第23話
ド変態四天王が揃っているところに留まると悍ましいド変態力場に巻き込まれて一生抜き出せなくなる恐怖から、僕はエーシスを連れて逃げ出した。
「僕もうショップブースに行きたくない……」
「お兄ちゃんの一人や二人が危ないところだった」
:センリちゃんが二人いるなら一人ぐらい連れ出しても……バレへんか
:↑おまわりさんこいつです
:センリちゃんからのお仕置きが二倍になるぞ
:倍のご褒美……!?
:50000¥/ 投げ銭したら貰えますか……?
:投げ銭して貰えるならいくらでも貢ぐぞ!
どうしてこんなに思考が駄目になるまで放置したんだ……誰かここに病院を建ててくれ。重症患者がショップと視聴者側にいるよ。
「でもお兄ちゃんのカード欲しかったなぁ」
「エーシスまで……」
「身内のカード化とかいう滅多にない経験だよ!」
「よく考えて? 身内のグッズ化だよ?」
そんな僕の疑問にエーシスはキョトンとして。
「だってお兄ちゃん、身内から出た有名人だし」
「えぇ……?」
:あーね
:そりゃあ身内に世界的アイドルがいるとか自慢したいよな
:今やセンリちゃんほど世界的に、しかも好意的に有名な人物っていないしな
「いやアイドルって」
「言い得てミャーオ」
「妙ね」
「そうとも言う!」
そうしてエーシスや視聴者にからかわれるといういつものやり取りをしながら歩いていると、僕らに話しかける人がいた。
「あっ二人ともー。コスプレの撮影会終わったんだねー」
「お疲れンゴ……」
会場をパトロールしているアンさんとパイアさんの二人だ。
「あ、お疲れ様です」
「お疲れ様でーす!」
「そっちもお疲れさまだねー」
「撮りたかったンゴ……」
この二週間ですっかり猫被り路線に戻ったアンさんと、撮影会を楽しみにしていたらしいパイアさんにはははと苦笑いを浮かべる。
:あっ姉御じゃないっすか!
:ちっすちっす!
:あっ今偽装中っすか!
「……(ピキッ)」
「姉御……? どうしたンゴ?」
「ううん……今不快な波動を察しただけだからねー……?」
あーあ。視聴者の人終わったな。
あれから確かに姉御もといアンさんはまた猫を被り始めたけど、一回馬脚もとい正体を露わにして以来、内なる総長が表に出やすくなったのだ。
だからなのか分からないけど、視聴者はそういった姉御の反応を楽しんで敢えて煽るという鬼をも恐れない言葉を投げかける始末だ。
「――センリちゃん?」
「――っ! あ、はい! なんでしょう!?」
「ううん? ただ呼んだだけ、だけどー?」
その割に圧が強い……。
なんで……?
心の中でもちゃんと言葉を選んできたのに……。
噴き出した汗が額を伝う中、僕はパイアさんの溜め息を吐く瞬間を見かける。
背景で何故かエーシスにアイアンクローをかますアンさんを極力見ずに、パイアさんにその溜め息の理由を尋ねた。
「アンさんギブギブ!!」
「んー?」
:多分妹ちゃんも生意気なこと考えてたんやな
:あれが俺らの末路だ
:でも煽りがやめられない止められない
「パ、パイアさんはどうしたんですか?」
「ンゴ……折角の日なのでカメラを用意してたンゴ」
そう言って、パイアさんはストレージから高性能っぽい雰囲気を見せる一眼レフカメラを見せてくる。
いや、そのカメラの用途って……。
「センリたちのコスプレ……本当に撮りたかったンゴ」
「そんなに未練を残すほど……?」
「今からでも遅くないのでは……? コスプレ、撮りたいンゴ」
そう言った瞬間、アンさんの拘束から抜け出したエーシスが下から飛び出してきた。
「いいよー!」
「駄目だよ?」
さっきの撮影会だってみんなの熱量が高くて交代の人が来るまで休みなしでギリギリまで撮影をしていたんだよ?
