第18話
SIDE エーシス
結社狩りが滞り、四天王以上の目撃情報もないまま数日が過ぎました。いや、別に何も情報がないってことはないんだよ?
六芒星を倒した日から相変わらず結社の人間によって敗北するプレイヤーはいる。
ただどの被害者たちも人気のない場所でデュエルをさせられて、人知れず倒される毎日。
署名カードだけ奪われて、結社の人たちと全然デュエルさせて貰えない。
まるで私たちを避けるような動きにフラストレーションだけが溜まる数日間だった。
「今日もレフェさん頭抱えてたねー」
《毎回現場に駆け付けても手遅れだったデス》
「本当、運が悪いと言うかなんかなぁ」
今日も今日とてマナちゃんと一緒に怪しい人がいないかのパトロールです。
でもなぁ、私やマナちゃんって激強デュエリストだからなぁ。わざわざ私たちと戦うよりも一般の人たちを襲った方が効率的だもんねぇ。
《わっちゃあは知ってるデス。これは調子に乗ってる表情デス》
「ちょ、マナちゃん酷くない!? いったいどこでそういうの学んだの!?」
《センリが教えてくれたデス》
「純粋無垢なマナちゃんになんてことをっ!」
教育教育って言っておいて一番教育に悪いことを言ってるじゃん! ったくもー……こんな菜食芋けんぴ? な妹に向かって酷いこと言うんだから!
「こうなったらお兄ちゃんの配信でお兄ちゃんの秘密をバラして――」
――えぇ、分かってますわ。
「……ん?」
なんか路地裏で声が聞こえたような。でもこの通りの人の声が混ざって聞こえない。もしかして気の所為?
《誰かが話してるデス》
「やっぱりそうだよね?」
接客業のプロだからマナちゃんの耳はかなり良い。お客さんの声を聞き漏らさないようにってのがマナちゃんの言だけど、本当に助かるよぉ。
「ここかな?」
《この先デス》
そうして進んでいくと、マナちゃんが曲がり角のところで顔だけ覗くようにしているのを見て私も真似る。
そうして顔だけ出して見ると……。
「まさか双極の片割れがこんな路地裏にいると思わないですわよね……」
!?!?
「一番の罪はあれがただのリワードで、ただゲーム内イベントを作るだけのリワードであることを隠してみんなを騙していることなのですわ……!!」
!?!?!?!?
え、ちょ、待っ。
やめてよ! そんな情報の洪水をワッと浴びせてくるの!!
え、双極の片割れ?
ただのリワード?
え、と……あの。
――もうしばらく眺めてたらまた重要な情報がポロって来ないかな……?
《本気で言ってるデス?》
なんかマナちゃんが私の発した言葉に呆然としているけどしょうがないじゃん。こんな……えーと……ぜんざい一個なチャンスは滅多に訪れないんだから!
なので再びジーッとローブの人の方へと見ていると、ガシャンと足元にあるゴミに足が触れて崩れちゃった。その瞬間、グギギとこちらに向かって頭を動かすローブの人。
「……」
どうしよ……取り敢えず諦めずにジーッと見つめたらなんとかならないかな(?)。
「……あ」
あっ、これは無理そう。
「……あ、どうも双極さん」
「――……お、」
「お?」
「思いっきりバレてしまいましたわあああああああああああ!!!!????」
と、取り敢えず、その。
容疑者、かくほー!!
◇
「さぁ……とっととキリキリ吐いて貰おうじゃね〜の、えぇ〜?」
《えー? デス》
「そ、そそそそれはその」
場所は中央広場の喫茶店。
テーブル席の対面で縮こまる金髪縦ロールお嬢様風のプレイヤーに対して、私たちはサングラスを掛けながら凄んでいた。
「えぇのんかぁ? ウチの連絡一つで超絶鬼畜
「それは寧ろありがたいような……」
「あっ
だったら話は早い。妹の特権でお兄ちゃんのあんなことやこんなことを話せばイチコロよイチコロ。
というわけで自分とマナちゃんが掛けてるサングラスを外してテーブルの上で可愛く凄んでいるマナちゃんをテーブルから下ろす。
「ふっ……取引だよ」
「と、取引……っ!」
見た感じジャッジ君と同じぐらいの年齢をしたアバターをしている彼女。
オンラインゲームだから見た目通りじゃない可能性が高いけど、子供ってキャラを選ぶ、もしくは作る時はなるべく自分に近い外見や年齢のキャラにするんだよねぇ。
根拠?
