第20話

 無数のプレイヤーが集まり、忙しなく動く。彼らに共通しているのは手にカードを持っていること。そんな彼らに一般人が困惑しながら話しかける。


「なんだい今日は……さっきからカードを持ち歩いている連中を見かけるが……」


 そんな一般人の呟きに気付いた彼らが叫んだ。


「一般人はどいてた方がいいぜ!」

「え、え!?」


 その瞬間、彼らの一人がカードを掲げるとそのカードから妙な姿をしたキャラクターが現れる。


「――今日この街は戦場と化すんだからよ!」


 街を巻き込んだサバイバル・デュエルが今、始まる――!!




 ◇




「お兄ちゃん、どこ!?」

「ひ、人が倒れてますわ!?」


 聞こえてきた見知った声と見知らない声に、さっきまで上空を見ていた僕はその声の方へと振り返る。


《見つけたデス》

「お兄――! ……ちゃん?」

「ヒェエエエですわ……!?」


 そこにいたのはエーシスにマナナン、それと見知らぬ女の子が僕の方を見て戦慄していた。まぁ……うん。


 :あわわわわわ

 :こいつは酷い

 :これが地獄か……


「どうしたの?」

「どうしたも何もなにこの惨状!?」

「大量虐殺ですわー!!」

《センリ、無事だったデス》


 冷静なマナナンとは裏腹に二人の狼狽えっぷりが酷い。いやまぁこの惨状を見れば誰もエーシスたちと同じ反応をするだろう。

 何せ僕の周囲には無数のデュエリストが地に伏せて、様々なカードが彼らの周囲に大量に散らばっていたから。もう傍から見れば大虐殺現場みたいな光景だろう。いや虐殺はしてないけど。


「彼らが襲い掛かってきたから返り討ちにしたんだよ」

「うわぁ……」


 露骨に引くんじゃないよエーシス。


「襲い掛かってきたって……どうしてですの?」

「なんか……デュエルで拘束しろって言うから」

「デュエルで拘束……? 日本語大丈夫?」

「僕じゃなく彼らが言ったんだよ!?」


 いやデュエルで拘束って聞いて、サバイバル・デュエルの仕様を理解できてなかったら僕も未だに理解できてないけど!


「サバイバル・デュエル? カードの設定が実体化? 何言ってんのお兄ちゃん」


 一番聞きたいのは僕だよぉ……。


「サバイバル……? おかしいですわね……そんなルール、私は一度も――」

「あの、ところで君はいったい?」

「わひゃあああ!?」


 :慌ててて可愛い

 :こいつはグレートなお嬢様ドリルだぜ……

 :小学生みたいな見た目でドリルヘアーをチョイスか……こいつは将来化けるな

 :↑お前はどこ界隈の目線で言っとるんや


「え、えーとその私はぁ……」

「えーと、そう! デュエルフレンド!」

「デュエルフレンドぉ?」


 怪しい……。

 まぁでもこれ以上見続けると泣きそうだしやめよう……小学生に泣かれるとかデュエルじゃないのにメンタルブレイクしそうだし。


「でもそっかぁ……確かにデュエル・サバイバルのルールを聞いてるとお兄ちゃんの独壇場になるよね」

「まぁね」


 :あれはまさしく鬼神の如きじゃった……

 :センリちゃんに手段を与えちゃダメってはっきり分かんだね

 :なんでデュエル縛りを設定しなかったんですか

 :吟遊詩人スキルも使えるなら無法になるって


「あぁ……これがセンリちゃん様の無法戦法……!」

「何言ってるのこの子」

「この子はお兄ちゃんのファンでもあるんだよ」


 なるほど?


「それでお兄ちゃん、ジャッジ君とレフェさんは?」

「二人なら……」


 エーシスの問いに僕は空を見上げる。あの遥か先で戦っている二人の姿を想像しながら、僕は二人の勝利を祈る。


「勝って……二人とも……!」


 四天王と名乗る相手との初戦。彼らの勝敗によってこれからの戦いが変わるといって過言ではない。だから僕はここで祈るしかないんだ。




「ど、どうしよう……お兄ちゃん、まるで主人公の勝利を願うヒロインみたいな雰囲気を出してるよ……!」

「くっ……内情を知っているが故にどうも罪悪感が……! あれ、なんで急にお腹の中がキリキリするような感じに……?」

《その年で胃痛デス……?》

「ゲームの中なのに!?」




 ◇SIDE ジャッジ




「俺はキャラクターカード『蹴撃王者クロックカブト』を登場! このキャラが場に登場した時、設定により相手攻撃力5以下のキャラを全て破壊する!」

「ここでフラグカード『紡いだ絆の糸』を回収! 自分ステージゾーンのキャラを二体以上を破壊するキャラクターカード、シチュエーションカードの設定を無効にして、そのキャラを破壊する!」

「チィッ!」


 ストライクという男が回収したフラグカードの設定により、レフェ先輩が登場させたクロックカブトが逆に破壊されてしまったぜ……!

