第21話

 SIDE ジャッジ


 レフェ先輩と笑い合った直後、何かが地面へと落下しようとしている光景が目に入るぜ。あの人影は……?


「っ! アイツ、ストライクって野郎が落ちて行ってるぞ!」

「え!?」


 四天王の一人、ストライク。そいつがカードを周囲に散らばせながら落ちていく光景が見えたんだぜ! でもおかしいぜ、なんでアイツは粒子にならないんだぜ!?


「ジャッジ! 急いで回収しに行くぞ!」

「お、おうだぜ!」


 とにかく、ストライクが完全に墜落する前に回収するしかないぜ。もしあのまま地面と激突してしまえばキャラが死んでどこにリスポーンするか分からないんだぜ!


「行くぜジャッジメントディザス――っ!?」


 実体化しているジャッジメントディザスターに命令をする。だけどその途中でジャッジメントディザスターの体が徐々に透けていっているように見えるぜ!?


「っ、レフェ先輩のエクストリームバードも消えかかっているぜ!」

「まさかサバイバル・デュエルで勝ったから、そのルールによる影響が消えかかってているのか? マズイ、このままじゃ俺らも――」


 レフェ先輩が最後まで言い終わる前にその時がやってきたぜ。俺たちが乗るキャラクターが完全に消え、重力に引かれて地面へと体が落ちていくんだぜ!?


「うおおおおおお!!?」

「わああああああ!?」


 死なないとはいえ怖いぜえええええ!!!


 ――だけど。


「うおっ!?」

「うわぁっ!?」


 ストライクの体を含めて、俺らは急に現れた謎の滑り台の上に乗ったんだぜ。


「『光と影の二つの心――』……なんだぜこれ!?」

「これはまさか、センリさんのスキル!?」


 かなりのスピードが出ている角度だけど、それでも地面に近付くほどにスピードと角度が緩やかになっていくんだぜ。よかった、これで俺らは落下死ということにはならなくなったぜ!




 ◇SIDE センリ




「ふぅ……よかったぁ」


 落下してくる三人の姿を見て咄嗟にサウンドビジュアライズを使ってよかったよ。もしかしてと思ったけど、ジャッジ君たちもサバイバル・デュエルを終わらせたせいでキャラの実体化が消えてピンチだったみたい。


「おかえり、二人とも!」

「センリさん、ナイスアシストだったよ!」

「助かったぜぇ……!」

「そっちは……よかった、四天王を倒したんだね」


 そう言って僕はストライクと名乗る四天王の男を見る。彼が落ちてきている光景を見かけたから、歌詞の滑り台を彼にもやったんだけど見れば彼は気絶しているようだ。


「センリがドローガエルに連れていかれた時は肝を冷やしたが、よく無事だったね」

「まぁサバイバル・デュエル中は色んな選択肢があるからね」


 僕の吟遊詩人スキル以外にもカードによる無数の選択肢があるし、どうにもできたよ。ぶっちゃけて言うと楽しかったね!


 :マクリールとの双六を思い出した

 :あの時も邪悪な笑みを浮かべてたね

 :これだから邪悪な男の娘と言われるんだよ


「覚えたからねそのコメントを打った人」


 :ヒェッ

 :あーあ

 :報復される上に名前を覚えられるご褒美……?

 :↑無敵か?

 :なんだその論調

 :もう駄目だ、手遅れだ


 もうなんか何をしても視聴者が喜ぶ流れになってて戦慄を禁じ得ない今日この頃。


「……あれ?」

「どうしたのお兄ちゃん?」


 気絶して寝ているストライクっていう人に対して妙な違和感を抱いた僕にエーシスが首を傾げる。そんな彼女に僕は頭の中に浮かんだ疑問を口に出した。


「……体が消えてない?」

「え?」

「そうなんだぜ! 俺たちはちゃんとストライクを倒したのにコイツは粒子にならないんだぜ!」


 結社の構成員を倒せば、その人は粒子となって倒したプレイヤーの体内へと入り込み、その人が持つスキルを獲得することができる。それがこれまでの結社狩りで得られた情報だ。


 なのにストライクはまだ原型を留めていたままなんだ。


「確認するけど本当に倒したんだよね?」

「まぁ何せサバイバル・デュエルだしね……倒したといっても従来のメンタルブレイクでの勝利じゃなく、物理的にダメージを与えての勝利だったよ」


 僕の言葉にレフェさんが自信なさげに肯定する。それにこの人が落下している最中にもカードを散らばせながら落下しているからデュエルによる勝敗はついたと考えていいと思う。


 でもそれじゃあ考えられる可能性はなんだろう。


「因みにスキル獲得は?」

「俺はないぜ」

「俺もだな」


 粒子にならず、スキル獲得のアナウンスもない。

 だったら最後に考えられるのは――。


「――……この人は、本当に四天王なの?」

『っ!?』


 ふと呟いた僕の言葉にみんなが目を見開く。


「確かに、この人が四天王だったら新しいスキルを持っているはずだ」


 僕の言葉にレフェさんが頷き、ジャッジ君が補足する。


「これまでスキルを得られなかったパターンは相手と同じ決闘者スキルを持っている場合のみだったぜ。スキルが重複していたら結社の構成員を倒しても粒子にならないし、スキルの獲得もなかったぜ」


 ひょっとしたらその前提が間違っているのかもしれないし、獲得できるスキルに制限とかがあったのかもしれない。だけど僕たちはあまりにも彼らに対する情報が少ないし、今持っている情報からでは上記の推測しか出せない。