根拠は私だけど、何か?
《偏見を感知したデス》
「マナちゃん!?」
一言余計がお兄ちゃんに似てきたよマナちゃん……! なんかブーメランを投げてるデスみたいな表情はシャットアウトだよ!
「とにかく、洗いざらい吐いて貰おうか嬢ちゃん……!」
「っ! そ、それは」
「分かった分かった……お兄ちゃんの秘密を先に話せってことでしょー?」
「え? いやまだ何も――」
そうだよね。
先ずはこちらから報酬を提示しとかないと交渉は始まらないよね。
「実はお兄ちゃんは……」
「……! ゴクリ」
ふっ……興味津々って顔だねぇ。
「……十歳まで」
「十歳まで……!?」
「おおっとそこから先はそっちの話次第だよぉ?」
「っ!?」
つまりここから先は有料なのだよ。どうよ、これぞ魅力的な餌をチラつかせて相手の好奇心を引き出すテクを。私の驚異的な交渉術をお兄ちゃんたちに見せてやりたいよまったく。
「どうだい? 話す気はなったかい?」
「あ、あの……だから先ほど私は」
「あぁ分かった分かった! 欲張りだねぇ君ぃ」
「えぇ……」
どうやら相手もそれなりの交渉術を持っている様子。ならばこちらも一段と魅力的な餌をチラつかせてあげるまでだよ……!
「実はプールの授業で――」
「いやあの、待ってくださいまし!」
「あ、はい」
突然バンッとテーブルを叩きながら立ち上がる彼女にビックリする。
「お話します……どの道バレてしまってからには誰かに話す予定でしたから」
「そ、そう?」
「はい……」
そう言って彼女……リンちゃんは結社のこと、自分のこと、そして彼女自身の罪について私とマナちゃん語りだした。
「――……という、訳ですの」
「なるほどぉ……」
《つまりこの一連の事件は……》
「勘違い……いえ、私が発端で起きた世界規模の茶番なんですの」
先ず、カオティック・ギルティアの構成員として一番初めに私たちと接触したマジカルレッドが好きな人……えーと。
《ヴァルゴデス》
そうそうそれそれ。
あの人が言ってた、結社にエクストラリワードがあって、署名カードを一定数集めれば現代社会が混沌王社会になるっていう目的、ひいてはその手段自体について。
もしリンちゃんが語ってくれた話通りなら、それらは存在しないということらしい。
「本当は社会を変えるエクストラリワードじゃなくて、ただゲーム内イベントを作るリワードかぁ……」
「運営がこれまで開催してきたイベントのように、ゲーム全体を巻き込むイベントの設定ができるようになる……それが私が見つけたリワードでしたわ」
だから決闘者のジョブ持ちに対して強制デュエル機能や決闘者スキルなんてものを与えることができたんだ。
つまり強制デュエルはイベント限定ルールで、スキルはイベント限定スキルというわけね。
《つまり結社狩りによって彼らのスキルが手に入る仕様はそれがイベントのルールなんだからデス?》
「そうですわ……言うなればこの一連の流れを作り出した私たち結社は、イベントを開催した運営のような存在で……構成員はスタッフやNPCみたいなものなのだから」
《だけど彼らは知らなかったデス》
「……ええ」
そしてそれが余計に話が拗れた理由でもあるんだ。しかし通りでこんな事態になっても運営からの反応がなかったわけだ。
「私は……ただ家族と……お兄様と昔のように遊びたかったのですわ。だからこんばこでリワードを探す際に、密かに参加したRBF大会で得た希望カタログを使って願ってしまったのですわ」
……うぅん。
これ希望カタログを報酬として追加してからずっとそれが原因でハプニング起きてない?
