第22話
四天王アービターによるサバイバル・デュエルを使った襲撃から二週間後。
あれから結社の構成員による被害は完全に止まり、僕たちはその嵐の前の静けさに不気味さを感じながらお祭りの準備をしていた。
――そして今日。
混沌王公式コスプレPR企画と銘打たれたカードゲームフェスが始まる。
世間ではカオスティック・ギルティアに対する関心や不安はあるけど、そんな彼らの不安を払拭するための催しだ。
「……(げっそり)」
そんな中、フェスのコラボゲストとして指名された僕はというと非常に憂鬱な気分になっている。何せ初の案件はまだいいとして、僕がコスプレする前提でこの企画が組まれたというのがいけない。
そのせいで開催当日まで色んなコスプレの衣装併せやら何やらで精神的苦痛もとい疲労が蓄積されていったのだ。
その上――。
「まさかお母さんが企画側と組んだなんて……!」
そう、何を血迷ったのか僕のお母さんが運営側に連絡を入れて僕たちのコスプレや演出の監修を申し出たのだ。
そしてあろうことか運営側はお母さんの申し出を快諾。それによって僕たちは水を得た魚のように笑みを浮かべる魔女にここ数日間弄ばれたのだ。
「シヌゥ……!!」
はいここで答え合わせ。
そう、僕たちである。
僕の隣で死にそうな声を出しているエーシスまでもが魔女の毒牙にかかったのだ。正直に言ってざまぁである。
:おぉ……我らが偉大なる母よ……
:姉妹同時起用とか天才か?
:天才プロデューサーや
:準備期間中配信なかったけど、たまに上がってくる進捗の写真で話題になったよな
お母さん直々のプロデュースのせいなのか、妹のSNS大臣の座までもがお母さんに奪われ、登録者数うなぎ上り、連日連夜僕たちのチャンネル関連でトレンドトップを飾るほど。
なんだその手腕は。
化け物かな?
「娘たちを有効活用することにおいて私の右に出るものはいない」
『お母さん……』
正気を疑う発言をしながら、サングラスをかけたシスターがやってくる。
これがゲーム内のお母さんのアバター。
脳波スキャンシステムを応用し、高めた信仰力ゲージを攻撃へと変換するジョブ:デモンクレリックの『ジーマ』だ。
因みにジーマの由来は『G・マザー』である。
エーシスと同レベルのセンスだ。
「本番だよアンタたち!」
『嫌だぁ……』
「全くもうプロ意識が足らないんじゃないの?」
『自称プロがなんか言ってる……』
:シンクロしてて草
:やはりそこは兄妹もとい姉妹
:何故言い直した、言え!
「あ、そこにいるのはジーマさんじゃないですか!」
「あっ演出部の人の!」
「いやぁあの敏腕プロデューサーとここでお会いできるなんて! 実はここの演出について相談したいことが――」
「えぇ、いいわよ!」
そう言ってお母さんは男の人と一緒にフェスの舞台会場へと歩いて行った。
『なにあれ……』
僕、お母さんの才能に恐怖を感じるよ……。
僕がこのゲームでエクストラリワードを見つける前は単なる変態主婦なのに、ここ数日で化け物主婦に開花してて戦慄を禁じ得ない……。
「エクストラリワードを手に入れて何でもできる余裕を持てたからね……多分お母さんは今、昔から秘めていた情熱を解放してるんだよ……」
「でもそれに巻き込まれるのは僕らだよ……」
「それはそう」
基本的にいつもは僕をターゲットにしているんだけど、エーシスも対象になることもある。でも僕と違ってエーシスはコスプレや着せ替え人形扱いに関しては平気だ。エーシス自身ファッションが趣味の一つでもあるからね。
「でもねぇ……」
それでもお母さんの暴走で辟易してるのが、シチュエーションによる演技だ。
僕と違って演技派じゃないエーシスはお母さんに強制されるここの部分が非常に苦手で、毎回僕が浮かべる死んだ人の表情をする。
「お兄ちゃんとのコスプレ衣装の併せとか考えると鬱になるよ……」
「いや鬱って……」
:あぁ……美少女過ぎる兄と併せをすると比較されるからか
:ドスレートパンチはやめるんだ!
:あっ、姉妹セットのASMRは最高だったよ!
:あの小悪魔生徒と先生のASMRね!
「……」
「エーシスの目に光が消えた……」
見たか、これが常日頃から思っている僕の気持ちだ。ざまぁみろ!