今この場でコスプレするとまた人だかりができて、身動きができなくなるよ。
「残念ンゴ……」
「ファッションショーは別に嫌いじゃないんだけどなぁ……」
「でも下手すれば反省部屋がパンパンになるねー。折角私たちはジャッジメント行為をあんまりしてないというのにねー」
まぁそれで仕事を増やしたら申し訳ないね……。
「ところでセンリちゃんたちはこの会場をどこまで見たー?」
「えーと……つい休憩時間に入ったばかりだから、今のところショップブースだけかなぁ」
「なるほどねー……それじゃあ私おすすめのブースを紹介するねー!」
『おすすめのブース?』
そう首を傾げる僕らに、アンさんがとあるブースの方向へと指を差す。
「実は向こうで混沌王のこれからのロードマップとか発表されているんだよねー」
「ロードマップかぁ」
つまり混沌王がこれから行う計画のプレゼンとかをやっているのだろう。平たく言えばゲーム最新情報というゲーマーが一番好きなアレである。
こんばこというゲームの中で別ゲームの最新情報の発表とか、ある意味意味不明な光景だと思うけど。
「興味があれば見に行った方がいいと思うねー」
「へぇ……ありがとうございますアンさん」
「ンゴ……何せ一番の目玉はリアル――」
ゲシッ。
「ゴフンゴ……!?」
「ネタバレは駄目だねー……?」
「ついに実力行使まで出てきたンゴ……!」
「あぁん?」
出てる出てる。
内なる総長出てるよ。
「え、えーと……それじゃあ行ってきます!」
「失礼しまーす……!」
「あっ、レフェがどこ行ったか分かるー?」
『レフェさん?』
アンさんの言葉に僕とエーシスは首を傾げる。レフェさんなら事前のブリーフィングで別の場所でパトロールをしていると思うけど。
「あぁいや、ねー……」
「レフェさんがどうしたんですか?」
「……実は私たち結構広範囲に会場を見てきたけど、一度もレフェとすれ違ったりとかなかったんだよねー」
「それって偶然じゃないのー?」
会場は結構広い。
何せかなり広いデミアヴァロンの半分程度の広さだ。店舗設営によるブースは勿論、フィールドを使ったアウトドアスポットも用意されているんだ。だからこの会場ですれ違うのも無理な話じゃないと思うんだけど。
「それにレフェさんって運営とスケジュール調整とか諸々の調整をやってたんだよね? フェスが開催されるまでの間、結構忙しそうにしてたし」
エーシスの至極当然の推測。
だけどそれでもなお、アンさんの表情は優れない。
「いやぁただのすれ違いならいいんだけどねー……」
「なにか懸念点が?」
「……結社のことだよ」
不意に、真面目な表情を浮かべたアンさんに、周囲の空気がピリッと緊張感が増したような気がした。
「フェスの準備期間中、あれだけ連日連夜行われてきた結社狩りの報告や結社による被害報告がバッタリと途絶えたんだ」
「……」
「その期間中はアタシらも暇じゃなかった……署名カードを集める絶好の機会だったはずなんだ。それなのにアタシは一度も結社に関する報告を聞いてねぇ」
それは、僕たちもそうだ。
僕たちも、彼らが起こす騒動を耳にしていない。そもそも狙いは僕のはずなのに、僕に対するなんらアクションもないのは不自然を通り越して不気味。
「そして何もないままフェスが始まったってわけだ。アタシは妙にそこが気味悪くてな……だからそのことをレフェに相談したかったんだが……」
「でも見当たらなかった……」
「狙いはセンリだが、他の奴らまでがターゲットにならないとは限らねぇ。だからせめてレフェの安否を確認したかったんだ」
「フレンド通話は?」
エーシスの提案にアンさんは首を振る。
「出やがらねぇ。ゲームの仕様上、ログアウトしてなければ一部のコンテンツを除いて普通に連絡が取れるはずだ」
つまり何らかの理由で通話をスルーしていると?