「ただ自由に遊びたいと……お兄様と同じ目的を持って、ただ好き勝手に遊びたいと願ったのですわ」
……この子。
「……それで、気を引きたくてエクストラリワードと偽ったってのは聞いたけど、やっぱりいくら聞いても分かんないよ」
それはつまり。
「……なんで混沌王なの?」
好き勝手に社会を変えれるなら別に混沌王社会じゃなくてもいい。それなのに全世界カードゲーム社会化とかはっきり言って最寄りの精神科を調べて住所を渡したくなるレベルだよ?
「それは……昔お兄様と遊んだカードゲームを思い出したからですわ……」
「え」
どうやらリンちゃんの中で兄とカードゲームを楽しんでいた頃が一番兄と過ごして楽しかった時期らしい。
「だから私は……その、冗談で『条件が達成したらカードゲーム社会になれるエクストラリワード』と偽って報告したら……」
思った以上に賛同を得られたと。
人の身内に悪く言うつもりないけど、一応言うね。最寄りの精神科はあちらですよ。
「どうして」
「そこは私も分かりませんわ……ただ、そうですわね……初プレイとなるカードゲームなのに妙に詳しかったり、デッキの用意が良かったり、妙に構成員集めが捗ったり……」
「……それ君のお兄ちゃん、もう既に混沌王にドップリだったんじゃないの」
それも既にコミュニティ形成済みのカードゲーマーみたいな。
「そんな……!? 妹である私に黙って他の人とカードゲームを遊んでいたですって!?」
「言っといてなんだけど言い方」
怒るところそこなの?
「最近のお兄様は私を遠ざけているような気がしましたが、まさか」
子供かな?
いや子供か……やっぱり見た感じジャッジ君と同じ小学生みたいな様子だし。
確か兄妹が成長すると兄妹は別々で遊ぶようになるって友達から聞いたことあるし。
私とお兄ちゃん?
うーんそんな時期はなかったかなぁ。
それにその頃は、私とお母さんがお兄ちゃんで遊んでた頃だし。
「それで結局どうするの? いっそのこと全部公表しちゃう?」
「いえ……それだと私たち結社がただ勘違いで世間を賑やかせた集団みたいな認識になりそうで……」
もうなってると思うけど。
《でも最後の最後まで実際に社会を左右する戦いだと認知させておいた方が結社の方々に対する名誉のためにもなると思うのデス》
まぁ今公表すると笑いものになるかぁ。
「因みにそのイベントがそっち側の勝利で終わるとどうなるの?」
「私たち結社にゾーンリンクが運営する施設に対する永久VIP権が貰えますわ」
ごめん似たようなもの持ってるよ。
お兄ちゃんが。
「因みにイベント報酬の設定ってどうなってるの?」
「イベント報酬設定欄のようなものがあって、そこで様々な報酬が列挙されてましたわ」
それって自分でイベントを開催して自分でクリアしたら実質リワード級の報酬を毎回手に入れられるってこと……?
「いえ、イベント難易度によって設定できる報酬のランクも変わるので……」
まぁそこは都合が良くないかぁ。
よし、話を戻そう。ってか彼女の話を聞いて決めたことがあるんだよね。
「……私もリンちゃんに協力するよ」
「い、いいのですか?」
「お兄ちゃんともっと遊びたいって気持ちは分かるからね」
「エーシス様……」
「でも小学生に様付けされるのはアレだからちょっとやめてね……?」
「あれ? どうして私が小学生だと?」
「直感だね!」
「エーシス様は凄いですわねぇ」
「……」
《ドヤ顔をしてるデス》
コホン、まぁとにかく。
私たち妹同盟はしばらくの間真実の公表を控えて事の成り行きを見守ることにした。
このことはお兄ちゃんたちにも話さない。そう覚悟を固めた矢先だった。
「あれ、メール?」
「どうしたのです?」
これは……!
「レフェさんとジャッジ君が見知らぬ人たちにデュエルを申し込まれてるらしい」
「見知らぬ人たち……ですか?」
「曰く、結社の構成員だって」
「はぁ!? 結社の構成員はもう残り四天王と双極だけですわよ!?」
「あっ、本当に残りはそれだけなんだ」
「それにお兄様の命令で双極以下四天王の人たちは隠れて密かに署名カードを狩れって……」
通りで六芒星壊滅から四天王以上の目撃情報がないままだよ。
「もしや新たに加入させた構成員……?」
「とにかく確認しに行くよ!」
「は、はいですわ!」
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