 ……よし。


「取り敢えずこの人を縛ろう」

「あっ、このまま目覚めたら面倒臭いもんね」

「それはつまりセンリちゃん様のあの尋問が見られるということですの!?」

「え? あ、そっか」


 逃げ出さないように普通に縛るって考え故にだったけど、そういえば尋問担当って僕だった……嫌だなぁ、折角忘れかけてたのに。


「その方が確実だし頼むぜ!」

「はぁ……まぁやるしかないよね」

「なんか心なしかジャッジ君の目がリンちゃんと同じぐらい輝いてない?」

「な、なんのことだぜ!?」


 取り敢えずサウンドビジュアライズで手足を拘束しようか。そう考えて楽器を構えると――。


 ――ビシュン。


「……え?」


 赤い光線が迸り、ストライクの頭を貫通した。それによってストライクの体が徐々に粒子と化していく。

 間違いない、これはプレイヤーキャラが死亡する時のエフェクト――!


「っ、誰だぜ!?」


 微かに見えた光線の軌道を辿って僕たちはその先を見る。するとそこには、これまでの結社の構成員と同じローブを纏った見知らぬ人が近未来銃を構えながら立っている光景だった。


『流石に……そう簡単に情報はやれないな』

「俺は誰だって聞いてるんだぜ!!」

『察しの通り……俺は我が結社カオスティック・ギルティアの構成員だ』


 まさか、口封じのために彼を?


『そのまさかだ……』

「っ!」

「勝手にけしかけた癖に随分と身勝手だな!」


 レフェ先輩の言葉にその人物はフッと鼻で笑う。


『なに、成功すれば御の字の作戦だ……元よりこの襲撃は今後障害となりそうな相手の戦力把握に、新しく追加されたルールの試運転も兼ねていた……』

「なるほどな……それで確認できたのかよ」

『十分な収穫だ……礼を言おうじゃないか』


 レフェさんの皮肉にも、随分と余裕で言葉を返すじゃないか……! とにかく拘束スキルは豊富にあるんだ。睡眠か、麻痺か、それとも具現化した歌詞による拘束か。そう考えた瞬間、まるで僕の考えを読んだかのように彼は僕の方へと見る。


『おっと……お前だけは指一本たりとも動くな……』


 そう言って、彼はのこめかみに銃口を向けたのだ。


「っ!?」

『動けば、俺は自分のこめかみに光線を放つ……デスは痛いが、それでもお前から十分逃げ出せる……』


 ……よく、僕のことを警戒しているようだ。


『センリ……我らの最大の障害はお前だけだ。サバイバル・デュエルに対する圧倒的なアドバンテージに他者を寄せ付けない完封デッキ使い……今回の作戦でより深くお前のことを理解できた……』

「……っ」

「そうか……コイツ、初めからセンリさんのことを!」


 彼の目的は僕の実力調査か……!


『目的を果たしたし、口封じも成功した……俺はこのまま行くとしよう……』

「待つんだぜ!!」

「そうだ! せめて名乗るぐらいしたらどうだ!」

『……そうだな』


 身構える僕たちに対し、彼はゆっくりと名乗りを上げる。


『俺の名前はアービター……我が結社カオスティック・ギルティアのの一人……以後、よろしく頼む』


 ビシュン!


「っ!?」


 そう言って、彼は自分のこめかみを撃った。確実な致命傷……彼の姿は粒子へと消え、僕たちの前からいなくなった。


「最後まで……全然隙を見せなかった」

「真の四天王の一人……アービターか」


 まさかの敵の登場に、僕たちはしばらく佇んでいた。




 ◇




 それからしばらくして、僕たちはジャッジ君たち公式デュエリストのギルドホームに招かれていた。


「そんなことがあったんだねー……」

「駆けつけるのが遅かったンゴ……」

「無念ですニャ」


 そしてそこで僕たちはアンさんとパイアさん、そしてクロと合流して、先ほどの襲撃と四天王との邂逅した時の状況を説明した。


「まぁしょうがないよね……三人とも正反対のところにいたし」

「あれ、そういえば先ほどの女の子は?」

「え? あ、リンちゃんのことね? リンちゃんはリアルの用事があってついさっき別れたよ」

《フレンド登録もばっちりデス》


 ふーん……。


「取り敢えず、今後は四天王の動向を注意して……センリちゃんを守っていかないとねー」

「守るンゴ……!」

「もう完全に守られヒロインだね!」

「誰がヒロインだ」


 エーシスのいつものおふざけにツッコミを入れてると、ギルドホームの奥からレフェさんの話し声が聞こえてくる。


「……分かった。それじゃあジャッジたちにも知らせるわ」


 その言葉を最後に、レフェさんがフレンド通話を終わらせたのか僕たちのところにやってきた。


「誰からだったんだぜ?」

「混沌王の案件依頼だよ」

「案件だぜ?」

「今ってカオスティック・ギルティアの影響で新規の人たちから不安の声が上がってるんだよ。だからここいらで宣伝でもして、安心させてやれってさ」


 ふーん……公式デュエリストも大変だなぁ。


「それでだが……上から今話題のセンリさんにコラボ依頼の許可を取って来いって言われてな」

「へ?」

「へいへーい! お兄ちゃんへのコラボ依頼はこのSNS大臣兼マネージャーである私に話を通す必要があるよ!」


 ちょっとエーシスってば!


「その、だね……混沌王のコスプレPR企画なんだが」

「なんだって?」

「はい許可します」

「エーシス!?」


 あの、なに勝手に受けてんの!?

 いやコスプレとかもう二度としたくないんだけどってねぇこっちににじり寄らないでよエーシスってば!?


 こんな時に緊張感がないというかって、いやっ、ちょ、あっー!!?

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