第19話
時はしばらく遡る。
通報のあった場所に向かうと、そこにはデュエリストの男が地面に倒れている光景があった。
「やっぱり出遅れたね……」
「ものけの空だぜ……」
「もぬけの殻ね」
とにかくここ数日間はいつもこうだ。通報があって駆け付けてみたら既に終わったあと。周囲を見渡しても倒れている人以外の痕跡はない。
「その人は大丈夫なんだぜ?」
「周囲にカードが散らばってるけど、それ以外は無傷だね」
結社が現れた日以降、結社の人間とデュエルに負けると周囲にカードを散らばるようになる謎の演出が発生するようになった。まぁは持ち主が目を覚ましたら元に戻るし、盗難の心配はないけどさ。
「前例通りならこの人も直に目が覚めると思う」
「よかったぜ……」
そう安堵をするジャッジ君に、あらかた周囲の探索を終わらせてきたレフェさんが顔を顰めながらやってくる。
「いや良くないな……実に良くねぇ」
「はぁ……レフェ先輩はまだそんなことを言ってるんだぜ?」
「だって俺だけ活躍の記録なしだよ? 折角八神将の一人を倒したっていうのに俺だけ結社とのデュエルが配信にないとか!」
「配信し忘れたレフェ先輩が悪いんだぜ」
「正論で殴るのがそんなに気持ちいいのかい!?」
:気持ちいい(確信)
:センリちゃんも気持ちいいと思ってそう
:センリちゃんだからね
僕だからというのはいったいどういうことなのさ。あと正論パンチの云々の話はノーコメントとして控えさせていただきます。
「ログインしてすぐのことだったし……はぁ」
「ドンマイだぜ!」
「その言葉嫌いだよ!」
ここ数日間、毎回同じように言われてるしね。
「とにかく今日も収穫はなしということで……はぁ」
「溜息を吐くと幸せが逃げるぜ!」
「じゃあもう不幸の化身になっているじゃないか」
ははは……。
取り敢えず、僕たちは倒れている人は近くの宿まで運んでいく。流石に街中でそのままにしてもいいけど、そこは人としてね?
「『コール』」
「相変わらずカッコいいバイクだぜ!」
「くそぉ……俺も乗り物があれば今頃……!」
「今更でしょう」
:しっかしこれで何枚結社に署名カードを分捕られたんだろうな
:そういや集めきると混沌王社会になるんだっけ
:被害者の申告から大体八十人ぐらい取られたんだっけ
:かなり集められてて草
:もうすぐそこやんけ!
:このまま対処しないとすぐカードゲーム世界になるぞこれ
「うーむだぜ……!」
「取り敢えず別々にパトロールしてる他の二つのグループと合流して、情報を共有しようか」
そう、捜索しているのは僕、ジャッジ君、レフェさんの三人だけじゃない。他にもアンさんとパイアさんの姉妹ペア、そしてエーシスとマナナンのペアの計三グループで捜索しているんだ。
「今回も無駄足の気配が……」
「そんなことを言わないの」
駄目だ、レフェさんは腑抜けている。
「ほらレフェ先輩、もっと元気を出すんだぜ――」
「待て」
『っ!?』
そうレフェさんの肩を叩いて励まそうとしたタイミングで、僕たちの前に立ちはだかる無数の人たちが現れた。
「ようやく見つけたぞ……」
「……お前らは誰なんだぜ?」
服装に統一感もなく、ただ人相が悪そうなアバターで好戦的な目を向ける光景はまるで不良集団が威圧しているような光景にも見える。
「俺たちはカオスティック・ギルティアの同志」
「同志、だと……?」
「悲願成就のために……お前らを拘束する!」
「え、はぁ!? なんだよそれ!?」
まさかの目的にレフェさんが悲鳴を上げる。
取り敢えずアイツらの目的が拘束なら、歌詞の壁を発生させて近付けさせないようにするしかない!
『ジョブを吟遊詩人に変更します』
「『サウンドビジュアライズ』!」
そうして彼らとの間に壁を作ったんだけど。ドカアアアアン!! と爆音が鳴り、歌詞の扉が破壊された。
『っ!?』
その破壊した壁からドラゴンが飛び出てきたのだ。そのドラゴンの突進を避けるように頭を下げると、僕たちの頭上を通過してドラゴンは飛び上がった。
なんなのあれ……!?
なんで街中にモンスターが!?
「もしかしてテイムモンスター!?」
「いやあれは――」
:飛竜燕ドラゴニクス・スワローテイルじゃねぇか!
:混沌王のキャラクター!?
:え、なんで!? デュエル開始されてないよね!?
「キャラの実体化だと!?」
「お前らに逃げ場はねぇぞ!」
「これから始まるのはサバイバル・デュエルだ!!」
『サバイバル・デュエル!?』
聞いたことないよそんなデュエル!?
「行くぞお前ら! アイツらをデュエルで拘束しろ!」
「な、なんだか分からないけどとにかく逃げるぞ!」
レフェさんの言う通りに僕たちは駆け出していく。そこに、僕たちを追うチンピラの一人が一枚のカードを掲げた。
「俺はシチュエーションカード『底なし沼の功績』をシーン展開!」
その瞬間、僕たちの足元に沼が現れたのだ。
「っ!? なんだこれ!?」
「キャラクターカードだけじゃなくシチュエーションカードすら実体化できるの……!? っ、でもこれなら!」
サウンドビジュアライズで歌詞の道を作って沼から逃れる。よし、例えカードの設定が実体化してもちゃんと僕の吟遊詩人スキルで対処できる!
