!」

「おい見ろよジャッジ! 普通のステージゾーンの枠じゃ無理だったキャラの一斉覚醒だぞ!」

「覚醒演出の音がうるさいんだぜ!」


 レフェ先輩のデッキは特撮ヒーローをモチーフにした動物デッキだから、元ネタに因んだ覚醒演出はかなりの騒音だぜ!


「元ネタ愛に溢れた覚醒演出だろぉ!?」

「まぁそこは否定しないぜ」


 しかし実際のデュエル中でもシチュエーションやら何やらの設定でキャラたちを好き勝手にできたけど、この実体化システムはデュエルなしでもじっくり好き勝手できるのはいいんだぜ……!


「ジャッジ? なんか昏い目をしてない?」

「なんのことだぜ?」


 ということでちょっとタマリを呼び出して、そこからジャッジメントディザスターの特殊演出を見ても――。




 ――その瞬間。




「危ない!?」

「――!?」


 背後から押し倒されて、俺たちは地面に倒れるぜ。そして俺たちがいた位置に巨大な光線が通過して後方で爆発が起きたんだぜ。


 いったい何が起きたんだぜ!?


「ッ、イチチ……」

「レ、レフェ先輩!?」

「あぁいや大丈夫だ……だけど」


 起き上がって周囲を見るぜ。

 するとそこにいたのは。


「……あいつら」

「結社の構成員だぜ……!?」


 ふんいきからしてこの前俺たちを襲ったサバイバル・デュエルの不良アバターと同じ空気を醸し出してるんだぜ……!

 こんな実体化ブースで堂々とサバイバル・デュエルを仕掛けるとは卑怯な奴らだぜ!


「俺は増援を呼ぶから、コイツらの牽制を頼む!」

「分かったぜ!」


 ――うおおおお!!


 複数の構成員が大量のキャラクターカードを登場させて襲い掛かってくるぜ。でも見た限りは通常キャラばかり。


「安易に勝負に挑んだこと……後悔するんだぜ!!」


 ディザスタードラゴンの力を見せてやるぜ!




 ◇




「はぁ……はぁ……!」


 いったいどれぐらいの時間が経ったんだぜ……? 数時間は経ってる気がするんだぜ。どいつもこいつもキャラは弱いけど、数だけは多いんだぜ。


 俺の敵ではないんだけど、それでもいちいち雑魚に意識が行かれて心が休まる隙がないんだぜ!


「おい大丈夫かジャッジ!」

「はぁ、はぁ……ちょっとキツイぜ……!」

「行け! エクストリームバード!」

『ぎゃあああ!?』


 レフェ先輩の命令で三色の大鷹が彼らを蹴散らしていくぜ……!


「増援が来るまであと少しだ!」

「くっ……!」


 これは覚悟するしかないんだぜ……? 確かに負ければ署名カードを取られるけど、それでも負けてもその場で倒れるだけ……。


「大丈夫か?」

「精神的疲労がヤバいんだぜ……」


 集中力は完全にないんだぜ。このまま無駄に消耗させてくるなら……俺は……。


「……そうだな、もう潮時なのかもしれん」

「すまないんだぜレフェ先輩……」


 迫り来る結社の構成員に俺たちは覚悟を決めるぜ。すまねぇレフェ先輩……すまねぇみんな……!




「すまねぇな、ジャッジ」

「――え?」




『混沌王の対戦を申し込まれました』

『限定ルール:デュエリストのさがによって強制的に対戦を承諾します』


 見知ったアナウンスが鳴り、デュエルフィールドが形成されていく。


「……レフェ、先輩?」


 いつの間にか対面にいるレフェ先輩に集中力を欠いた俺には理解が追いつかないでいる。


 どうして先輩がそこに?

 どうして俺と先輩がデュエルを?


「……クックック! ハーハッハッハッハ!」


 まるで別人のように笑う先輩に、俺はただ呆然と見た。

 

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