 更にレフェ先輩に対してフラグカードの回収に成功したため、回収成功によってレフェ先輩のメンタルが3ポイントダウンしたぜ。


 レフェ。

 MP40 → 37。


 だけど――!


「ここで俺はフラグカード『肉を断つ反撃セルフディストラクション・カウンター』を回収するぜ! 相手のカードの設定によって自分もしくは味方のメンタルを減らされた時、減ったメンタル分の数値をお前に与えるぜ!」


 これで相手のフラグカードによってダウンしたレフェ先輩のメンタル分の数値とフラグカードの回収成功によってストライクは計6ポイントのメンタルダウンだぜ!


「ぐぅっ!」

「更にこのフラグカード使用によるメンタルダウンにハプニングドロー権は与えられないぜ!」


 ストライク。

 MP40 → 34。


「ハプニングカードにも対策してきたか……!」

「今更二対一で日和るなんてことは勘弁だぜ!」

「……いいや! 寧ろ燃える! 行け、スワローテイル!」


 ストライクが乗る飛竜燕ドラゴニクス・スワローテイルが猛スピードでこちらに突っ込んでくるぜ。しかも狙いはレフェ先輩。

 レフェ先輩は自身が乗るサイクロンバードに命令して回避するも、スワローテイルが起こすソニックブームによって物理ダメージを受けるぜ。


「ぐっ!?」

「大丈夫かレフェ先輩!? くっ、物理ダメージとかふざけんなだぜ! 普通にメンタルダメージを与えやがれってんだぜ!」


 このゲームにHPはないけど、ダメージの受け方はリアルと同じなので下手な当たり方をしたらすぐゲームオーバーだぜ。そしてその仕様はこのサバイバル・デュエルにも適応されるんだぜ!


 普通にデュエルをして来いって話だぜ!!


「多少のかすり傷だ。行けるか、ジャッジ?」

「俺はとっくに大丈夫だぜ!」


 サバイバル・デュエルは通常のデュエルと違ってターン進行がないんだぜ。初手の手札は五枚。デッキからドローした瞬間、リキャストタイムのようなものが出てしばらくの間ドローできないぜ。

 その他にキャラクターカードの一般演出と特殊演出は従来通りで、シチュエーションカードもその都度発動できるぜ。

 フラグカードはその都度伏せてから相手の行動を待つという、まるで罠のような扱いになっているぜ。


 つまりこのサバイバル・デュエルは、混沌王のカードが使えるだけのただのゲームの戦闘になっているんだぜ! おい、マジでデュエルをしやがれってんだぜ!


「っ!」


 そうこうしている内にドローのリキャストが終わったぜ!


「俺のターン、ドロー! 俺はジャンルカード『大狩猟祭』を展開して設定を開示! 手札からキャラクターカード『ディザスタードラゴン・ミラージュ』を特殊演出させるぜ!」


 その時、俺が掲げたカードから俺が親しんできたドラゴンが実体化するぜ。その姿に思わず胸の奥が熱くなった気がしたけど、とにかくデュエルだぜ!


「とうっ!」


 さっきまでレフェ先輩が登場させたジョーカーバードから飛び降りてミラージュの背中に乗るぜ! こ、これがミラージュの背中だぜ……!


「ふんっ! 今更新しい乗り物を出したところで! 俺はシチュエーションカード『飛竜燕の見る世界』をシーン展開! 俺のスワローテイルは速さが増し、登場した相手のキャラクターカードを超音速によって破壊する!」


 だがここでミラージュの設定を開示するぜ!


「ミラージュは一ターンに一度攻撃できない代わりに、ミラージュを対象としたありとあらゆる破壊設定を完全に無効化させることができるぜ!」

「なにぃっ!?」


 ミラージュが蜃気楼を生み出し、その幻影のミラージュをスワローテイルが間違えて攻撃してしまうぜ。


「勿論本体は無事だぜ!」

「行くぞ、ジャッジ!」

「おうだぜ!」


 こうしてレフェ先輩とデュエルをしていると昔のことを思い出すぜ。初めてデュエルをした時、こうしてレフェ先輩は俺の背中を押して、そして一緒にデュエルをしてくれるんだぜ。


「俺はサイクロンバードとジョーカーバードを対象にシチュエーションカード『至高へと至る覚醒』をシーン展開! 二つの疾風と切札が合わさり、至高の力へと至る! 来い、覚醒演出! 『極限の大鷹エクストリームバード』!!」

「ミラージュを使用済みゾーンに送り、俺は手札から傲慢の覇者! 全てを見下す災害の頂点! 『覇龍神王ジャッジメントディザスター』を特殊演出させるぜ!」


 更にジャッジメントディザスターの設定によって、使用済みゾーンに送られたミラージュをステージゾーンに蘇生させるぜ! そしてジャッジメントディザスターがいるお陰でミラージュに対する攻撃命令がちゃんと通るようになるぜ!