「戦力を投下しろぉ!」
「俺はドスコイメイド・ちゃん子を登場!」
「私はネコマタロボット・E-MONを登場!」
「儂はピッチギャルエ・ロエルを登場じゃわい!」
くっ、好き勝手にキャラを登場させて……!
いや、待てよ……?
『ジョブを決闘者に変更しました』
「僕はシチュエーションカード『出落ちボッシュート』をシーン展開!」
「センリ!?」
「センリさん!? いきなり何を!?」
その瞬間僕が掲げたカードが光り、彼らが登場させたキャラクターたちをボッシュートさせた。
「俺のちゃん子がぁ!!?」
「私のE-MONが!?」
「儂のピッチギャルどこ……ここ……?」
やっぱり……! このサバイバル・デュエルは僕たちにも適応される! つまり僕たちもカードの設定を引き出すことができるんだ!
「そういうことか! なら俺はキャラクターカード『大空を翔るサイクロンバード』を登場させる! 乗るぞ二人とも!」
「うおおおおだぜ!!」
「やぁ!」
レフェさんが持つカードによって実体化した風を身に纏った巨大な隼に僕たちは乗る。その瞬間僕たちを乗せたサイクロンバードはそのまま驚異的な速度でグングンと空へと羽ばたいていく。
「よし、ここまで来れば……」
「いや油断は禁物だぜ!」
「レフェさん!」
その時、僕はこちらに迫りくる轟音に気付いて急いでレフェさんに回避行動を取るように言う。そんな僕の意を瞬時に理解したレフェさんがサイクロンバードを傾けた瞬間、僕たちの横を猛スピードで通過する何かが現れた。
「くぅっ!?」
「大丈夫だぜ!?」
「大丈夫……! ところでさっきのは!?」
「あぁ……あれはさっきのスワローテイルだぜ!」
飛竜燕ドラゴニクス・スワローテイル……やっぱりイラストからして空中での戦いはあっちも得意なのか……!
「舐めんじゃねぇ! サイクロンバードの設定を開示! デッキからキャラクターカード『切り札の大鷲ジョーカーバード』を手札に加え、場にサイクロンバードが存在していることで手札から特殊演出させる! 来い!」
今この場にサイクロンバードとジョーカーバードの二羽が揃った! その瞬間、レフェさんがトドメを刺すようにシチュエーションカードを使用する!
「この二羽が存在することで俺はシチュエーションカード『至高の切り札、疾風怒涛』をシーン展開! 相手の場に存在するキャラクターカードを――」
――全て破壊する!!
レフェさんがそう設定を開示したその時、二羽が分身して一斉に周囲を飛んでいる飛行型キャラクターを一撃で破壊していったではないか!
「やったぁ!」
これで空を飛んでいるキャラクターは全て消えた! これなら相手が再登場させられる前に離脱して――……っ!?
「まぁまだ待てよ」
「お、お前は……!?」
「我が名はストライク……四天王の一人だ!」
:四天王!?
:え、ドラゴンに乗ってるこの人が!?
:相変わらずローブのせいで名前とか分かんねぇ!
「……へぇ? お前が四天王か」
「お前が今回の事態を引き起こしたんだぜ!?」
「そうだ! この時をもって我が結社の計画は既に第二段階に移った! つまりもうあと残り数枚……その数枚を集めきるために先ずはお前ら強者を拘束することにしたんだ!」
:汚いぞ!
:お前それでもデュエリストか!?
:いやそれ言ったらセンリちゃんもダメージ受けるんで
「それでこんな……!?」
「新しいルールに新しいシステム……! これから先のデュエルにキャラ実体化による物理ダメージが入るようになったぞ!」
:闇のデュエルかな?
:つまりMPが足りてても物理ダメージでプレイヤーのHPがゼロになればそれで敗北するようになったってこと!?
:↑超速理解かな?
「サバイバル・デュエルって奴もその一環ってことか……」
「そうだ!」
「よくもまぁそんなベラベラと喋るもんだぜ! 今この場には俺たち三人がいることを忘れないで欲しいんだぜ!」
「それぐらいの対策はしてあるさ」
「うわぁ!?」
なにが、とそう聞き返す暇もなく、地上から何かが飛び出して僕の腕に巻き付いたきた!? うわぁなんかヌルヌルヌメヌメしてるよぉ……!
「それはドローガエル!? デッキからキャラクターカードを一枚ドローするカエルの舌だ!」
「気持ち悪い!?」
「センリ……お前は危険だ。ここで退場して貰う」
そうストライクが言い放った瞬間、物凄い勢いで地上に引っ張られてしまい、僕の体はレフェさんのサイクロンバードから引き離されてしまう。
「センリ!!」
「う、うわああああ!!?」
「これで邪魔者はいなくなった! さぁここからは四天王である俺とデュエルだ!」
「おい二対一でやるんだぜ!?」
くっ、せめてジャッジ君とレフェさんに対して勝利を祈るしかない! 先ずはさっきまでの情報を他のグループに伝える必要がある。
「待っててね二人とも! 今すぐ援軍を呼ぶから!」
僕の言葉を二人が聞こえているかどうか分からない。それでも僕は仲間たちに対してこの出来事をメールに付け加えて、一斉に送信した。
「さて先ほどの質問の答えを言うとしようか」
「質問だぜ……!?」
「二対一でやることについて……その問いの答えは至極シンプルだ! 俺は二対一程度でやられる四天王じゃないってことだぁ!」
『っ!!』
「行くぞ!! デュエル!!」
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