《二人とも見つけたデス》
「あ、マナナン……」
《なんか生気がないデス?》
「因果応報なんだよマナナン……ところでもう時間なの?」
《そうデス。なのでわっちゃあが二人を呼びに来たのデス》
えへんと胸を張るマナナンに僕たちは心から癒しを感じる。まぁマナナンもお母さんによって舞台に上がらされるけども。
コスプレ自体は衣装のクイックチェンジですぐに着替えられるから、わざわざ更衣室に行かなくてもいい。だからこれから行くのはデミアヴァロンの外周でやっているフェスの会場のスタッフルーム。
遠くから、男の人の声が空間を伝って鳴り響く。
『さぁ! 会場の進行は混沌王担当の実況者! このデュエ宮が務めます! それでは皆さん、準備はよろしいですかぁ!?』
ある意味僕史上初の、ゲーム内イベントの参加に僕は密かに心を躍らせたのだった。
『それでは混沌王公式ゲーム内フェスタ! これにて開幕です!!』
◇
フェスを開催するに当たって、一部スタッフを含めたフェス入場者はジョブを決闘者以外に設定していることを条件にしている。
これは現在デュエルの申請承諾が強制になっている仕様から、無用な混乱を起こさないためにという苦肉の策からだ。
まぁ混沌王がメインのフェスなのにデュエルができないというのは流石にあれなので、デュエルスポットでのみジョブを決闘者に変更してもいいということになっている。
「お、おいあれ――」
「す、すげぇ……!」
「これがセンリちゃんのポテンシャル!?」
「妹のエーシスも凄いぞ!」
「でもセンリちゃんの方が美少女だよな」
『それはそう』
エーシスが密かにブチ切れておられる。
「これだから嫌なんだよぉ……!」
「ほら、僕も複雑だから早く次のポーズだよ」
「うぅ……!」
僕とエーシスがポーズを取った度にスクショの音がけたたましく鳴り響く。
そう、僕たちは今コスプレブースにて『マジカルレッド』と『マジカルブルー』の衣装併せをしているのだ。
「うおおおおおお!!!」
「ローアン、ローアン!!」
「も、もう少しで――」
おまわりさんこいつです。
『変態係数300、執行モード:リーサル、ジャッジメント。慎重に照準を定め、対象を排除して下さい』
「はい、アウトだぜ」
「なっ! 何をするだァーッ!?」
「反省部屋行きだぜ」
その瞬間、露骨に下心を露わにして、定められたスクショのラインを超えてローアングルで撮ろうとしたカメコが瞬時に破裂もとい転送された。
「あ、ありがとうジャッジ君!」
カードを射出する銃を持って変態を対処して見せたジャッジ君にお礼の言葉を贈る。だけど――。
「おう! どうだってことないぜ!」
「あの、ジャッジ君? なんでこっちを見ないの?」
「なななな何を見るんだぜ!?」
僕たちがマジカルブレイバーズの衣装を着て以来、ジャッジ君の視線が完全に僕たちの方に向かわなくなってしまったのだ。
「お兄……ううんハルカ。ジャッジ君にはジャッジ君の深い事情があるんだよ」
「え、あ、うん」
まぁエーシスがそこまで言うなら。
「それじゃあ今まで通り監視をするぜ!」
「うん、お願い!」
とまぁ、以上がコスプレブースでの光景だ。この後僕たちは大盛況のまま交代の人と交代してようやく休憩時間に入る。
「ちかれたー……」
「お疲れ……」
うぅ……恥ずかしいよぉ。
なんで妹と際どいポーズとか取るの……? しかもその量が尋常じゃないぐらい多いし、更にコスプレするのはマジカルブレイバーズだけじゃないし。
他にも。
動物が擬人化したケモナーキャラのコスプレ。
中二病がテーマとした漆黒のコスプレ。
アマゾネスをメインとしたコスプレ。
アイドルをテーマとしたコスプレなどなど。
色んなコスプレを着て撮影会をしたのだ。
その際ジャッジ君たちスタッフによるジャッジメント行為は百件以上。最早反省部屋の許容量はパンパンである。
「取り敢えず……あそこ行こ!」
「あそこって……げっ、カードショップブース」
エーシスが指差した方向を見ると、そこには大量の人々がパック開封をしている光景があった。しかも異様に血走った雰囲気で。
「来て、来て……! 来なーい!!」
確かに今回のメインはコスプレによる混沌王のPRだ。だけど、それ以外にも様々なイベントスポットが用意されていた。
その内の一つがカードショップブースで、なんと本フェス限定コラボカードを内包した特別カードパックの販売が行われていたのだ。
はい、そこ。
コラボカードと聞いて察した?
はい、その通りです。
「うわーん!! 『変幻自在の吟遊詩人センリちゃん』が出ないよー!!」
そう、僕を混沌王のカードとして実装させたのである。つまりあそこのカードショップにいる人たちは全員――。
「――いや何やってんのみるぷーお姉さん」
「あれ!? 出なさ過ぎて幻覚見てる!?」
「いや本人」
「あっ! センリきゅんじゃないですか! もしかして出なさ過ぎて幻覚でも見ているのでしょうか!?」
「本人だって」
「むむっ!? そこにいるのはセンリさん!? まさか出なさ過ぎて幻覚を見ているのか!?」
「本人」
「あぁ! もしかしてセンリきゅん……!? どうしましょう、出なさ過ぎてお姉ちゃんは幻覚を見ているのでは……!?」
「本」
みるぷーお姉さん。
こサギ。
マスクド・ミカエル。
王女。
――うわぁ。
ド変態四天王が揃ってるぅ……。
「……バイバイ!!」
『あーっ!!?』
取り敢えず、僕はエーシスを連れて彼らから離れました。
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あとがき
ド変態どもがメインのサブはまたその内。
現状はただの
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