「そしてフラグカードを一枚伏せてバトルだぜ!」

「うおおおおおおおお!!!!」


 レフェ先輩が乗るエクストリームバードと俺が乗るジャッジメントディザスターが相手のドラゴニクス・スワローテイルへと襲い掛かる。


「避けろスワローテイル!」

「計三体のキャラを相手に逃げられるかな!?」

「くっ!!」


 驚異的なスピードで逃げ回るスワローテイルを相手にエクストリームバードとジャッジメントディザスターが追い詰めていく。だがここで、こちらの隙を突くようにスワローテイルが反転して、反撃しに来たぜ!


「食らえ、スワローテイルアタック!」

『GA……っ!?』

「ジャッジメントディザスター!?」


 ばちぃん! と不意打ち気味に受けたスワローテイルの尻尾攻撃にジャッジメントディザスターの顔がのぞける。だがこれによって、ジャッジメントディザスターの堪忍袋の緒が完全に切れるぜ!


『GAAAAAAA!!!!』

「くっ、なんて威圧だ……!?」


 まぁでも切れたからと言って特にパワーアップはないぜ!


「あーあ……お前は相棒の切り札を怒らせちまったなぁ! 行くぞエクストリームバード! コイツの設定を開示することによってお前のスワローテイルは丸裸になる!」

「なんだと!?」

「エクストリームバードの対象になった相手はこのターン設定の開示をできない!」


 エクストリームバードの完全解析によって能力を封じられたスワローテイル。これによってあの驚異的なスピードが完全に消えたぜ!


「行くぜジャッジメントディザスター!」

『GAAAAAAAA!!!!』

「まだまだぁ!! 俺はシチュエーションカード『スワローファントムレギオン』をシーン展開する! これによって俺のスワローテイルは分身する!」


 その言葉通りに、スワローテイルに乗ったストライクを含めて、無数のスワローテイルが周囲に現れていくぜ。


『さぁこれで本体は隠れた! この量の分身を前にお前らは手も足も出ないだろう!』

「あり得ないぐらいしぶといぜ!」

「だったらこっちにも考えがある! ジャッジ!」

「っ! 分かったぜレフェ先輩!」


 俺が頷いたことでレフェ先輩が一枚のカードを掲げるぜ!


「俺はキャラクターカード『鏡面世界の刺客ミラードラゴンナイト』を登場させる! これによってミラードラゴンナイトの設定を開示する!」

「今更なにをするつもりだ!?」

「対象はジャッジのミラージュ! ミラージュの全ての設定をコピーする!」

「設定をコピーだと!?」


 その瞬間ミラードラゴンナイトの姿が俺のミラージュの姿になったぜ!


「そして今度は俺の番だぜ! お互いの場に同種類のキャラが二体以上存在する場合俺はフラグカード『シンクロ・レギオン』を回収するぜ!」


 あと、もうこれでトドメなのでフラグカード回収成功によるメンタルダウンの描写は省略するぜ!!


「シンクロ・レギオン……まさか!?」

「本来はこちらの同種類のキャラの数を、相手の場にいる同種類のキャラと同じ数へと増やすピーキーな設定だが、このデュエルならこんな使い方もできる!!」


 ――このサバイバル・デュエルは、言ったもん勝ちだぜ!


「これが本当の分身だぜえええええ!!」

「ミラージュの数が俺のスワローテイルの分身と同等に!?」


 本体を見極められないなら分身全員に攻撃するまでだぜ!!


「行くんだぜミラージュ・レギオン!!」

「ち、近付くなぁ!!」


 分身したミラージュ・レギオンがスワローテイルの分身を撃破していく。やがてあの中で必死に回避行動を取る唯一の個体が見えたぜ。


「ジャッジ! アイツが本体だ!!」

「おうだぜ!」


 まるで阿吽の呼吸のように俺とレフェ先輩が行動するぜ。これが俺とレフェ先輩の絆……! まだまだアン先輩とパイア先輩の合作デュエルに負けないぜ!


「行けエクストリームバード!!」

「終末を下すんだぜジャッジメントディザスター!!」

「うわああああああああ!!?」


 エクストリームバードの猛攻とジャッジメントディザスターの容赦のない一撃によってスワローテイル諸共ストライクを物理的に撃破するぜ!




『レフェ&ジャッジVSストライク』

『レフェ&ジャッジ WIN!』




 持ち主を背に乗せた一匹の鳥と一柱の龍が隣り合って俺は先輩に笑いかけるぜ。そんな俺の様子を見た先輩も勝利の笑みを浮かべるぜ。


「やったなジャッジ!」

「おうだぜ!」


 拳を交わし合うようにぶつける。


「へへ……!」


 俺とレフェ先輩を相手に挑んて来たのが間違いだったんだぜ!




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 あとがき

 サバイバル・デュエルは言ったもん勝ちなので細かいことは気にしないでください。

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