「最悪の可能性としては……いや」
途中まで出かけた言葉をキャンセルしたアンさんはコホンと咳をすると、総長モードから猫被りモードへと口調を変える。
「まぁ私の勘違いの可能性もあるし、そこまで深刻に考えなくてもいいと思うんだけどねー?」
「……それでも、一先ずレフェさんの安否を確認しながら会場を見て回るよ」
「うん、お願いねー」
そう言って、僕たちはアンさんたちから離れたのだった。
◇SIDE ジャッジ
「こ、これはキツイぜ……!」
コスプレ撮影会でコスプレイヤーが最後の人と交代した瞬間、かつてないほどの熱狂が生まれたんだぜ。
というのも。
「な、なんだあの色気は……!?」
「あれが本当に天然物のアバターと言うの!?」
「本当に加工なし……なのか……!?」
最後に来たコスプレイヤーがとんでもなかったんだぜ。下手すればセンリと同等、いやそれ以上の『何か』を放つその人に誰もが目を釘付けにするんだぜ。
それでも俺はセンリから目を逸らすことができた。でもその人が出てきた瞬間、目を逸らすどころか、まるでブラックホールに吸い込まれるように自然と不自然が併せ持った『何か』に目が吸い込まれるんだぜ。
「あっ」
「――!?」
その人が俺と目が合ったんだぜ……!?
い、いや、これは勘違いという可能性も――。
「確か君はジャッジ君と言ったかな」
「っ!? え、あ、あの……!?」
え、男の声……!?
あろうことか俺に近付いて声をかけてくれたその人の第一声に俺は頭の中がバグってしまうぜ……。
え、でも、だってアバターとかコスプレは女性みたいで……?
でも、声は心地良い低音ボイスで妙に色気があって……でも外見はリアルのままって話で……あれぇ……?
「は、はい……お、俺がジャッジ……です、ぜ?」
「ははは、緊張しなくていいさ」
ドキンッ、とその人の笑顔を見た瞬間何故か胸が苦しくなったぜ……!?
「君には子供たちがお世話になったようだ」
『っ!?』
え、今なんて!?
「妻からの頼みということもあるんだが、それでも子供たちが世話になった分お礼をしたくてやってきたんだ」
『っ!?』
いや、その……やめるんだぜ!
情報の洪水をワッと浴びせに来るのは!
「子供……って?」
「あぁそうか、自己紹介が遅れたな」
そう言って、その人は俺の頭を撫でながら誰もが見惚れるほどの笑みを浮かべて――。
「センリの父親のエーファだ。今後も子供たちと仲良くしてやってくれ」
◇
ようやくパトロールの交代の人がやってきて、俺はスタッフルームでいるぜ。でも俺はどうやってここに来たか覚えていないんだぜ。
「……」
え……父、親……?
センリの、親父さん……?
なんだろう、胸が苦しいんだぜ……。
それにエーファという人の表情が頭の中にずっといて、全然頭の中から離れないんだぜ……俺はいったいどうしてしまったんだぜ……?
「あー……あー……?」
「いやどうしたんだよ、そんな脳が溶けたみたいな声を出して……」
「あー……? レフェ、先輩……?」
「いやマジでどうした?」
――……お、おう、レフェ先輩の顔を見てなんか意識が戻ったんだぜ。
「すまん先輩……ちょっと目の前に扉が見えてて」
「デュエル馬鹿が何を言ってるんだ……?」
「いや、なんでもないんだぜ……レフェ先輩も休憩なんだぜ?」
「そんなもんだ……ところでジャッジ」
「なんだぜ?」
「折角だから俺と一緒に会場を見て回ろうぜ」
その言葉をレフェ先輩から聞いた俺は目を丸くさせるぜ。ここ数日フェスの準備について忙しそうにしてたレフェ先輩がこういうことを言うんだぜ。混乱しない方がおかしいというもんだぜ。
まぁ、でも。
「分かったぜ!」
レフェ先輩との久しぶりの散策だぜ!
そう快諾するとレフェ先輩が嬉しそうに笑みを浮かべる。
「――よし、それじゃあ行こうか!」
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